第一章:瞬きをしない人形たち
四国へと向かう新幹線の窓から、秋の陽光が差し込んでいた。座席では、長男のエド(17)が熱心にカメラのレンズを点検し、愛子(15)はスマホに夢中、そして末っ子の朱里(13)は、父が最後にインドネシアから買ってきたお土産の小さなコモドドラゴンのぬいぐるみを抱きしめていた。
「いいか、向こうは電波が悪いからな。TikTokが見れないって文句言うなよ」
エドがカメラを愛子の顔に向けながら茶化した。
「げっ、エド兄! カメラ消してよ。寝不足で顔がゾンビみたいなんだから」
愛子は不満げに言ったが、反射的に指でVサインを作ってしまう。「大体、なんでお母さんはGoogleマップにもまともに載ってないような村に私たちを送るわけ? 名頃? 案山子の村? B級ホラー映画の舞台みたいじゃない」
朱里が小さく呟いた。「でも、おじいちゃんとおばあちゃんが会いたがってるってお母さん言ってたよ。それって、素敵なことじゃない?」
「十五年も音信不通だったのにか? 怪しすぎるだろ、朱里」
エドが皮肉めいた口調で応えた。
深い森と曲がりくねった狭い山道を抜け、長い旅の末に三人はようやく名頃に到着した。
冷たい空気が肌を刺す。しかし、彼らの総毛を逆立たせたのは気温のせいではなかった。道端の光景だ。古いバス停に、三人の人影が座っていた。だが、車が近づくにつれ、それが人間ではないことに気づく。粗末な顔が描かれた、等身大の案山子だった。一体は農作業用の帽子を被り、まるで見送るかのように縫い合わされた手を不自然に挙げていた。
「幽霊の谷へようこそ、ってわけか」
エドが囁く。その声は、カメラの録音マイクにしっかりと刻まれた。
祖父母の家は村の端にあり、庭には数百体もの案山子が散らばっていた。鍬を振るうような仕草のもの、葉の落ちた桜の木の下で円を描くように座るもの。
「おぉ、よく来たねぇ! お前たち!」
白髪を綺麗に結い上げた老女――ナナが、家から小走りで出てきた。その後ろには、ひどく腰の曲がった老人――ポップポップが、満面の笑みを浮かべて立っていた。その笑顔はあまりに深く、顔の皺がカミソリで切り裂いた跡のように見えた。
「みんな、光によく似ているねぇ」
ナナがエドの頬を撫でた。その手は枯れ木のように硬く、冷たかった。「特にその目、エド。鋭いね。まるで、すべてを見通そうとしているみたいだ」
最初の夜は温かかった。ナナの作った鍋料理は絶品だった。ポップポップが語る光の子供時代の話(時折、話の筋が通らないこともあったが、年のせいだろうと彼らは思った)を聞きながら、三人は笑い合った。
しかし、時計の針が午後九時を指した時、空気は一変した。
「エド、愛子、朱里」
ポップポップの声が低く、掠れた響きに変わった。彼は暗い部屋の隅に立ち、土汚れのついた古びた子供服を手にしていた。「この家のルールを忘れるなよ。二十三時三十分になったら、部屋の鍵を閉めるんだ。決して外に出るな。屋根裏や地下室から何が聞こえてきても……それはただの山ネズミだ」
「でもおじいちゃん、俺、夜中にお腹が空いちゃうんだけど」
エドが冗談を言って場を和ませようとした。
ポップポップは笑わなかった。ただ、瞬き一つせずにエドを凝視した。
「ここの山ネズミは……とても大きくて、危険なんだよ、エド君。暗闇の中では、会いたくないはずだ」
二十三時三十五分。
廊下から聞こえる奇妙な摩擦音で、エドは目を覚ました。隣では、布団の中で愛子と朱里が深く眠っている。ドキュメンタリー作家としての好奇心が、恐怖を上回った。彼はカメラを手に取り、ナイトビジョン・モードを起動させると、部屋のドアを僅かに開けた。
薄暗い廊下の突き当たりに、ナナがいた。
老女は歩いてはいなかった。彼女はその年齢からは考えられない速さで、壁を這い回っていたのだ。彼女は隅に置かれた大きな案山子の前で止まった。
ナナは案山子の頭を撫でながら、何事か囁き始めた。
「我慢しておくれ、いい子だね。もうすぐ新しい服ができるよ。あの子たちの皮はまだ瑞々しい……とても、瑞々しいよ」
突如、ナナの首が百八十度回転し、エドのいる部屋の方を向いた。
エドは息を呑んだ。カメラの青白い液晶画面越しに、彼は見た。ナナが黒い歯茎を剥き出しにして歪にニヤリと笑い、禁じられた地下室の闇へと再び這い戻っていく姿を。




