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陰陽の壺

 派手な服装に比べ比較的まともな顔立ちだが、しゃべり方がおかしい。

 最も、それを聞いていた女にとっては、神の声にでも聞こえるらしい。

 「ありがとうございますぅ」

 と連発し、さらに大声で泣き出して、化粧が溶け出した黒い涙をぼろぼろこぼし始めた。


 よく見ると女は、年の頃は50歳をゆうに超えているセレブなおばさまのようで、顔を覆う両手の指には大きな宝石のついた金の指輪が何個も光っている。

 それを見た紫のラメ服男は、細い目をさらに針のように細く光らせた。


 しばらく、女の泣くがままにまかせ、泣き声が鼻水のすすり音に変わった頃に、ラメの紫服男が口を開いた。

 「奥様、今日は奥様にすばらしいものをご紹介いたします。奥様のように、周りの陰陽のバランスが不安定な方にとても良いものです。」

 そう言いながら、ベランダに転がっていた花瓶と同じものを、うやうやしく女の前においた。

 ベランダの花瓶と違うところは、口が油紙でふさがれ縁の部分を金色の紐で縛ってあるぐらいだ。


 「これは『陰陽の壷』といって、陰と陽のバランスが崩れたときに、余分な方の気を溜めてくれる壷なのです。また、余分な気だけではなく、いつの間にか忍び寄ってくる邪気も溜めることができます。邪気というのは本来、奥様のような清らかな人は本能的にわかるものです。なんか変だなと思ったらこの壷に向かって息を吹きかけてください。壷は邪気を吸い取って溜めてくれます。」

 さっきまで大声で泣いていた女は、狸のようなメイクになった顔をレースのハンカチで拭きながら、キョトンとした目つきで壷を見つめた。


 「陰陽のバランスが取り戻せると、彼氏が戻ってくるかもしれませんね」

 ラメの紫服男がさりげなく言った一言に、女はピクリと動いた。

 「お・お幾らかしら?」

 女は左手で顔のハンカチを押さえたまま、右手でハンドバックの中の財布を探し始める。


 「そんな・・お金なんていりませんよ。悪徳霊感商法じゃあるまいし・・・、まあ、ただで差し上げるのもなんですから、お貸しするということでいかがでしょうか。どうぞお持ち帰りください。」

 女のハンドバックを探る手が止まった。


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