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第96話 生石灰の発見と隠密配達員

「うん……いいかんじ……」


カイトは完成した温泉の庭の前にしゃがみ込み、景色を堪能していた。


(山脈をバックに竹林は風情がある。あとは『竜のヒゲ』みたいな植物が山に生えとらんかのぅ。この石垣の間にちょこっと緑があると映えるんじゃがな)


カイトは、竹林に近づくと竹の葉っぱを取って、敷き詰められた白い玉砂利に緑を当てて配置を見ていた。


…が、ふと気になり、玉砂利を一つだけ拾い上げた。


表面は少し粉っぽく、引っ掻くと白い粉が僅かに削れる。

(……山から流れ落ちて削られた丸石。そしてこの質感……これはただの石じゃないぞい!)


カイトはハッとして立ち上がると、白い石を両手いっぱいに抱え込み、短い足で鍛冶屋へ向かって走り出した。


「はぁ…はぁ…バルカスのおじちゃん! この石、おじちゃんの火でまっかになるまで やいて!」


「はぁ? 石を焼く? まぁできなくはねえが……」

首を傾げながらも、バルカスはふいごで空気を送り、白い丸石を超高温で熱した。


やがて真っ赤に焼き上がった石を土間に転がす。


「うん! じゃあ、ここにお水をちょろちょろって、かけて!」

言われるがまま、バルカスが柄杓で水を垂らした。


――ジュワアァァッ!!!


激しい沸騰音と共に、猛烈な湯気が噴き上がる。

さっきまで硬かった丸石はボロボロと崩れ落ち、あっという間に真っ白な粉へと姿を変えた。


「な、なんだこりゃ!? 石が崩れて粉になっちまったぞ!?」


バルカスが目をひん剥く中、カイトは一人で歓喜に打ち震えていた。


(……ビンゴじゃ!! 焼き上がった石灰岩に加水して水和熱が発生した。正真正銘、現代土木の反則素材『生石灰せいせっかい』じゃわい!! これと土と水を混ぜれば、底なし沼すら一瞬で岩盤に変えられる!)


「おじちゃん、おねがい! これからまいにち、ダンのところでとれた白い石をずーっと焼いて! そしたら道づくりがすっごく早くなるの!」


「ま、待て待て坊ちゃん! そんな大量の石を毎日焼いてたら、肝心の『鉄』を打つ暇がなくなっちまう! 鍛冶屋が廃業しちまうよ!!」


(……確かに。生石灰を作るには長時間焼成しなきゃならん。旅館の金物生産がストップしては本末転倒じゃな)


「じゃあ……お宿をささえる、ちかのパイルのぶんだけ! おねがい!」


「……ぐっ。旅館の分だけだな? しょうがねえ、夜通しでなんとか焼いてやるよ」


言質を取ったカイトは、「ありがとう!」と手を振ると、その足で猛ダッシュし、バッカスの工房へと駆け込んだ。


***


「……できた穴に、この『こな』と『ドロ』を入れて、中で竜巻を起こして混ぜて固める、だと?」


机に広げられた仕様図面を睨みつけ、バッカスは呆れたように眼鏡をクイッと押し上げた。


「見えない地底の泥を、魔法の風で直接かき回す……それ、思いっきり局所にしか使えねぇ魔法じゃねえか。ったく坊主は、レアな魔法ばかり注文しやがるな」


「えへへ。でもね、これがないとお宿がたてられないの!」


(地上で生石灰を混ぜれば熱で大火傷じゃ。じゃから、地面の穴をそのまま『フタ付きのミキサー』にするんじゃ!)


「……チッ、調子のいいガキだぜ。だが坊主、二つ問題があるぞ」

バッカスは図面を指でトントンと叩いた。


「まず一つ。土魔法で無理やり周りの土を広げて縦穴を作っても、綺麗な筒にはならねえ。壁はボコボコでいびつな形になっちまう。それに二つ目だ。穴の中で竜巻を起こして混ぜれば、どうしても空気を巻き込んじまうぞ。風属性だからな」


その指摘に、カイトは黄色いヘルメットを揺らしてニッシッシと笑った。


「えへへ、土はそれでいいの! 柱のまわりがボコボコの方が、土とガチッてかみあって、ぜーったいに下に沈まなくなるんだよ!」


「ふん、そっちのが好都合ってことだな。じゃ空気はどうする?」


「それね! 今のまほう(圧密)で上からギュってすれば、空気もぬけるとおもう」


(生石灰の猛烈な熱で、泥の水分が強制的に飛ぶ! そのタイミングで、あの圧密魔法を被せるんじゃ!土の粒子が極限まで噛み合った、『生石灰パイル』の完成じゃわい!!)


「……!!」


カイトの言葉に、バッカスは息を呑んだ。

魔法の欠点である「いびつな形」を摩擦力として利用し、「空洞」を別の魔法で圧縮して強度に変える。


「……ハッ。魔法の欠点を全部ひっくり返してきやがった。クハハッ! 良いぜ坊主、そのレアな魔法は俺が形にしてやるよ!」


バッカスはひとしきり大笑いすると、真剣な顔つきに戻った。


「だが、大槍に新しい魔法陣を組むには触媒になる『魔石』が要る。今回は『土』と『風』の二つだ」


「あ! 『きいろい石(土の魔石)』なら、あるよ! パパがもってたあれでしょ?」


「おおっ、そういやサジが泥から見つけた魔石があったな。あれを使えば土魔法はいける。……だが、問題は『風の魔石』だ。こんな泥沼じゃまず見つからねえぞ」


バッカスは険しい顔で腕を組む。


「……王都で買うより、ハルバードにある俺の工房から取り寄せた方が確実で早いな。留守を任せてる弟子のゼノスに手紙を書けばすぐに持ってくるはずだ」


「あのね! じゃあ、すぐにお手紙かいて!」


「おう、書くのはいいが……どうやって手紙を出すんだ? 村に郵便馬車なんて来ねえだろ」


(……ふむ。インフラ未整備は致命的じゃ。親父はどうやっとるんじゃ?)


「パパにきいてみる!」


カイトはトテトテと走り出し、屋敷の執務室に飛び込んだ。


「パパ! バッカスのおじちゃんが、ゼノスさんにお手紙だしたいんだって!」

「ん? バッカスの使いか」


書類仕事をしていたアルベルトは、優しく微笑んだ。


「ちょうど良かった。明日、義父様の『隠密護衛』の方が、定期報告のためにハルバード方面へ向かう。彼らに手紙の配達を頼もう」


「おんみつさん?」


(……なんと! 子爵の隠密部隊をウチの『特急便』代わりに使っとったんか!)


カイトはそれを聞くとバッカスの工房へ戻った。


「おじちゃん! パパがね、子爵さまの『おんみつさん』が一緒に届けてくれるって!」


「……はぁ!? 子爵様の隠密を郵便配達員扱いしてんのか!? この村の領主はどうなってんだ……!」


呆れ半分に天を仰ぐバッカスに、カイトは無邪気に笑いかける。


「じゃあおじちゃん! お手紙に『大急ぎでもってきて!』っていっぱい書いてね!」


「へいへい。悪魔みたいな現場監督の要求に合わせて、キツく書いといてやるよ。……ゼノスの奴、泣きながら飛んでくるだろうな」


バッカスは苦笑しながら、羊皮紙に向かってペンを走らせた。


***


ハルバードの裏路地。ベルノー子爵の隠密は、抜き身の刀を手にして舌打ちした。

ハルバード城からの帰り道、尾行してきた侯爵派と思われる隠密に気づき、逆に追跡をかけたが、職人街の所で見失ってしまった。


「……チッ。逃したか。先にバッカス殿の使いを済ませるか」


彼は周囲に殺気を放ったまま、目の前にある『バッカス魔導工房』のドアを力強く叩いた。


ドンッ! ドンッ!! ドンッ!!!


一番弟子のゼノスは、その日の精密作業を終わらせベッドで泥のように眠っていた。


「……んん? なんだこんな夜更けに……」


ゼノスは寝巻き姿でフラフラと歩き、無防備に玄関のドアを開けた。


「はいはい……ヒッ!?」


そこに立っていたのは、抜き身の刀を持った黒装束の男だった。

一瞬で睡魔が吹き飛ぶゼノス。


男は空いた手で懐から一通の封書を取り出した。


「……フェルメール領、泥靴村より。貴方の師、バッカス殿からの『火急の密書』だ」


ゼノスが震える手で受け取って顔を上げると…。


「居た!」


男は抜き身の刀を持ったまま、夜の闇へ猛ダッシュで走り去っていった。


「…………えっ? 師匠は一体どんな恐ろしい陰謀に巻き込まれて……ッ!!」


ガクガク震えながら急いで鍵を閉め、ゼノスは祈るように手紙を開いた。

そこには、師匠の乱暴な字で短くこう書かれていた。


『これを読んだお前が、何もせずに放置したら、本当にやばいことになるかもしれない…すぐに風の魔石を持ってフェルメールに来い。バッカス』


「ヤバい。寝てる場合じゃない。馬車? いや早馬だ!」


ゼノスは急いで工房に入ると、一番大きい風の魔石を掴み、上着を羽織って夜の街を走り出したのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

工事はサクサク進み、いよいよ100話まであと少し!


これまで「一日二話」の突貫工事でお届けしてきましたが、

マットのストック残量低下につき、本日から『安全第一』のため

年一回更新へ移行させていただきます。(エイプリルフール)


面白かった、続きが楽しみ!と思っていただけましたら、ブックマークや評価で

応援してもらえると、作者のマット編みスピードが加速するかもしれません。

そして100話突破記念の大判振る舞いで10話くらい一気に投稿しちゃうかもしれません。


明日? いや今日ですね。4月1日19時10分更新予定です。

引き続きよろしくお願いいたします。ご安全に!

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