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第85話 マリーの魔力と監督の悪巧み

1ヶ月記念の本日五話目です。

ピカピカに仕上がった黄色い泥だんごを見て、マリーはパッと花が咲いたような笑顔を見せた。


「じゃあ、これも あげる!」


カイトが、最初に作ったもう一つの真っ黒な「魔法の石(泥だんご)」も一緒にマリーの小さな手へ乗せようとした、その時だった。


『ピリッ』


カイトの指先に、静電気にも似た微かな刺激が走った。

(……ん? 静電気か?)


乾燥した冬場ならともかく、ここは泥だらけの湿地である。気のせいかと思い、カイトはもう一度泥だんごを渡そうとした。


『ピリッ』

再び、明確な刺激が指先を弾いた。


(なんじゃ? 何が起きとる? 静電気じゃないぞい。静電気なら、こんな短い時間で帯電せんじゃろ。じゃあ、この刺激はなんだ?)


カイトは首を捻り、目の前の少女に尋ねた。


「まりーちゃん、いま、ピリって した?」

「ううん、なにもしないよ?」


マリーは不思議そうに小首を傾げている。

(どうやら静電気じゃなさそうじゃな、ワシだけしか感じないのはおかしいわい!)


「カイト様、頭痛はもう治ったんですか?」

そこへ、屋敷の用事を済ませて通りかかったリーザが声をかけてきた。


「うん、もう へいき! ねぇ、リーザ。まりーちゃんに これを あげようとしたら、ピリって するんだ。なにか しらない?」


カイトの問いに、リーザは少し驚いたように目を瞬かせた。


「カイト様が、ピリッとしたのですか?」

「うん!」


リーザは少し考える素振りを見せた後、ポンと手を打った。

「なるほど……。なら、マリーちゃんをバッカスさんのところに連れて行ったほうが良いかもですね」


「え、なんで?」


「たまに、無自覚に魔力を流してる子がいるんですよ。カイト様は魔力が膨大すぎて、自分の『洪水』に慣れきってる分、他人の微かな魔力の揺らぎが逆に強く感じ取ってしまうかも知れないですね。静かな部屋で小さな音がやけに響くみたいに……。もしかすると、マリーちゃんは魔法使いの素質があるかもです」


「まほうつかい……!」


マリーの瞳が、驚きと期待でキラキラと輝いた。


カイトは早速マリーの手を引き、工房で図面を睨んでいたバッカスの元へと向かった。


***


「はぁ? このお嬢ちゃんの基礎測定をしてくれだと?」


事情を聞いたバッカスは、あからさまに嫌そうな顔をしてカイトを見下ろした。


彼の脳裏には、例のトラウマが鮮明に焼き付いているので、基礎測定という言葉に敏感に反応した。


「バッカスのおじちゃん、おねがい! まりーちゃんの まほう、みたい!」


「……ちっ。まあ、このお嬢ちゃんから坊主みたいな異常な『圧』は感じねぇが……念のためだ。絶対に安全な石を使うぞ」


バッカスは渋々といった様子で、棚から淡い水色をした小さな魔石を取り、マリーの手に握らせた。


「お嬢ちゃん。これは『水』の魔石だ。ちょっとだけ、石の奥を覗き込むように念じてみな」


マリーが緊張した面持ちでコクリと頷き、魔石を両手で包み込む。


すると、魔石がふわりと青い光を放ち、マリーの持つ魔石から、清らかで冷たい水がチョロチョロと溢れ出した。


「おっ、出た出た。こりゃあ間違いない、魔法の素養があるぜ。しかも魔力の通りが素直で綺麗だ」


バッカスはホッと胸を撫で下ろし、マリーの頭をポンと撫でた。


「すごいね、まりーちゃん!」

「うん……! お水、でた……!」


マリーは手から溢れる水を見て、嬉しそうに微笑んだ。


「いいか、お嬢ちゃん。今、その魔石と体の中の『繋がってるところ』を探ってみろ。どこから力が湧いてきてるか分かるか?」


バッカスに言われ、マリーは目を閉じて自分の体を感じ取り、やがて小さなお腹の辺りを指差した。


「ここ……ここが、あったかいの」


「正解だ。そこにお前さんの『魔力溜まり』があるんだ。それを、自分のお腹の中でこねるように意識してみろ。そうやって毎日少しずつ鍛えれば、魔力溜まりは大きくなっていくぞ」


魔法使いとしての第一歩を教えるバッカス。職人らしい、的確で優しい指導だった。


だが、次の瞬間、バッカスはカイトの方へと顔を向け、血走った目で釘を刺した。


「……いいか、坊ちゃん。今の話は坊ちゃんには絶対禁止だからな! お前はこれ以上、絶対に魔力溜まりを大きくするなよ! 頼むから! 国が滅ぶぞ!」


「えーっ」と不満げに唇を尖らせるカイトを無視して、バッカスはリーザに向かって言った。


「しかし、良かったな。魔法の素養があるなら、十歳になれば『魔法学校』に入ることができるぜ。そこで魔力溜まりを大きくしながら、魔石関係の基礎をみっちり学べるからな。立派な魔導師になれるかもしれねえぞ」


その言葉を聞いた瞬間、カイトの耳がピクリと動いた。

(……ほう? 魔法学校、とな?)


カイトの脳内で、先ほどまで絶望の象徴だった『学校』というワードが、急激に色彩を変え始めた。


(……ふぉふぉふぉ。退屈なマナーや歴史をやらされる『貴族院』は御免じゃが、魔導の専門機関となれば話は別じゃ。そこには、魔法と物理法則を掛け合わせた未知の実験材料が山のようにあるはず……そっちの現場なら、最高に面白いかもしれんのぅ!)


先ほどまでの「あと五年しかない」という絶望の頭痛など完全に吹き飛んでいた。


むしろ、「魔法学校で無双するために、あと五年も準備(工期)がある」とでも言いたげな、いかにも現場監督らしい悪巧みに満ちた笑みが浮かぶ。


マリーの魔法の発現は、カイトにとって『貴族院からの合法的な逃亡ルート』という、思わぬ希望の光をもたらしたのだった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

以上、五話連続投入でした。

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「もっと、マットを投入して!」と思っていただけましたら、

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次の更新は0時10分です。

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