第78話 南北対抗! 泥靴村の爆速復旧作業
「じゃあ、今日の おしごとは、おかたづけだよ!」
カイトは再び木箱の上に立ち、百人の男たちを見渡して元気よく宣言した。
「あらし(嵐)で、とんだ ゴミをあつめて、やね(屋根)も なおすよ」
「「「はいッ!! 監督ッ!!」」」
(よし、いい返事じゃ。現場の基本は『整理整頓』じゃ。災害後の復旧作業を甘く見ると、足場が悪くて二次災害に繋がるからな。道づくりは水が引いてから。まずは生活基盤を立て直すのが先決じゃ)
カイトの指示が飛ぶや否や、南部百人衆は恐ろしいほどのスピードで動き始めた。
「第一班は沼からテントと資材の回収! 第二班は村中に散らばった倒木の撤去だ!第三班は昨夜ぶっ壊れた長屋の屋根の修理に向かえ! 大工衆の指示を仰いで手伝え!」
マルコが部隊を振り分け、大男たちが村中を駆け回る。
昨夜の嵐で太い枝が直撃し、屋根が半壊した長屋では、ゴドー組の大工たちと共に南部の男たちが木板や角材を軽々と担ぎ上げ、あっという間に補修作業を進めていく。
沼にプカプカと浮いていた彼らのテントや私物も、長い棒を使って次々と引き上げられ、広場の端のロープに並べて干されていった。
彼らの働きぶりは、昨日までの「やらされている感」が完全に消え去り、凄まじい熱量を持っていた。
「……すごいっすね、あいつら。昨日の夜は嵐で一睡もしてないと思うんすけど」
村の古参工兵であるガンタが、目を丸くしてその光景を眺めている。
隣にいるサジや、ボルドー東村から加わった工兵たちも、南部の異常な士気に完全に圧倒されていた。
その時だった。
「……フッ。何を口を開けて見ているんだい、君たち」
背後から、演劇がかった口調の声が響いた。
ガンタたちが振り返ると、そこには黒い作業着に身を包んだロバートが立っていた。王都から来たばかりの彼は、今日から正式にこの「泥靴工兵隊(仮)」の隊長を務める男だ。
「ロ、ロバート隊長!」
「監督の威光にアテられて、すっかり新入りたちに気圧されているようじゃないか。……古参である我々『北の泥靴工兵隊(仮)』が、南からの客人たちに後れを取るわけにはいかないだろう?」
ロバートは口端をニヒルに吊り上げると、工兵たちをぐるりと見渡した。
「さあ、見せてやろうじゃないか! 俺たちがこれまでに、どんな奇跡を成し遂げてきたのかを! 行くぞ、野郎ども!」
「「「うおおおおッ!! 南に負けるなァ!!」」」
ロバートの煽りに火をつけられ、工兵隊の男たちも血走った目で作業に飛び出していった。
結果として、泥靴村は「南部の精鋭」対「北の泥靴工兵隊(仮)」という、プライドを懸けた異常な復旧作業の様相を呈することとなった。
(……ふぉふぉふぉ! ロバートの奴、見事にあいつらの尻を叩いて競争心を煽りおったな。ライバル同士を競わせて作業効率を限界まで引き上げる……まさに組織の活性化じゃわい!)
カイトは、村中で土煙を上げて爆速で片付けられていく倒木や瓦礫を眺めながら、ヘルメットの下で満足げにニヤリと笑った。
だが、異常な熱気を帯びていたのは工兵隊だけではない。この日、泥靴村のあちこちで、村人たちが総出となって忙しなく動いていた。
鍛冶場からは、「そこだ眼鏡ヒグマ!」「テンポがズレてるぞエプロン熊!」という相変わらずの怒鳴り声と共に、バルカスとバッカスが凄まじい速度で修繕用の釘やカスガイを打ち出す音が響いている。
崩れた土留めの前では、石工のダンが「おい騎士様たち! 腕じゃなく腰で持ち上げないと腰を痛めるぜ!」と、普段は警備を担うラインハルトたちを容赦なくアゴで使いながら、ズレた石を次々と組み直していた。
大工のゴドーは、ボルドー東村から来た難民の大工や、割り当てられた南部の男たちを瞬時に束ね上げ、的確な指示で半壊した家々の修繕を驚異的なスピードで進めていく。
そして、広場の真ん中では――。
「さあアンタたち! 復旧作業の要は『食』よ! ガンガン煮込むわよぉ!」
ドーン! と巨大な大鍋を据え付けたゴンザレスを筆頭に、村の女衆による大規模な炊き出しの準備が始まっていた。
その中には、村へ越してきたばかりのアメリアの姿もある。彼女はエプロン姿で手際よく野菜を刻み、すでに村の女たちとすっかり打ち解けていた。
「マリーちゃん、こっちのお皿をお願いできる?」
「……うん! おねえちゃん」
人見知りだった小さなマリーも、リーザと一緒に食器を運んで一生懸命にお手伝いをしている。
その活気に満ちた光景を、エレナはミレーヌの手を引きながら「総監督」として優しく見守り、足りない物資があれば的確に指示を飛ばしていた。
嵐の被害というピンチすらも活力に変えて。
泥靴村は今、領主の家族、新旧の領民、職人、騎士、魔導刻印師、そして王都からの劇薬が一つに混ざり合い、かつてないほどの凄まじいエネルギーを放っていたのである。
その活気に満ちた広場の端に、一台の荷馬車が滑り込んできた。
「皆様。復旧に必要な荒縄や布、それに塩や油などは、すべて儲けなしの『原価』で置いておきます。どうぞ必要なだけお持ちください」
声を張り上げているのは、すっかりこの村の専属御用商人となったモーガンである。
彼は生活必需品を飛ぶように配り終えると、荷台の奥から大きな木樽をいくつか引っ張り出し、ゴンザレスの炊き出し現場へと運び込んだ。
「マダム。作業が終わりましたら、ぜひ皆さんで召し上がってください。ハルバードで仕入れてきたエール酒です。これは店からの差し入れです……」
「あらぁん! モーガンちゃん、気が利くじゃないのぉ!」
広場の端でその様子を眺めていたカイトは、パパの服の裾をクイッと引き、トコトコとモーガンの方を指差した。
「パパ、みて! モーガンおじちゃん、お酒もってきてくれたよ!」
(……ふぉふぉふぉ! さすがはモーガンのおっちゃん、商人の鑑じゃのう。泥炭でボロ儲けした金で、酒や物資を大量に仕入れていたわけじゃな。敵からむしり取った金で、うちの現場の士気を上げる……まさに完璧な資金循環じゃわい)
そんなカイトの黒い内心など知る由もなく、アルベルトはモーガンの心意気に感心したように、ふっと苦笑いを浮かべた。
「……まったく。新入りの商人にここまで気前良くされては、領主としての面目が立たないな」
アルベルトは近くで瓦礫を運んでいた工兵隊の一人を呼び止めると、ポンと肩を叩いた。
「おい、屋敷の地下室へ行け。あそこにあるエール酒の樽を、全部この広場へ運び出すんだ。……復旧が終わったら、全部飲んでかまわん!」
「ッ!! ほ、本当ですか旦那様!? うおおおおッ!! みんな聞け! 今夜は旦那様とモーガンさんからエールを貰ったぞ! 復旧が終わったら全部飲んでいいって話だ! 今日中に終わらせるぞー!!」
「「「うおおおおおおッッ!! 泥靴村最高ッ!!」」」
エール酒の差し入れという、土方(男たち)にとって最強の「ガソリン」が投下されたことで、泥靴村の復旧スピードはさらに常軌を逸した次元へと加速していくのだった。
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