第61話 泥沼に突き刺せ!宿場町の基礎
残りストックが三話になってっしまいました。投稿ペースを一日一話に変更します。
「パパ、 おっきなおふろ(風呂)が、またできるね!」
カイトが指差す先では、岩の裂け目からこんこんと温泉が湧き出し、周囲の泥を洗い流して澄んだ湯だまりを作っていた。
「ああ、本当に温泉が湧いているな。……だがカイト、こんな湿地のど真ん中に温泉があっても、誰も入りに来ないんじゃないか?」
アルベルトが不思議そうに首を傾げると、カイトは無邪気な笑顔で、とんでもないことを言い放った。
「ううん、パパ。ここに『おやど(宿)』をつくるんだよ! そしたらみんな、おふろ(風呂)に、入れるでしょ?」
「……お宿、だと?」
アルベルトとバッカスが、同時に目を丸くする。
(……クカカッ! 驚いたかパパ。街道を通すだけなら、正直言って時間をかけて『粗朶』を沈ませていけばいつかは完成するんじゃ。だが、ワシの狙いはこの温泉を利用した『宿場町』の開発! 建物を作るとなれば話は別じゃ!)
カイトは、落ちていた木の枝を拾うと、土に丸や線を書き始めた。
(道と違って、重い建物を建てる場合、地盤がゆっくり沈んでいく『圧密沈下』が一番の敵になる。家が傾いて倒壊してしまうからな。数年かけて泥の水分が抜けるのを待つなんて、悠長なことはしてられん。……だからこそ、あの莫大な金がかかる『大槍』が必要じゃったんじゃ!)
「あのね、バッカスおじちゃん! ドロが、やわらかいうちに、 おうちを、た(建)てたら、おうちがズブズブ しず(沈)んじゃうでしょ? だから、これで『ギュッ!』てして、しず(沈)まないようにするの!」
バッカスがハッとして、自身の持っていた大槍の設計図と、カラス大岩の周辺を見渡した。
「……おいおい、そういう事かよ坊主。お前、この大槍の魔法で、泥の数年分の沈み込みを『一瞬で終わらせて』、家を建てられる強度の地盤を無理やり作ろうって思ってたのか……!?」
「うん! でもね、ぜんぶのドロをギュッてするのはたいへん!それに
ぜんぶ、やらなくてもいいところが ここにあるの」
カイトは枝で、カラス大岩から少し離れた場所をトントンと叩いた。
「こっちには、ポツポツって『かたい土』がいっぱいあるでしょ? だから、おんせん(温泉)とおやど(宿)はちょっとだけ はな(離)すの!」
アルベルトが、カイトの描いた図面と実際の地形を見比べる。
温泉の湧く大岩の周辺には、確かに飛び石のように「草の生えた固い陸地」が点在し、中には屋敷一軒が建てられるくらいの島もあった。
「……なるほど。すでに固まっている陸地を基礎にして、その間の泥だけを大槍の魔法で固める。そして凹んだ隙間に、マットではなく『木の束(粗朶束)』を充填して平らに繋ぎ合わせる……。そうすれば、温泉のすぐそばに、巨大で沈まない『宿場町の土台』が完成するというわけか……!」
「そうだよ、パパ。それと、お(湯)の道をつくって、そこを、大きな おふろ(風呂)にするんだよ」
「ん? 今、湧いているところに入るのではないのか?」
アルベルトの純粋な問いに、カイトは首を横に振った。
「ちがうよ! あそこは『あつすぎる』し、ちっちゃいでしょ? だから、みんなではいれる『おっきなおふろ』は、べつのところにつくるの」
「別のところ? だが、どうやってお湯を……」
「おゆが、すべりだいみたいに ながれるようにするの! でもね、おゆがどこまで上にのぼってくるか みないと、おふろの場所は、まだきめられないんだよ」
(源泉なんぞ、クソ熱くて入れんわい! それにあんな小さな所に何人、入れる気じゃ。少し離した所に大きな湯船をつくってやれば、大勢で入れるし、湯枠を通せば適温になるわい。何より自噴圧がどれだけあるか、まだ分かっとらん。それによって湯船を作る位置を変えてやらんと、勾配で流れなくなるわい)
カイトの頭の中では、すでに青写真が完成していた。
自噴するお湯がどこまで盛り上がるかを確認し、そこから逆算して、完璧な勾配が取れる場所に大きな風呂を配置するのだ。
アルベルトの顔に、単なる「道作り」ではない、莫大な利益を生む「領地開発」の全貌が見えた興奮が広がっていく。
「はぁ……五歳のガキが、温泉街の都市計画まで頭ん中に描いてたってのか……とても信じられねぇぜ。でも、最高じゃねぇか!」
バッカスが、呆れと感嘆の混じった溜息をつき、指で眼鏡のブリッジを押し上げた。
「じゃあ、つぎは、このまわりを、うめていくよ!」
カイトが手を挙げながら指示を出す。
「「はいっ、監督!!」」
工兵達が一斉に返事をする。
「ヤリを もってきて! ここから やるよ!」
「持って来ましたっ!」
ガンタとサジが、『ミスリルの大槍』を移動させてきた。
「遅えぞお前ら! さあ、よこせ! ここがフェルメール領の命運を分ける、最初の杭打ち現場だ!」
バッカスがその「大槍」をヒョイと持ち上げると、ポッカリと口を開けた泥沼にズブっと突き刺した。その大槍の頂部に、カイト用に作った「二つの魔石」をガシャンッ!と乱暴にセットする。
「じゃあ、いくよ!」
(……さあ、いよいよ本番じゃ。ワシら土木屋の夢、何もない荒野(湿地)に巨大な街の基礎を打ち込む、最高の大仕事の始まりじゃぞ!)
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