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第62話 規格外の出力!震える魔導刻印師

カラス大岩の周辺。


底なしの泥が広がるその場所に、パパが伯爵から引っ張ってきた莫大な予算の結晶、ミスリルの大槍が突き立てられた。


大槍の頂部にセットされた「水」と「土」の二連魔石タンデムに、カイトの魔力が注ぎ込まれる。


(……クククッ! さあ、今度こそ本番じゃ!以前の実験では、範囲を絞って成功させた後、調子に乗って一気に広げようと、沼のど真ん中を狙ったのが大失敗じゃった。まさか水面で魔法が弾かれて、全員泥まみれになるとは思わなかったからな……)


カイトは目の前の沼を見据え、魔力のバルブを開いた。


(だが今回は違う! この『ミスリルの大槍』が、ワシの魔力を泥の奥深くまで届ける導火線になっとる。つまり――もう水面での暴発を気にせず、最初からエンジン全開でいいってことじゃ! これなら手始めに半径三メルくらい、一気に行けそうじゃわい!)


「おみち、かたくなれ……えいっ!」


カイトが幼児特有の高い声で気合を込めると、二つの魔石が明滅し、バッカスが彫り込んだ『向水ドロー』と『不動ホールド』の術式が起動した。


ギュルルルゥッ……!!


ミスリルの槍身を伝って、泥の奥深くで術式が解放される。


大槍を中心とした半径三メルほどの範囲から、泥の中に含まれていた水分だけが強制的に吸い上げ、濁った水となって溢れ出してくる。


前回の発動時のような、水面での無駄な「暴発」は一切ない。すべての魔力が、地盤改良のためだけに使われているのだ。


(ほうら、水が抜けていくぞ! そして水分が抜け、崩れそうになる土の層を『不動』の術式がガッチリと支える。あとは……!)


カイトが魔力をスッと引く。


だが、魔法はすぐには消えない。バッカスが組み込んだ円環の術式が魔力の余韻を残し、『不動』の力がため息をつくように、じわじわと弱まっていく。


……ズゥゥン……!!


魔法の支えが弱くなり、ゆっくりと土の粒子たちが「自らの重み」で落ちていく。一番収まりの良い場所を探り当てるように、パズルのようにガッチリと土が噛み合っていく音が響いた。


数分後。


あれほどズブズブだった泥沼は、今は一段沈み込み、表面に水が浮いた地面へと変わっていた。


「パパ、みてみて! 中はカチカチだよ!」


カイトが傍らにあった「検尺棒けんじゃくぼう」を泥に突き刺した。

ブレスレットの実験の時と同じように、三分の一も入らないところでガツッ!と固い手応えを返したのだ。


「……成功、だな」

アルベルトが、信じられないものを見る目で周囲を見渡した。


「一年の工期を、ミスリルで買う」という彼の決断が、今、目の前で完璧な形となって報われたのだ。


「……おい、マジかよ」


バッカスが、自分が組み上げた大槍の威力を目の当たりにして、呆然と口を開けている。


(……出力、半端ねぇ……)


魔法が成功したこと自体には驚いていない。「大気中を通らない分、ロスが消える」ことなど計算通りだ。


彼が驚愕しているのは、カイトが発揮した「デタラメな出力エンジン」だった。


(……やっぱバケモンだな。実験じゃ直径一メルだったってのに、今回は半径でも三メルはある沼だぞ。それを寸分の狂いもなく泥の水分を吸い上げやがった。しかも……)


バッカスは、大槍に手を添えたまま無邪気に笑う五歳児を見た。


背筋に冷たい汗がツーッと流れた。


(待てよ。俺、警告したよな。『これ以上魔力の器をデカくするな』って。

なのにこの余裕……まさか隠れて鍛え続けてんじゃねぇだろうな!?)


副業で子供の魔力指導やってるから、嫌でも分かる。

今がまさに黄金期だ。


ただでさえ規格外なのに、この時期にさらに伸びたら……もう耐えられる魔石なんて、この世から消えるぞ!

(ふざけんな……頼むから、もう成長すんなっ!)


絶望的な未来が頭に広がり、バッカスは大口を開けたままフリーズした。


「……おじちゃん? どうしたの?」


カイトの声でバッカスはビクッと我に返った。

周りが全員、不思議そうな顔でバッカスを見ていた。


(……やべっ!)


慌てて咳払いし、眼鏡をクイッと押し上げた。


「……あ、当たり前だ。誰が打った槍と組んだ術式だと思ってやがる。ロスなく底まで届けるくらい、ぞ、造作もねぇよ……」


声が盛大に上ずって裏返っていたが、カイトは気にした様子もなくニコニコと笑った。


「うん! おじちゃんのやり(槍)、すごいね!」

「大成功だな。次に行こう!」


カイトが、まるで公園の砂場で遊ぶような気軽さで、大槍を引き抜くように大人たちに指示を出す。


こうして、源泉の周りは、先程まで底なしの湿地だったのが嘘だったかのように、何もない強固な「水たまり」が次々と作られていった。


一方で、バッカスの不安は、埋まるどころかますます、泥沼のように深くなる一方だった。


(本当に、頼むから、もうこれ以上成長しないでくれっ!)



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