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第169話 見つかってしまった現場監督!

およそ一ヶ月前、ハルバード伯爵が軍務局本部に提出した『緊急時即時破棄型・戦略道路』の認可申請書に関する報告が、公爵のもとに届いていた。


公爵は、それを受けて一人の工兵武官を呼んだ。


そして今日、王都、軍務局トップであるケッセルベルク公爵の執務室。

フェルメール領の新しい道と、南街道(直轄街道)の接続認可を下すか否か。


その判断材料を得るため、ケッセルベルク公爵は現場に潜り込ませていた間諜(工兵武官)から報告を受けていた。


「……単刀直入に聞く。ヴァロワは『欠陥道路だ』と騒いでいるが、フェルメールの新しい道は使い物になるのか? 直轄街道に接続して、我が国のインフラとして機能する水準にあるのか?」


片膝をついたままの工兵は、顔を上げてはっきりと答えた。


「結論から申し上げます。あれは欠陥道路などではありません。何十台もの重馬車が通ってもビクともしない、完璧な強度の街道です。……いえ、それどころか、あれは我が軍でも喉から手が出るほど欲しい『防衛要塞』です」


「要塞、だと? ただの泥沼に敷いた道が?」


「はい。表面上は立派な道ですが、その水面下には恐るべき『罠』が仕込まれていました。……敵が攻め込んできた際、数本の止め杭を抜くだけで、道そのものが巨大なソリとなって泥沼の底へ滑り落ちる『特大の断頭台』になっております」


公爵の目がスッと細まる。軍務局トップの鋭い顔つきに変わった。


「……道を丸ごと落とすだと? 底なしの泥沼の中で、どうやってそんな精巧な仕掛けを組んだというのだ」


「それが、私が最も驚愕した点です。彼らは泥水の中で作業したわけではありません。まず土嚢、それから粗朶そだと呼んでいた木の枝を組んだマットで周囲を囲い……中の泥水をすべて掻き出し、水のない乾いた空間を作り出したのです」


「……なんだと? 泥沼の水を抜いたというのか」


「はい。そして完全に露出させた硬い岩盤の上に、石と丸太で寸分の狂いもない『斜めのレール』を組み上げました。さらに、得体の知れない黒い接着剤と、石鹸を混ぜた獣脂グリスを塗りたくり、その上に巨大ないかだを乗せて道を作ったのです。……水を制するのではなく、水を排除して完璧な施工環境を作り出す。泥靴村の意地を見た思いでした」


公爵は深く息を吐き、背もたれに体を預けた。


「……それほどの軍事土木を設計・指揮できる土木技師が、フェルメールやハルバードの陣営にいたとはな。……なんという者だ? 王都の軍務局へ引き抜きたいくらいだ」


工兵は少しだけ口ごもり、信じられないものを見たような目つきになった。


「……閣下。信じられないかもしれませんが、あの千人を超える大工事の現場を支配し、その完璧な図面を引き、大人たちに指示を出していたのは……名のある技師でも、ハルバード伯爵の配下でもありません」


「……何?」


「フェルメール男爵の息子……わずか五歳の、『カイト』という幼児でした」


公爵の動きがピタリと止まった。


「現場の大人たちは誰一人としてあの子供を侮ることなく、絶対的な『現場監督カシラ』として従っておりました。水を抜くための魔法も、地盤を固めるための魔法も、すべてあの幼児が中心となって行っていたのです」


「…………五歳の、子供が、だと?」

静寂が執務室を包む。


公爵の頭の中で、北部の重鎮たちがなぜあれほど自信に満ち溢れていたのか、そしてなぜ「泥靴」の領地が急速に発展しているのか、すべてのパズルがカチリと音を立てて組み合わさった。


だが、いくらなんでも五歳の幼児が千人を率いて国家規模の土木工事を指揮するなど、にわかには信じがたい。


しかし、目の前にいるのは自分が最も信頼する優秀な武官だ。彼が狂った報告をするはずもない。


くだらない派閥争いの後始末を押し付けられ、憂鬱だった公爵の胸中に、微かな好奇心の火が灯った。


(五歳の神童、か。……もしそれが本物だとしたら、今日の視察はとんでもなく面白い見世物になるぞ)


公爵は口元に手を当てて、ふっと息を吐くように笑みをこぼした。


「……フッ、クックック。なるほどな。ハルバードが信奉し、ベルノーが大笑いしていた理由がようやく分かった。あの泥沼には、大自然の理すら計算し尽くす『化け物』が潜んでいるらしい」


公爵は立ち上がり、バサリとマントを翻した。


その瞳には、退屈な執務では決して見せない、野心的な光が宿っていた。


「行くぞ。ヴァロワの阿呆どもが、作り直した道に難癖をつける視察が今日だったな。ただの退屈な茶番かと思っていたが……少し楽しみができた。その五歳の神童が本物かどうか、そしてその五歳児が仕掛けたという『特大の罠』がどれほどのものか……この目で確かめさせてもらおうではないか」


王都の軍を束ねる公爵の目に、地理的には最も王都に近い辺境の泥沼で物理を満喫中の『五歳の現場監督』が、見つかってしまった瞬間だった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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