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第159話 頼もしい現場と歌う工兵隊

あの熱狂の朝礼から、しばらくしてカイトが動き出した。


(……さて、どうなっておるかのぅ)


五歳児の短い足には少しばかり過酷な強行軍ではあるが、手抜きや不安全行為を見逃すわけにはいかないため、現場の巡回を始めた。


粗朶道の最先端フロントから泥沼を埋め立てていく場所を回り、北部の職人衆や王都から派遣されてきた雇われ大工たちが急ピッチで進めている宿場町の建設現場、粗朶マットの編み込み現場まで、くまなく視察して回ったのだ。


そして南部衆のマットの編み込み現場を回った時だった。


(……おや? これは……)


カイトが出したカンフル剤の心配は、良い意味で完全に杞憂に終わった。

現場はカイトが想像していた以上に猛スピードで、かつ、極めて安全に回っていたのだ。


「おいバカ! 枝の太さが違うだろ! 親方の教えをもう忘れたのか!」


「あっ、すんません先輩!」


「それと手元をよく見て作業しろ! 枝がたわんで危ねえと思ったらすぐに止めろよ! 誰か一人でもケガしたら、極上肉もエールも全部パーになっちまうんだぞ!」


活気ある怒声が飛び交う現場を見て、カイトはハッと気がついた。


現場を回していたのは、泥靴村の過酷な立ち上げ期をカイトと共に乗り越え、粗朶沈床の技術を体に染み込ませた『南部衆第一陣の残り五十名』の先輩デックたちだった。


(おお、あれはデックじゃないか。南部衆の中で、一番最初にワシの真似をして『黄色いヘルメット』を作って被った男じゃな)


(なるほど……。今朝ワシが突きつけた『連帯責任ボッシュート』のルールの真意を、あのデックたち南部の先輩連中がしっかり汲み取って、後輩たちに叩き込んでくれとるんじゃな)


第一陣の彼らが現場のリーダー格となり、到着したばかりの第二陣に対し、手取り足取り技術と安全意識の継承を行っていたのである。


(……ふぉふぉふぉ。上から監督がギャーギャー喚くより、現場の先輩から後輩へ技術が受け継がれていく方が、何倍も現場に定着するもんじゃ)


指導を終えてこちらに気づいたデックが、ヘルメット越しにカイトに向かってニッと親指を立ててみせた。


カイトもまた、無邪気な笑顔で元気よく手を振り返す。


(現場の自主性が育ってきた証拠じゃ。ここはワシがあれこれ口を出さず、彼らを信じて見守るのが一番じゃな)


カイトは誇らしげな職人たちの背中を頼もしげに見つめると、その足でまた最前線の工区へと向かった。工兵隊の作業を見る為である。


(さて、工兵隊の方はどうじゃ? さっきまでロバートが気合いを入れて工兵隊だけで朝礼してたしのう。あそこにはガンタたち古参の他に、一ヶ月前に雇い入れたばかりの『元軍人』の新人たちが混ざっておるからな。うまく連携が取れとれば良いんじゃが……)


カイトが建設現場の物陰からこっそり覗き込もうとした、その時。

泥沼の最前線から、何やら野太い『歌』と足音が響いてきた。


「俺たちゃ泥靴工兵隊〜♪」

ガンタがよく通る声で歌い出し、


「「「俺たちゃ泥靴工兵隊〜♪」」」


レナードやエドガーといった元軍人の新人たちを含む隊員たちが、泥や粗朶を運びながら一糸乱れぬ声で復唱する。


「肉とエールは俺のもの〜♪」

「「「肉とエールは俺のもの〜♪」」」


「ケガすりゃ全部がボッシュート〜♪」

「「「ケガすりゃ全部がボッシュート〜♪」」」


「おうっ! 右ヨシ! 左ヨシ! 頭上ヨシ!後ろヨシ!!」

「「「おうっ! 右ヨシ! 左ヨシ! 頭上ヨシ!後ろヨシ!!」」」


全員が息のあった指差呼称を行い、


「ご安全に!!」

「「「ご安全にィィッ!! サー、イエッサー!!」」」


ズバァン!


見事な軍隊式行軍歌ケイデンスの締めくくりと共に、一斉に重いマットが泥沼へと叩き込まれた。


(……ふぉふぉふぉ。なんじゃあの恐ろしく統率の取れた集団は)


軍人としてのプライドが高い退役兵たちも、軍隊特有のコール&レスポンスのリズムに乗せられると、細胞レベルで体が動いてしまうらしい。


「土木の先輩」であるガンタの歌声に合わせ、異常なテンションで指差し呼称と安全確認を完璧にこなしていた。


(あの退役兵たちは土木作業では新人じゃが、集団行動のプロじゃ。ガンタたち古参とうまく融合して、とんでもない『歌う精鋭部隊』に仕上がっとるのぅ……!)


南部のデックたちも、工兵隊のガンタたちも、見事に現場の空気を掌握し、カイトの想像を絶するスピードと安全性を叩き出している。


(みんな、とっても 優秀な『現場監督エージェント』に育ってくれたのぅ……)


カイトは満足げに目を細め、迷彩ヘルメットの男たちが陽気に、かつ軍隊の規律をもって粗朶を運んでいく姿を、ウンウンと頷きながら見守るのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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