第151話 祝!さらばテント生活
吐く息が白く染まる、十二月下旬。
刺すような冬の寒風が吹きすさぶ中、泥靴村の現場は異様な熱気に包まれていた。
あの伏流水事件から、約二週間。
泥靴村の広場に設けられた朝礼台で、ロバートが白息を吐きながら大声で指示を飛ばしていた。
「カイト様の配置指示だ! いいか、三百名のうち新道(粗朶道)に各部隊から五十名の計百五十名を投入する! 南部、北部、工兵隊順に粗朶マットを泥沼に叩き込め!」
「ゴドー率いる職人衆とダグラス親方のハルバート職人団は、宿場町の建設を急げ! 王都の商会が送り込んできた連中も、まとめてプロの手足として使え!」
「門番を除いた残りの精鋭は、ゴドーの長屋建築のサポートと、ウドの『旧道仕上げ班』に回れ!」
「「「おうっ!!」」」
「時間がないぞ! 十二月中に必ず旧道を完成させ、全戦力を粗朶道に集中させる! そして二月には、王都の南街道まで道を繋ぐんだ! 動けッ!!」
ロバートの号令と共に、三百人の男たちが怒号を上げてそれぞれの現場へと猛スピードで散っていく。
泥沼に粗朶マットが叩き込まれる重い水音、メリダの魔法が土を焼き固める爆音、そして宿場町の建設ラッシュの槌音が、冬の寒空の下で凄まじい活気となって重なり合う。
粗朶道の最前線では、カイトが使い捨ての黒檀の杖を使ってで圧密魔法を叩き込み、伏流水を逃がす水抜き構造を施しながら、道を伸ばしていた。
その後方では、メリダが国宝級の黒檀の杖を振り上げ、道の表面を白い湯気を上げながら一気に焼き固めていた。
一方、宿場町の建設現場もかつてない規模の建設ラッシュに沸いていた。
数日後。――ハルバート方面へと向かう『旧道』の整備現場。
ズゴゴゴゴォォォォッッ!!
『魔導振動コートローラーⅡ』の凄まじい重低音が、ついに止んだ。
ウドたちの二号機が大地をドカドカと荒均し、その後ろを馬二頭が引く一号機がスイスイと仕上げていく。
「おうっ! 次の組、前へ出ろ!」
「任せとけ!」
重機の圧倒的な力と交代要員の淀みないローテーションで、旧道の復路二十五キロのローラー舗装が、年を越す前に完了した。
予定よりも遥かに早い旧道の完成。その影の立役者はアルベルトかもしれない。
「まだか……どうか大槍を返してくれ……」
彼は毎日、青白い顔で現場に現れては怨念のように呟き続けていた。
粗朶道で使い捨てられる黒檀の杖(金貨一枚)の恐ろしい消費ペースが、彼の正気をゴリゴリと削り取っていたのである。
領主の悲痛なプレッシャーに震えながら、ローラー作業を終えた大男のウドが「………(ブルブルブルッ!)」と巨体を小さくして怯えていた。
そして、ローラーの車軸から銀色に輝く『ミスリルの大槍』をズボッと引き抜くと、アルベルトの前にサッと置いて後ずさった。
「ウドのおにいちゃん! ありがとう。あとはメリダおねえちゃんのところを、てつだって!」
「………(コクコクコクッ!)」
ウドは力強く何度も首を縦に振ると、逃げるように次の戦場へと向かっていった。
そして、大槍という「心臓」を抜かれてただの重い鉄の塊となったローラーの前で、任務から解放された男たちの歓声が上がった。
「おわった……! 終わったぞぉぉぉッ!!」
「旧道が……完成したんだ!!」
寒風吹きすさぶ中、泥まみれの男たちが肩を抱き合って歓喜の涙を流す。だが、感動も束の間、彼らの体を十二月の容赦ない冷気が襲った。
「ぶるぶるっ……さ、寒ぃ! 早くテントに戻って、焚き火で暖を取ろうぜ……!」
「ああ、雪が降る前に終わって本当によかった……」
旧道組の男たちはガタガタと震えながら、凍える手足をさすって元採石場だった広場へと帰還した。
しかし、彼らは広場を見渡してポカンと口を開けた。
「……あれ? 俺たちのテントは……?」
昨日まで広場を埋め尽くしていた、テントの群れが、跡形もなく消え去っていた。
「えー、嘘だろ!? 俺たちの寝床が撤去されてるぞ!?」
パニックになりかけた男たちの前に、大工のゴドーがニカッと笑いながら現れた。
「おう、お前ら! 旧道の開通、お疲れさんだったな! テントなら片付けさせてもらったぜ!」
「なんでだよゴドーのおっちゃん!! 俺たち凍え死んじまうよ!!」
極寒の空の下で男たちが悲鳴を上げると、ゴドーは呆れたように親指で背後を指差した。
「もう、あっちの空き地に長屋が出来たから、お前らの荷物ごとまとめて運んどいたんだよ。次はこのテントがあった場所に、倉庫と宿屋と、従業員用の家を建てろって言われてるからな」
「え……?」
ゴドーが指差した先――そこには、足場が完全に撤去され、木の香りを漂わせる立派な『長屋』が、ズラリと立ち並んでいた。
「お、俺たち……今日から屋根の下で寝ていいのか……?」
「お前ら、長屋の建築を手伝ってくれただろ?本当は道作りの技術を学ぶって話だったのによ。なら、こっちも早く酬いてやりたかったしな」
「ありがてぇ……っ! 夜は温けぇ場所で体力戻して、昼は心置きなく技術を学べるぜ……!
男たちが歓喜の嗚咽を漏らしていると、その内の一人が、ゴドーのやっていたもう一つの大仕事に気づいた。
「ん? じゃあ温泉旅館は?」
「それも今、最終確認してるぜ。手直しがなければ近日中に一応、オープンだな。王都に道が繋がってねぇから、今は『隠れ里温泉』だけどよ」
ゴドーがニヤリと笑う。
「やった!なら今の内にしっかり温泉に入って、南部に帰ったら自慢しなきゃな。王都の客より先に入ったって!」
「おう、宣伝してくれ。そして何度でも来てくれ。歓迎してやるからよ!」
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