表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/152

第150話 推し活と無慈悲なド正論

伏流水による決壊の危機回避と、北街道との接続工事が完了した翌朝。


(……昨日の現場での失敗。伏流水を逃がすのは、今後の粗朶そだ道作りの時に『水抜き』として採用すれば良いので問題ない。じゃが……ワシが『危ない!』と注意したものを、子供の声だからと軽く流されてしまうのはマズイ。大事故(労災)に繋がるわい)


五歳児の甲高い声は、現場の怒号にかき消されやすい。なんとか一瞬で全員の注意を促すための「きっかけ」が出来ないものか。


そう考えた末に、カイトは『ホイッスル』を作れば良いのだと思いついた。中に玉を入れる普通のホイッスルを作るのは難しいが、シンプルな竹笛ならば、そう難しくはない。


カイトは、アルベルトの執務室からこっそり持ち出してきた『ナイフ』を小さなポーチに忍ばせた。そして現場まで向かう荷馬車にヒョイと乗せてもらい、温泉の竹林のところまでやってきた。


温泉旅館の建築作業をしている大工のゴドーを見つけると、トテトテと駆け寄る。


「ゴドーのおじちゃん! この竹、ちょっと 切って!」


「ん? おう坊ちゃん、竹の切れ端かい? 危ねえから貸してみな」


ゴドーにお願いしてノコギリで手頃な長さに竹を切ってもらい、さらに吹口となる切り込み(スリット)もノコギリで入れてもらう。


「これで何を作るんだい?」


「ふえだよ!」


土台ができたところで、カイトは『ただのナイフ』の柄を短い手で握り直し、器用に竹の表面を薄く削り取っていく。


そして、切り込み(スリット)に向かってナイフで斜めに削り、そこに小さな竹の破片を差し込んで固定した。


(ふぉふぉふぉ。子供の頃に作った以来だったが、よく出来たわい。……おっと、今も子供じゃったな。よし。これからは、注意する前にこの笛を『ピィーーッ!』と鳴らしてから、ワシの言葉に注目させるのじゃ!!)


カイトが完成した竹笛を握りしめ、意気揚々と村へ戻ってくると…。


――そこは、凄まじい怒号と土煙に包まれていた。


モーガン商会開店と同時に押し寄せてきたのは、ハルバード領から派遣されている北部ガチムチ人足たちだった。


昨日、マリーが申し訳なそうに被っていたあの可愛い「黄緑色のヘルメット」。そして、それを被ってパタパタと走り、死にかけの重機を動かした健気な姿。


北部の男たちは、あの瞬間に完全に狂わされていた。彼らにとっての真のアイドル(一推し)は、あのお嬢様マリーしかいない。


「急げ! 黄色と緑を混ぜて、お嬢様とお揃いの『黄緑ヘルメット』を作るんだよォォッ!!」


「ひぃぃッ!? ま、待ってください! 南部から仕入れた竹ザルと黄色いヘルメットは、もう在庫が三個しか……!」


「三個だとォ!? ふざけんな、こっちは百人いるんだぞ!」

「奪い合いだ! 俺が一番にお嬢様とお揃いになるんだよォッ!!」


「ひぃぃッ!? や、やめて! 店が壊れるゥゥッ!」


モーガンが悲鳴を上げる中、カイトは小さく息を吸い込み、完成したばかりの竹笛を口に当てた。


――ピィィィィィィッ!!!


村に響き渡ったのは、空気を切り裂くような竹笛の音。


その瞬間、取っ組み合いをしていた北部のガチムチ人足衆が、血走った目でピタリと争奪戦を止めた。


(よし! 完璧に注目が集まったわい!)


「「「親方!!!」」」


カイトは竹笛をピッと指差し、黄色いヘルメットの悪魔(五歳児)の無慈悲な『ド正論』を叩きつけた。


「おじちゃんたち! ケンカは ダメ! それより、こわれたローラーを、広場まで ころがして もってきて!」


「……え? あの、壊れたローラーをですか?」


北部の男が不思議そうに尋ねると、カイトはニシシと笑った。


「うん! あのローラーは、これから『お馬さん』に ひっぱって もらうんだよ!」


「……は? う、馬……?」


「おみち が まっ平ら になったから、これからは『お馬さん用』にローラーを直してもらうの」


その言葉に、男たちの脳内で凄まじい物理演算が弾き出された。

道が平らになった今なら、あの地獄のような重さの石の塊も、馬の牽引力で十分に転がせるという真実。


だとしたら――。


「え、じゃあ、なんで今までは、あっしらが引いてたんですかい?」


北部の男が、恐る恐る、最も触れてはいけない疑問を口にした。

カイトはコテンと首を傾げ、さも当たり前のように答えた。


「だってお馬さんをつないで、まほう で ブルブルしたら、びっくりしちゃうじゃない」


(馬の真後ろで二トンの石が振動したら、馬がパニックになるのは確定じゃ。現場の安全第一を考えれば、当然の配慮じゃろうに?)


「ガーン……あっしらは、馬以下……」

「馬の代わりだったのか……」


「俺たちの筋肉は、馬がびっくりしないためのクッションだったんだ……」


真っ白に燃え尽き、次々と泥の上に膝をついていく屈強な男たち。

そんな彼らを慰めようと、カイトは慌てて手を振った。


「そうじゃなくて! おじちゃんたちは、おどろいても あばれたりしないでしょ!」


「「「…………(そっちの方がタチが悪いッ!!)」」」


(ありゃ。駄目押しじゃったか。言葉が通じて、文句を言いながらもキッチリ重機を制御してくれる。安全性コントロールの面では、お前らの方が優秀だと言いたかったんじゃが……まあいいわい!)


ついには泥の上に頭までつけて、完全に白く燃え尽きた男たち。

その絶望の静寂を切り裂くように――。


――ピィィィィィィッ!!!


「「「…………(ビクッ)」」」


「はいはい、ローラー、もってきてね」


――ピッ!!


カイトからの、無邪気で残酷な最大限の賛辞と、作業を急かす短い笛の音を受け、北部の男たちは完全に心を折られた。そして、のろのろと二トンの塊へ向かって歩き出すのだった。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「ピッ!!って監督の武器だよな」と思っていただけましたら、

ページ下部より評価とブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ