第149話 極太と震え!奇跡の魔導刻印
深夜、バッカスの工房。
ランプの灯りが揺れる中、王都からやってきた二人の若き魔法使いは、歴史に名を残す大偉人から直々に、地獄のマンツーマン指導(という名の内職)を受けていた。
「おいメリダ! もうちょっと魔力を抑えられねぇのか! 線が太すぎて、これじゃ魔力が溜まらずにダダ漏れだろうが!」
「無理ッス! それが出来てれば、王都で落ちこぼれって言われなかったッスから!」
メリダが涙目でキャンキャンと噛み付く。彼女の手元にあるクズ魔石には、極太の傷のような線が不格好に刻まれていた。
「開き直ってんじゃねぇ! ……チッ。おいウド、オメェは逆だ! なんでそんなにか細い線しか彫れねぇんだ!」
「……(ブルブルブルッ)」
「ああもう、震えてんじゃねぇ! まっすぐ彫らなきゃいけねぇ線が、ギザギザに彫れちまってるじゃねえか! 昼間、クズ魔石に普通に魔力流してる時は平気だったじゃねえか。なんで刻印彫りになると震えるんだよ!」
バッカスが頭を抱えて怒鳴ると、隣からメリダが呆れたように口を挟んだ。
「ウドはプレッシャーに弱いんすよ。学校の試験の時とか、『保持』の魔法で土を目の前でピタッと止めておく試験があったっスけど……緊張でブルブル震えすぎて、土が『ふるい』にかけられたみたいにサラサラ落ちてたっスからね」
「どんな器用な不器用だよ!!」
バッカスは思わずツッコミを入れた。
すでに十個ほどのクズ魔石を無駄にしている。
今回彫っている『跳躍』の刻印は、魔力を一定量溜め込み、一気に反発力に変えるだけの単純なものだ。
そもそもクズ魔石と呼ばれるほど小さく質の低い石だ。複雑な術式など彫る面積はない。だからこそ、模様は魔力を溜める【一つの点】と、放出する【一本の短く先が尖っていく直線】のみ。まるで『釘』のような、最も基礎的な図形である。
だが、単純ゆえに「点と線のバランス」が命だった。
メリダが彫ると、点も線も太すぎて魔力が素通りしてしまう。ウドが彫ると、線が細すぎる上に本番のプレッシャーによる震えでギザギザになり、魔力が詰まって石が割れる。
「はぁ……。お前ら、自分の魔力のクセが強すぎるんだよ……」
バッカスが深いため息を吐いた、その時だった。
彼はメリダが失敗した「極太の刻印」と、ウドが失敗した「細くてギザギザの刻印」を並べて見比べ――インテリ眼鏡の奥の目をカッ!と見開いた。
「……待てよ? メリダの『極太の点』は、クズ魔石の限界ギリギリまで魔力を溜め込むには完璧な深さとデカさだ。
そして、ウドの『プレッシャーの震えによる細いギザギザの線』は……魔力が抜け出る時に強烈な抵抗を生み出す、最高の圧縮弁になってやがる……!!」
バッカスは弾かれたように立ち上がり、二人の肩をガシッと掴んだ。
「お前ら! 一人で一個の石を完成させようとするからダメなんだ! メリダ、お前は【溜め池の点】だけを全力で穿て! 彫り終わったら、すぐにその石をウドに回せ! ウド、お前はその点から【出口の直線】を、お前のその『プレッシャーの震え』のまま細く引くんだ!!」
「「……えっ?」」
「いいからやれ!!」
バッカスに急かされ、メリダが「うおおッ!」と特大の魔力で一瞬にして『巨大な点』をえぐり取り、それを横のウドへスライドさせる。
受け取ったウドが「ヒィィッ」と震えながら魔力を流し込むと、その恐怖の震えがそのまま、細く鋭い『ギザギザの出口』として刻み込まれた。
「……で、できたッス!」
「……(コクリ)」
完成したばかりの、二人の合作魔石。バッカスがそれにテストの魔力を流す。
すると、魔石はカチカチカチッ!と数秒間、内部で凄まじい軋み音を立てて力を溜め込んだ後――。
――ガンッッ!!!
空気を切り裂く鋭い音と共に、クズ魔石が『弾丸』のような凄まじい速度で跳ね上がり、工房の天井に激突して床へと転がった。
「ああっ!? や、やべぇ! また破裂させちまったっすか!?」
メリダが、王都の試験の時と同じ失敗をしたと思い、顔面蒼白で叫ぶ。
だが、床に落ちたそのクズ魔石は……ひび割れ一つなく、無事だった。
「クックック……アーッハッハッハ!!」
バッカスが、魔石を拾い上げながら深夜の工房で悪役のような高笑いを上げた。
「大成功だ! メリダの極太の点が限界まで魔力を溜め込み、ウドの細いギザギザがそれを極限まで圧縮しやがった! 逃げ場のなくなった魔力が石を割る(破裂する)直前に、ウドのギザギザの出口が『バネ』となってすべてを『跳躍力』に変換したんだ!」
「わ、割れなかった……? アタシたちの刻印でも、石が保ったッスか!?」
「あぁ! 抵抗を突き破った瞬間の反発力は、前のローラーの時の『三倍』以上だぞ!!……しかもだ。俺一人でこれを彫ってた時は、『一時間に四個』が限界の細けぇ作業だった。だが、お前らのこの極端な個性を組み合わせた『分業(ライン作業)』なら……一個あたりにかかる時間は、俺の何分の一で済む!!」
「一時間に、四個……? じゃあ、百個作るのに丸一日以上かかってたって事ッスか!?」
「そんなもん、この分業ラインなら数時間で終わらせてやる! 出来損ない同士を組み合わせて、最速最高の専用加工機に変える……これこそが泥靴村のやり方だ!」
バッカスはギラギラと目を光らせ、唖然としている二人の背中をバンッと力強く叩いた。
「おいお前ら、休んでる暇はねぇぞ! この最強の『新型クズ魔石』を、朝までにあと九十九個、全力で回すぞォォォッ!!」
「「うおおおおおぉぉぉぉッ!!!」」
「あ、ウド。オメェの作業は、俺が隣でガン見して見張っててやるから、思いっきり震えろ!」
「……ヒィッ!?(ブルブルブルブルッ!!!)」
伝説の大偉人からの『至近距離でのガン見(致死量のプレッシャー)』という最強のバイブレーション機能を与えられ、ウドの巨体はかつてないほどの高周波で振動し始めた。
かくして、魔法学校の落ちこぼれだった二人の魔力樽は、それぞれの欠点を完璧に補い合う『最強の魔導刻印ライン』として覚醒?したのだった。
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