第143話 現場監督、泥沼に立つ!
その頃、村の鍛冶場では――。
「おうサジ! こっちだ! よく持ってきた!」
鍛冶場から身を乗り出したバッカスが走って丘を降りてきたサジを呼び寄せる。
「はぁっ、はぁっ……! ば、バッカスさん!! 魔石です!こっちに…はぁっ、はぁっ…戻ってたんですか…?」
「ああ、こっちで現物合わせだ、時間もねぇし、ここで組み上げるぜ」
工房の中央には、すでにドカリと巨大な無垢の丸太が置かれていた。
「バッカスおじちゃん、ませきは 前と同じナナメ(螺旋状)にならべるの! そうすれば、ブルブルが まるたぜんぶに つたわるよ!」
カイトが丸太の表面を指差して配置を決めると、それを聞いた大工のゴドーが瞬時にノミを構えた。
「螺旋状だな! 任せとけ!」
ダダダダッ! と、目にも留まらぬ速さでゴドーのノミが丸太の表面を削り、魔石がスッポリと収まる溝(穴)を正確に彫り込んでいく。
「よし、丸太と魔石が面一でピッタリだ。バルカス、頼んだ!」
バッカスが溝にクズ魔石を隙間なく埋め込み終わると、最後に主のバルカスが巨大なやっとこを握りしめて前に出た。
「おう! 泥の摩擦で石が剥がれねぇように、ガッチリ締め上げてやる!」
真っ赤に熱された太い鉄線が丸太に巻き付けられ、バルカスが力任せにギュイッ! と縛り上げる。魔石が埋まった丸太の先端付近は、鉄線で何重にもぐるぐる巻きにされ、もはや外から魔石の姿を見ることはできなくなっていた。
「仕上げだ! できたての刃口を被せるぞ!」
若い衆に作らせていた刃口を丸太の先端にガコンッ! と嵌め込み、バルカスが大槌で左右から力任せに叩き入れて完全に固定した。
ジュウゥゥゥッ!!
泥の侵入を防ぐための松ヤニと、熱された鉄が冷める凄まじい水蒸気が工房に立ち込める。
「完成だ! 台車に乗せろ! 現場へトンボ返りするぞォ!!」
バルカスの怒号と共に、数百キロはある無骨で異様な『魔導推進ヘッド』が、若い衆たちの手によって頑丈な台車へと積み込まれた。
「坊ちゃん、乗んな!」
「うん!」
カイトをヒョイと抱え上げたゴドー、そしてバルカスとバッカスが台車に飛び乗る。
「馬を出せェ!! 飛ばせ飛ばせェ!!」
職人たちの意地と技術が結集した『主役』を乗せた台車が、村を飛び出し、現場へと続く粗朶道を猛スピードで駆け抜けていく。
だが、事態は彼らの想定を上回る速度で悪化していた。
全長数キロに及ぶ巨大なダムに堰き止められ、行き場を失った山側の泥水は、すでに彼らが走る粗朶道の縁をヒタヒタと舐め始めていたのだ。
枝の隙間からは黒い水がじわじわと滲み出し、ガッチリと踏み固められていたはずの道が、不気味な音を立てて軋んでいる。
バシャバシャバシャッ!!
「やべぇぞ! 水圧で粗朶マットが浮き上がろうとしてやがる!」
馬の蹄と重い車輪が、道の上に溢れ始めた泥水を激しく跳ね上げる。
「くそっ、急げ! 道がもたねぇぞ!!」
一方、決壊寸前の建設現場では――。
「足場は完成したぞ! 穴の空いたパイプの準備もできてる!」
「こっちも滝壺の石組み、完了だ! いつでも来やがれ!!」
泥水にまみれたダグラスとダンが、血走った目で叫ぶ。だが、肝心の『頭』が来ない。
山側から押し寄せる水が、ついに岩盤テラスの足元を越えようとチャプチャプと音を立て始めた、まさにその時。
「道を空けろォ!! 主役のお通りだぜ!!」
泥を激しく跳ね上げながら、村から戻ってきた台車が広場に飛び込んできた。
そこに乗っていたのは、先端に鋭利な鉄のキャップを被り、太い鉄線でぐるぐる巻きにされた無骨な丸太。そして、その丸太にまたがった、黄色いヘルメットの幼児だった。
その、あまりにも威風堂々とした『現場監督』の姿に、クラークも、アルベルトも、ハルバートの職人たちも、一瞬だけ時を忘れて呆然と見惚れた。
「これは、まさに物語の主人公登場シーンじゃないですか!」
ロバートだけは、このシーンを見れなかった隊員に、後で絶対語ってやると意気込んでいたが。
「おらぁっ! 見惚れてる暇はねぇ! 足場へ下ろせ! パイプと一直線に並べるんだ!」
バルカスの怒号で、現場が我に返る。
ダグラス率いるハルバート衆がうなり声を上げ、台車から重い丸太を泥沼の足場へと下ろし、すでに並べられていた三本の丸太パイプの前へと押し出していった。
先頭には、鉄の刃口と鉄線の鎧、そして中に螺旋状の魔石を纏った無垢の『推進ヘッド丸太』。
その後ろには、ゴドーが用意した三本の『丸太パイプ』。
それらを当てがい、推進ヘッド丸太との直径を確認する。
「うん! ばっちり!」
カイトは丸太からトテトテと降りると、泥沼の足場へと降り立った。
そして、先頭の『推進ヘッド丸太』のお尻の部分――すなわち、後続のパイプが接続される場所に、泥だらけの小さな両手をペタリと当てる。
(ふぉふぉふぉ! 舞台は整った! 普通の木の『魔力抵抗』をリミッターにし、クズ魔石をちょうどよく震わせる……! ワシの魔力で泥を液状化させ、野郎どもの筋肉で一気に押し込むだけじゃ!)
「みんな! じゅんびは いい?」
五歳児の無邪気な、しかし現場の全てを支配する現場監督の声が、張り詰めた泥沼の空気に響き渡った。
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