第142話 迫る水没!驚愕の魔導推進工法
「うん! だから、さいしょの丸太の ませき(魔石)を ブルブルさせて『ドロ水(液状化)』にするの! そうすれば、スルスルって すすむんだよ! そのうしろから、穴のあいた パイプの丸太を グイグイ おしこんでいくの!」
「「「……なっ!?」」」
カイトが口にした恐るべき『魔導振動・推進工法』のアイディアに、バルカスとゴドー、そして周囲で聞いていたハルバートの職人たちが一斉に息を呑んだ。
「坊ちゃん、そんなこと出来るのか?」
「ああ、俺も聞いたことねぇぞ。そんなの…」
泥靴村の職人三人衆が首をひねっている中、ダグラス親方だけが液状化した現場を思い出していた。
「まさか……上から掘らずに、先頭の丸太で泥をドロドロにさせながら道を切り開き、その後ろから本命のパイプを通していく気か……!?」
ダグラス親方が震える声で呟く。
「……ああ、そうだ。あの旧道の工事を見させてもらってたんだがよ。重いローラーが通った後の泥が、まるで水みたいに跳ねていた……。あれを横向きに、しかも意図的に起こすってのか!」
ダグラス親方が、戦慄を隠しきれない様子で叫んだ。
(ふぉふぉふぉ! さすがはハルバートの親方、現場を見ておるだけあって察しが良いわい。泥に超振動を与えれば、粒子が浮いて摩擦が消える『液状化現象』が起きる。そこを突っ切るのよ!)
カイトは内心でニヤリと笑い、さらに地面の図を指差した。
「バッカスおじちゃん! その『ませき』を、さきっちょの丸太に ぐるぐるって いっぱい 巻きつけて! 魔法をながすと、さきっちょだけが すっごく ブルブルするように するの!」
だが、ここでバッカスが鋭い声を上げた。
「おい待て坊主!! 理屈は分かったが、どうやってその先頭の丸太の魔石に魔力を送る気だ!? あのクズ魔石は、お前の規格外の魔力を直接流し込んだら一瞬で爆発して粉々になるんだぞ!?」
バッカスの指摘はもっともだった。
旧道のローラーは、魔力伝導率が極めて高い『ミスリルの大槍』を芯にしていたため、大人が微弱な魔力を流すことで上手く機能していた。
だが今回は木に魔石を巻くだけだ。しかもカイトの莫大な魔力を直接ぶつければ、繊細なクズ魔石など一たまりもない。
しかし、カイトは黄色いヘルメットを揺らして、ニッシッシと悪戯っぽく笑った。
「メリダおねえちゃんの持ってた『黒くて かたい木(黒檀)』じゃないから、ふつうの木は まほうが ぜんぜん 通らないんでしょ? だから いいんだよ!」
「……あ?」
「ぼくの まほう、ふつうの木を通ったら、すっごく『よわく』なるから、ちょうどよく ピクピクするようにするの!」
(ふぉふぉふぉ! 普通の木材の『魔力抵抗の高さ』を逆手に取るんじゃ! ワシのバカげた出力で無理やり魔力を押し込んでも、丸太を伝っていくうちに減衰して、先端の魔石に届く頃には、ちょうどいい『微弱電流』に早変わりするという寸法よ!)
「……ッ!!」
バッカスは、カイトの放った言葉の意味を理解し、ゾッと背筋を凍らせた。
「お前……普通の木材の『伝導率の悪さ』を、己の暴走しがちな魔力を抑え込むための『天然のリミッター(抵抗器)』として使う気か……!?」
バッカスが戦慄する中、カイトは再び地面にガリガリと図を描き足し、最後の指名をした。
「ダンおじちゃんは、お水が プシュー!って でてくる はんたいがわに、お水の いきおいを ころす『おっきな 石のブロック(減勢工)』を ガッチガチに くんで!! 絵みたいに、お水がぶつかる『たきつぼ』を作るの!」
カイトの描いた、水流の威力を殺すための強固な石組みの図解。それを見た石工のダンは、ニヤリと不敵に笑って石粉まみれの拳を打ち鳴らした。
「おう! 水の勢いで基礎が抉り取られねぇように、石組みで滝壺を作って威力を殺すって寸法だな! 面白ぇ、石工の腕の見せ所だぜ!!」
水没のタイムリミットが迫る中。
地面に描かれた図解と、悪魔的な魔法理論によってカイトの意図を完全に理解した泥靴村の職人三人衆と魔導師が、一切の無駄なく動き始める。
「おいダグラスのおっさん! 水の勢いが強まる前に、俺たちの作業スペース(足場)を泥沼の中に作ってくれ! お前らハルバート衆の人海戦術が必要だ!」
ゴドーが怒鳴る。
「あ、ああッ! 任せろ! おい野郎ども、村の職人たちを死なせるな! 全力で足場を組め!!」
ダグラスが我に返り、ハルバートの職人に号令をかける。
そのあまりにも迷いのない即断即決に、クラークも、アルベルトも、ロバートも、周りにいた職人たちも、ただただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった――。
そこからの現場の動きは、まさに時間との戦いだった。
「おい、上水道用の丸太をこっちの足場へ回せ! 急げ!」
ゴドーが自分の若い衆にパイプの運搬を指示すると、鍛冶屋のバルカスが荷馬車を手招きした。
「俺の鍛冶場に来てくれ! 坊ちゃん、バッカス、ゴドーも乗れ! 村の工房に全速力で戻るぞ!!ダン、ダグラス親方、こっちは頼んだ!」
「おう、しっかり作ってこいや!」
主要な職人たちを乗せた馬車が、猛烈な勢いで村へと引き返していく。
彼らが去った後の泥沼の最前線では、激しい水飛沫と男たちの怒声が飛び交っていた。
「急げ急げェ! 水位が上がってきてるぞ! 杭をもっと深く打ち込め!」
ダグラス率いるハルバートの職人百名が、腰まで冷たい泥水に浸かりながらも太い丸太の杭を打ち込み、あっという間に泥沼スレスレの強固な作業用足場を組み上げていく。
一方、石工のダンは工事現場においてある石を片っ端から集めさせ、パイプの出口となる予定の反対側の泥沼へと運ばせていた。
「一番デカくて重てぇ御影石を土台にして沈めろ! いいか、カイト坊ちゃんの言う事に間違いはねぇ!なら、あの丸太からとんでもねぇ水圧の激流が真正面から噴き出してくるんだ! ハンパな石組みじゃ一瞬で吹き飛ぶぞ!!」
「おうっ!!」
「水の威力を殺すための『滝壺』だ! 基礎が抉り取られねぇように、絶対に崩れねぇ角度でガッチガチに噛み合わせろ!!」
泥に足を取られながらも、ダン率いる石工たちが己の意地と技術を懸けて、強固な減勢工を爆速で組み上げていく。
現場に残った男たちが決死の覚悟で受け入れ態勢を整える中。
だが、山側から押し寄せる沼の水は、すでに粗朶道を飲み込もうとしていた。
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