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第141話 水没の危機と頼もしすぎる職人

カイトは、南にそびえるバルザス山脈と、今自分たちが立っている広大な宿場町を交互に見比べた。


(今まで作った西の道や南の道は『細い線』じゃったから、山の伏流水は道を迂回して流れることができとった! じゃが今回、この幅三百メルもある強固な『岩盤テラス』と道を完全に繋げてしまったせいで、水が迂回する最後の隙間を塞いでしまったんじゃ!)


つまり、全長数キロに及ぶ道と宿場町の強固な基礎が、図らずも湿地の水を完全に堰き止める『超巨大なダム』となってしまっていたのである。


行き場を失った山からの水が、ダム(宿場町)にせき止められ、水位を異常上昇させているのだ。


異変を聞いたアルベルト、クラーク、バッカス、ロバートが仕事を放り出して駆けつけてきた。


「こ、このままでは道が決壊します! アルベルト様!」

クラークが冷静さを失い、悲痛な声を上げる。


「みんな、ストップ!! おしごと ストップ!!」


パニックになりかける現場に、カイトの鋭い、しかしよく通る幼児の声が響き渡った。


「このままだと、お水が たまって、お宿も 道も ぜんぶ こわれちゃう!! お水を はんたい側に にがすよ!!」


「水を逃がす!? だが坊ちゃん、これどうやって逃がすんだ?! 粗朶道を崩せば一気に水が押し寄せて、俺たちごと流されちまうぞ!」


ダグラス親方が怒鳴るように問う。


カイトは黄色いヘルメットの鍔をクイッと押し上げ、真っ直ぐに村の職人たちを指差した。


「バッカスおじちゃん!ゴドーおじちゃん! バルカスおじちゃん! ダンおじちゃん!! 出番だよ!!」


「「「「えっ?! オレたち?」」」」


王都やハルバートの職人たちが絶望に顔を染める中、名指しされた四人は目を丸くして顔を見合わせた。


「まずは バッカスおじちゃん! ローラーに使った ピクピクする『クズませき』を、大至急、いっぱい ほって!!」


「あぁ!? 今からか!? 一体いくつ必要なんだ!」


バッカスがインテリ眼鏡をズレさせながら怒鳴り返す。


「百個!!」


その途方もない数字に、アルベルトやクラークが「今から百個!? その前にダムが決壊する!」と顔を引きつらせた。


だが、バッカスはフッと鼻で笑い、かけていた眼鏡を中指でクイッと押し上げた。


「……へっ。あの旧道のローラーの魔石は、一度壊れたら交換できねぇからな。坊主がローラー使いたい欲求に耐えきれず、アホみたいな魔力流してブッ壊すか、酷使して寿命が来るか……どっちにしろスペアが要ると思って、夜な夜な晩酌の合間にチマチマ彫り溜めておいた『予備』があるぜ!!」


「バッカスおじちゃん、さすが!」

カイトがパァッと顔を輝かせる。


「どうするんだ? 工房に置いてあるけど、ここに持ってくりゃ良いのか?」

「うん! サジおじちゃん! バッカスのおじちゃんの工房まで ダッシュ!!」


「おうっ! 任せとけ!」


カイトの号令を受け、工兵隊で一番身軽なサジが、泥を蹴立てて村の丘にある工房へと猛ダッシュで駆け出していった。


「おいサジ! 机の下の重てぇ麻袋だぞ! 落とすなよ!」

バッカスがその後ろ姿に向かって怒鳴る。


(……くぅ〜ッ!! バッカス、有能すぎる!! 文句ばかり言いながらも、ワシの無茶振りや重機の寿命を見越してスペアを用意しとるとは! これぞ最高の職人じゃ!!)


カイトは内心で歓喜の涙を流しながら、一息つく間もなく次の職人へと指を向けた。


「次はゴドーおじちゃん! なかを くりぬいた『すっごく おっきな 丸太のパイプ』を三本 作って!」


「おう! テラスの湧き水から水道作るように、すでにくり抜いてる丸太が六本あるぜ。竹じゃ水量が足りねぇかもって思って、太い丸太のパイプを作っておいたんだ。それを回せばいいな!」


大工のゴドーが即座に頷き、自分の若い衆に「おい! 水道用の丸太をこっちに運べ!」と怒鳴る。


(……くぅ〜ッ!! ゴドーのおっさんまで有能すぎる!! 湧き水を引き込む普通の水道管を、わざわざ安全率を見越して太い丸太で作っとったとは! これでパイプを作る時間は完全に『ゼロ』じゃ!)


「バルカスおじちゃんは、これを見て!」


カイトは足元の地面に短い木の枝で素早く絵を描きながら、バルカスに指示を出した。


「丸太のパイプが お水に つぶされないように、まわりを『鉄のタガ』で ガッチガチに しめて! ……あ、でもね、一番さいしょ(先頭)に 泥へ つっこむのは、穴が あいてない『ふつうの 丸太』にして!」


「ん? 穴の空いてねぇ普通の丸太だぁ?」

ゴドーが不思議そうに首を傾げる。


「うん! その『ふつうの 丸太』の さきっちょに、ドロをきりさく『鉄のキャップ(刃口)』をかぶせて、そこに バッカスのおじちゃんの魔石を くっつけるの! こんなかたち!」


地面に描かれた、丸太の先端を覆う鋭い円錐状のキャップと、そこに埋め込まれた魔石の図。それを見て、鍛冶屋のバルカスは太い腕を組んで頷いたが、すぐに眉をひそめた。


「鉄のタガと先端のキャップだな? わかった。……だがよ坊ちゃん。上から掘らずに、どうやって泥の中を通すんだ? いくら丸太の先を尖らせたって、泥の摩擦はバカにならねぇ。百人で力任せに押したところで、途中でつっかえて止まっちまうぞ」


「だいじょうぶ! せつめい するね!」


カイトは袖をめくって、地面にガリガリと構想を描き続けて行ったのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」「道、流されないか?」と思っていただけましたら、

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