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第122話 辺境の現場は最先端の宝庫

泥靴村の旧道。


強烈な振動を放つ二トンの『魔導振動コートローラー』の横で、ウドが車軸を握りしめ、一定のペースで歩き続けていた。


ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!


超振動によって滑らかに進むローラーの背後には、見事に平らに押し固められた道ができあがっていく。


「おいおい、あの大男スゲェな! 全くペースが落ちねえぞ!」


「マズい! 下地の土盛りが追いつかねえ! 杭打ち班、もっと急げ!」


前方を走る土盛りの下地班が、ウドの圧倒的なペースに悲鳴を上げていた。


結果として、ローラー部隊は下地が完成するのを待つための「待ち時間(小休止)」を余儀なくされた。


「……よし、ウド。一旦魔力を切れ! 前が詰まっちまった」


バッカスの指示で、ウドが魔力をスッと止める。空気を震わせていた重低音が止み、旧道に静寂が戻った。


ウドは「ふぅ」と息をつくと、憧れの大偉人であるバッカスのそばで、直立不動のまま緊張でプルプルと震えながら待機姿勢に入った。


そこへ、少し離れた場所から歩み寄ってくる少女がいた。

作業見学をしながら、岩盤エリアでの『モルタル乾燥ドライ』の出番を待っているメリダである。


メリダは丸太の杖を背負ったままトコトコとやってくると、車軸を点検しているバッカスに、ずっと気になっていた疑問をぶつけた。


「……なぁ、大師匠。なんでアンタほどの人が、こんな辺境のドカタ現場を手伝ってるんスか?」


魔法学校の歴史の教科書に必ず載っている、生きた伝説。王都の王宮や魔術院のトップにふんぞり返っていてもおかしくない大偉人が、なぜ泥だらけの作業着を着て、土木作業の片棒を担いでいるのか。


メリダの問いに、隣にいたウドも「(コクコクッ!)」と激しく首を縦に振り、前髪の奥から興味津々の目を向けた。


バッカスは顔をしかめ、鬱陶しそうに手を振った。


「……なんだその大師匠ってのは、オレはお前らの師匠じゃねえぞ」

「でも、学校の教科書にも載ってるッスよ。大師匠ッス」


「めんどくせぇな、おい。言っとくがあれは魔石の性質がすごいんであって、おれの刻印がすごい訳じゃねえんだ」


「でも、連環の魔法刻印がなきゃ『蓄魔』はムリだったッス!」


その言葉に、バッカスはふと手を止めた。

(……連環、か)


『連環』の魔法刻印。それは『円環』の連続だ。なんとか魔力を溜められないかというテーマで彼が生み出したその刻印を、全く違う『魔法の余韻』に使うなどと思っていなかった。


カイトが発案したあの泥を固める圧密魔法で、バッカスは回路の終端に円環の刻印を使い、ため息のようにじわじわと魔法を弱めていく仕組みを組み上げたのだ。


(……そういや、あのデタラメな魔法を形にしてやった後、俺はここを去るつもりだったな)


バッカスは内心で苦笑する。


カイト用に魔石をいくつか用意して償いをしたら去ろうと思っていたのに、今じゃ立派な泥靴村の住人になっていた。


無論、バッカスが作った魔石は正当な対価でフェルメール家が買い取ってくれているし、ここにいれば食い物と住まいは無料でついてくる。


だが、彼をこの村に引き留めている一番の理由はそれだけではなかった。

バッカスはインテリ眼鏡をクイッと押し上げて、ニヤリと笑った。


「決まってんだろ。ここは、新たな魔法技術を発見する『宝庫』だからだよ」


「宝庫……ッスか?」


「ああ。じゃあひとつ、面白れぇこと教えてやるよ。お前らが今動かしてる、あのローラーに使ってる魔石は、何を使ってると思う?」


バッカスが背後の二トンのローラーを親指で指差す。

メリダとウドは顔を見合わせ、真剣な顔で考え込んだ。


「あんな重そうな石をブルブル震わせて、しかも摩擦を消すなんて……超高密度の『重力グラビティ』の魔石ッスか? それとも『反発』の複合術式とか……」


「………(コクコクッ)」


メリダの予想に、ウドも同意するように頷く。


「まぁ、普通は複合を考えるだろうよ。でも違うな!」


バッカスはあっさりと首を横に振った。


そんな二人に向かって、バッカスは「これだよ」と短く言い、作業着のポケットから昨日二人に握らせた『クズ魔石』を取り出して親指でピンッと弾いた。


「おわっ!?」


飛んできたそれを受け取ったメリダは、手のひらにある石を見て、息を飲んだ。


「……これじゃあんな動きは再現出来ないッス。落ちこぼれのアタシだって、それくらいは分かるッス!」


「ああ、お前の言う通りだ。だが、使ってるのは間違いなくそれだ!」


バッカスは面白そうに笑い、ミスリルの大槍の側面をコンコンと叩いた。


「お前ら、『魔力』ってのはカミナリみたいに一瞬で伝わると思ってるだろ? 違うんだよ。水みたいに、ジワァ〜っと伝わっていくんだ」


「……え?」


「その伝導体であるミスリルの槍に、クズ魔石を百個並べて縛り付けたらどうなる? 魔力がジワジワ伝わって、順番にピクッと跳ねるんだよ。俺はただ紐で縛っただけだ」


メリダの目が大きく見開かれた。


「はぁ!? そ、そんな馬鹿な……!? ただクズ魔石を並べた時間差だけで……あんなデカいもんが振動するってのかよ!!」


「俺も時間差は分かってたつもりだったんだけどな。まさかその手があるとは思わなかったよ」


バッカスは呆れたように息を吐き、そして少し離れた丸太の上に座っている『黄色いヘルメットの五歳児』をアゴでしゃくった。


「……それを思いついたのは、あそこでビスケット食ってる、ウチの現場監督(五歳児)だけどな」


メリダとウドは、丸太の上で「おいしいね!」と無邪気に笑っているカイトを見て、ポカンと口を開けたまま完全にフリーズした。


そんな二人の肩を、バッカスがポンと軽く叩く。


「おう、他でベラベラ喋るんじゃねえぞ。この技術だけで相当な金になる。まあ、裏切って他人に教えた場合、ここから湧き出る『次の技術』は一生、拝めねぇけどな」


「「……ッ!!(コクコクコクッ!!)」」


二人は息を呑み、弾かれたように激しく頷いた。


バッカスはニヤリと悪戯っぽく笑うと、再び車軸の点検へと戻っていった。


残されたメリダとウドは、手の中の『クズ魔石』と、無邪気に笑う五歳児を交互に見比べ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


(王都の魔法院のエリート連中が束になっても思いつかないような技術が、この辺境で、これからもドカドカ湧き出てくる……!? アタシたち、とんでもないトコに来ちまったんじゃ……!)


魔法学校では「加減を知らない馬鹿」と見下され、居場所がなかったメリダとウド。


だが今、二人の胸の奥には、これまでに感じたことのない強烈な『高鳴り』が生まれていた。


「おーい! 下地ができたぞ! ローラー再開だ!」


「………(スッ)」


ウドが、先ほどまでとは違う、鋭い目つきで車軸を握り直す。

ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!


再び空気を震わせる重低音が響き、ウドの引く巨大ローラーが動き出す。

その圧倒的な光景を前に、メリダは背負っていた丸太の杖をギュッと握り直した。


「……裏切るわけないッスよ。アタシも、その『次』ってやつを一番特等席で見てやるッス!!」


メリダはニッと野性的に笑い、丸太のような杖をドスンと肩に担ぎ直した。

その瞳には、馬車酔いで泣きそうになっていた時とは全く違う、これから始まる自分の「初仕事」への、静かな高鳴りが宿っていた。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」と思っていただけましたら、

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週末ですね。集中工事行います。ご安全に!


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