第121話 生きた伝説のお墨付き!
キャンキャンと涙目で虚勢を張るメリダ。
その時、彼女の背後から野太い声が降ってきた。
「おう。やけに威勢のいいのが来たな。王都から来た『魔力樽』ってのはお前らか?」
「あァ!? 誰に向かって口きいて……ッ!?」
カチンときたメリダが、丸太のような杖を振りかざして振り返り――
そのまま、石像のようにピタリと固まった。
無精髭に熊のような分厚い体格。丸いインテリ眼鏡の奥から覗く鋭い眼光。両手にはジャラジャラと魔石を抱えている。
見間違えるはずがない。
魔法学校の教科書に必ず載っている、この世で唯一魔力を溜めておける魔道具の生みの親。生きた伝説の魔導刻印師・バッカス本人だった。
「……えっ?」
メリダの口から間の抜けた声が漏れた。
一瞬前まで牙を剥いていた顔が、みるみる真っ青になり、涙目が限界まで見開かれた。
背後のウドも前髪の奥で目を見開き、口をパクパクさせている。
激しい馬車酔いの吐き気など、一瞬で吹き飛んでいた。
「ウソだろ……本当に居たよ。教科書で見たまんまじゃねえか、ヤッベーよ!」
「………(コクコクコクッ!)」
王都で全落ちした落ちこぼれの二人。
彼らは今、歴史上の偉人が作業服姿で普通に歩いているという信じられない光景のど真ん中に放り込まれていた。
「おい、どうした? さっきまでの威勢はどこ行った?」
「い、いえッ! 滅相もねェッス! お会いできて光栄の極みであります!!」
メリダは秒で直立不動になり、声が完全に裏返っていた。
ウドに至っては感動のあまり、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めている。
そこへ、顔面を絶望に染めたロバートが、震える手で二人の履歴書をバッカスへと差し出した。
バッカスは両手に抱えていた魔石を近くのローラーの上にガラガラと無造作に置くと、履歴書をひったくり、しかめ面のまま目を通す。
「……なるほど。王都の嬢ちゃんども、またえらく面倒くさいのを寄こしてきたな。まったく、相変わらずだぜ……」
バッカスは鼻を鳴らすと、手元の書類と二人を交互に見比べながら、太い指で紙面を叩く。
「よし、無駄な挨拶はそのくらいにして、さっそくお前らの『性能』を見せてもらおうじゃねえか」
そう言うとバッカスは、ローラーの上に置いた魔石の中から小さい石を一つ摘んだ。
「まずはこれだ。魔力を流すと跳ねる『クズ魔石』だ。ゆっくり流せよ? 勢いよく流しすぎると割れるからな」
大男のウドが震える手で受け取る。
前髪の奥で極度に緊張しながらもそっと魔力を流すと、クズ魔石は大きな掌の上で「ピョン、ピョン」とリズミカルに跳ね続けた。
「ほう、見かけによらず魔力制御が丁寧で安定してやがるな。合格だ」
「……!(コクコクコクッ!)」
伝説の魔導刻印師から直接褒められ、ウドが感極まったように何度も頷く。
「よし、次、メリダ。お前がやってみろ」
「は、はいッス!!」
緊張したメリダがクズ魔石を受け取り、手のひらに載せ、反対の手に持つ杖にグッと力を込める。
ピョン、ピョン、ピョン、ピョン、ピョン――
「パンッ!!」
五回目に跳ねた瞬間、無駄に強い魔力圧に耐えきれずクズ魔石が弾けた。
「ああっ!? す、すんません! アタシ、昔からこういう細かいコントロールが全ッ然ダメで……!」
顔面蒼白で謝るメリダ。魔法学校でもこれが原因で「才能なし」の烙印を押されたのだ。だが、バッカスは面白そうに口角を上げた。
「気にするな。じゃ次だ。この『ウォーターの刻印』が入った水の魔石に魔力を流せ。最初はチョロチョロと、だんだん流す量を増やすんだ」
再びウドからテストを行う。ウドは言われた通り指先からチョロチョロと水を出し、最後には勢いよく水を出して、見事に水量をコントロールしてみせた。
「おう。スムーズに可変出来てるじゃねえか。よしよし。次、メリダ」
「うっス……!」
メリダが背中に杖を回し、ウドから両手で魔石を受け取ると、気合を入れて魔力を制御しようとした。
「うおおおッ!!」
しかしウォーターの魔石からは、そんなメリダの願い虚しく「ジャーーーッ!!」と消火栓が破裂したような勢いで水が噴き出した。
コントロールなど一切感じられない、全力の垂れ流しである。
「わ、わわっ! 止まんねぇ!」
あっという間にメリダの足元には巨大な水たまりが出来上がってしまった。慌てて魔力を切ったが、メリダはしまった!という顔をしている。
「……なるほどな」
バッカスは納得したように分厚い顎を撫でると、一回り大きな魔石をメリダにポンと投げ渡した。
「じゃあメリダ。その水たまりをその魔石で乾かしてみろ。カイトの坊主用に俺が作った『ドライ(乾燥)』の刻印が入った特注品だ。目一杯、魔力を込めても大丈夫だ。思いっきりやれ!」
「こ、これでッスか? 思いっきりやっていいんスよね」
メリダはそう言うと、ウドに水の魔石をポイっと放り、背負っていた丸太のような杖を手に持つと、その先端に、渡された特注魔石をガコンッとはめ込んだ。
それを見たバッカスが、面白そうに目を細める。
「ほう。最初の二つは手でやったが、本気を出す時はその杖を通すのか。今時、そんなデカい木製の杖は珍しいな。魔力制御なら、ミスリルのワンド(短杖)を使った方がよっぽど楽だろうに」
「か、買えないッスよ、あんな高いモン! それに……アタシの魔力圧だと、安物の細い金属杖じゃすぐに熱を持って焼き切れて、ひん曲がっちまうんです! これなら不格好ッスけど、太い分だけ魔力がガンガン通せて、頑丈で壊れないんで!」
貧乏ゆえの苦肉の策。
だが、それを聞いた伝説の魔導刻印師は、バカにするどころかニヤリと深く笑った。
「……なるほど、理にかなってやがる。細かい制御を捨てて、太い魔力を一気に流し込むためだけの『極太の回線』ってわけだ。いいぜ、思いっきりやってみろ」
「よーし……!」
偉人から自分の相棒(杖)を肯定され、メリダの顔がパッと明るくなる。
彼女は丸太の杖を力強く握り直し、先ほどよりさらに強く「ジャーーッ!」という感覚で魔力を叩き込んだ。
「ドライッ!」
すると、足元の巨大な水たまりがシュウゥゥゥッ!!と凄まじい白煙を上げた。
水たまりは大量の白煙を噴き上げながら、徐々に小さくなっていき、やがて、最後の水滴まで完全に蒸発した。
魔法学校なら「加減を知らない馬鹿」と罵られる大味な魔法と、時代遅れの不格好な太い木の杖。
だが、この土木現場において、その圧倒的な出力と頑丈さは間違いなく『最強の武器』だった。
(……ほう。魔力圧はカイトの坊主までとはいかねぇが、かなり強いな。よっぽど太い魔力経路を持ってやがる)
「……坊主、こいつらの配置は決まったぜ!」
バッカスが振り返った先には、ちょこんと並んで立つ二人の子供の姿があった。以前カイトから貰った黄色いヘルメットを被るマリーと、新品のツヤありヘルメットに図面を抱えたカイトである。
「ウドは持続力と安定感がある。コートローラー(整地用の重機)に回そう。で、このメリダとかいう娘は出力特化だ。ドライ(乾燥)担当はこいつで決まりだな」
バッカスの査定結果を聞いて、ヘルメット姿の五歳児は顔をくしゃくしゃにして無邪気な笑顔を浮かべた。
「わぁーい! おにいちゃんもおねえちゃんも、すっごくお仕事じょうずなんだね! よろしくね!」
(ふぉふぉふぉ……! こりゃ最高の『大型重機』を二台も引き当てたわい! これなら基礎工事の乾燥も、ローラーでの地固めも、倍以上のスピードで進められるぞい!)
こうして、魔法学校の落ちこぼれだった二人の『魔力樽』は、歴史に名を残す生きた伝説のお墨付きを得て、泥靴村の土木現場へと正式に配備されることになったのである。
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