第107話 超簡単!魔導振動ローラー
カイトの号令で、バッカスをはじめとする村の男たちが、門の近くにある山の斜面へと集まった。
「おい坊主、こんな山の斜面で何をする気だ? まさかここにその『ローラー』とやらを作るのか?」
百個のクズ魔石が入った麻袋を下ろしながら、バッカスが不思議そうに首を傾げる。カイトはニコニコと頷くと、短い指で山の斜面を指差した。
「うん! まずは、ここをちょっとけずって、平らな所をつくるよー!」
男たちがスコップを振るい、山の斜面の一部を削り取って平らな足場を作る。
「あ、ストップ! おじちゃんたち、そこは テキトーに けずっちゃ ダメだよ! 『レベル』をあてて、きっちり まっ平らに してね!」
カイトの可愛らしい、けれど妙に的確な指示が飛ぶ。
(基準となる足場が傾いておっては円柱も歪む。まずは完璧な『水平』を出すのが基本中の基本じゃ!)
男たちは顔を引き締め、何度もレベルを確認しながら、斜面に完璧な水平を作った。
「よし! じゃあ、バッカスのおじちゃん! そこに『ミスリルのヤリ』をズドン! って さして!」
「あぁ、ここか?……そぉらよっと!」
バッカスが大槍を構え、平らになった地面の中央に突き立てた。その瞬間、カイトがパタパタと駆け寄ってきた。
「待ってて! おじちゃん、 前からも横からも、ちゃんと『真っ直ぐ』になってるか 見るね!」
カイトはバッカスに抱えてもらうと、下げ振り(重りをつけた紐)を手に取り、槍の穂先から垂らした。地面に対して寸分の狂いもない「垂直」が出ているかを、二方向から厳しくチェックする。
「……こっちに、ゆび3本ぶん たおして。……うん、そこでストップ! その かくどのまま、たたいて いれて!」
「へっ、細かいな……! だが、これが軸になるんだな? わかったぜ!」
バッカスがカイトをおろした後、垂直を維持したまま槍を支え、村の力自慢たちが交代で巨大な木槌を振り上げた。
ドシンッ!! ドシンッ!!
重い衝撃音が響くたび、ミスリルの大槍がじりじりと大地に吸い込まれていく。カイトはその都度、下げ振りを当てて角度がズレていないかを確認し、少しでも傾けば「ひだりを トントンして!」と的確な指示を飛ばした。
バッカスは、カイトを抱えては「あっちから叩け」「そのまま横に移動しろ」と言われたい放題だった。
「坊主、お前、人使い荒くねぇか!」
「えへへー、よし、うまった! まっすぐも バッチリだよ!」
バッカスの苦情をサラッと受け流し、ようやく槍が理想の深さまで到達してローラーの回転軸が確定した。
次にカイトは、一本の長い紐を取り出し、片方の端を槍の柄に結びつけると、もう片方の端には尖った石をしっかりと縛り付けた。
「ヤリのまわりを、ぐるーっと回って、線をひくよ!」
カイトが紐をピンと張り、槍を中心とした巨大な『真円』を地面に描く。
「このマルのとおりに、まっすぐ、ほっていくよー!」
カイトの指示で、男たちが円に沿って垂直に穴を掘り進める。
途中、削りすぎた場所は、土に水を混ぜて補修させ、理想的な円柱の穴を作り上げた。
底面にもう一度レベルを当てて平らなのを確認すると、カイトはバッカスが夜な夜な内職して仕上げた『クズ魔石』を、槍の真ん中あたりにズラリと縛り付けさせた。
「なぁ坊主。ゼノスの野郎は『金貨が何十枚も飛ぶような加圧と振動の複合魔法だ』って青ざめてたが……こんな不良品の魔石を並べて、本当に巨大な石を震わせられるのか?」
「あのね、バッカスのおじちゃん! まほうの力って、カミナリみたいに『ピシャッ!』ってならなくて、お水みたいに『ジワァ〜』って つたわっていくよね?」
「あ、ああ。ミスリルの槍みたいな極上の伝導体でも、端から端まで魔力が通るには、ほんのわずかだが『時間差』があるな。……それがどうし……ッ!?」
バッカスはハッとして、ミスリルの大槍にズラリと並んだクズ魔石を見た。
手前の魔石から順番に魔力が到達し、時間差で『ピクッ』と連続して跳ねる。それが槍の先端まで到達した頃には、手前の魔石はすでに止まっており、魔力を流し続ければ無限の『波』が生み出されるのだ。
「……ウソ、だろ? 術式なんか一切組まねぇで、ただのクズ魔石を並べて『時間差』を利用するだけで……強烈な振動を生み出すっていうのか……!?」
「ゼノス おじちゃんは、むずかしく カンガエすぎ なんだよ〜! 」
バッカスは、五歳児が放った常識外れの理論に戦慄し、大興奮で震え上がった。
「すげぇな坊主! だが……肝心の『下に向かって押し潰す力(加圧)』はどうするんだ?」
「ププッ! おじちゃん、なにいってるの? そんなの、いらないよ!これ、すっごくオモイから」
カイトは笑いながら、完成した巨大な穴をバンバンと叩いた。
(加圧魔法じゃと? アホウめ。上に押し潰す力なんて、これからこの穴に流し込むバカでかい人工石の『重さ(質量)』だけでお釣りが来るわい! 重力に勝るプレス機などないわ!)
「よし! 『こな(生石灰)』と『ジャリ』と『どろ』を、いっぱい 入れてー!」
ジュワアァァァァァッ!!
穴のすり切り一杯まで材料が満たされる。
最後にブレスレットに付けた魔石を発動させ、圧密魔法を放つ。
「お水ぬいて、カッチカチになぁれ!」
ゴォゥゥン!!
魔法による脱水と生石灰の化学反応。
穴からは水蒸気が噴き出し、周囲の気温が上昇する。
魔法の奔流は、ほとんど地面に流れてしまったが、直径一メル程度ならカイトには造作のないことだった。
「……これで、しばらく置いておけば カチカチに 固まるよ!」
数時間後。
山の斜面に掘られた縦穴の中で、魔法と生石灰の熱によって完全に水分が抜け、巨大な人工石がカチカチに固まった。
「よし! まわりの つち(土)を ほって、これを ヨコに たおすよー!」
カイトの指示で、男たちが山の斜面の下側(谷側)の土をスコップで崩していく。
そこに鍛冶屋のバルカスが重い金属の音を響かせながら、鉄の部品を抱えてやってきた。
「おーい、坊ちゃん! 頼まれていた鉄のパーツ、打ってきたぞ!坊ちゃんの絵の通りに作ったが……って、なんだこりゃ!」
バルカスが地面にドサリと置いたのは、アルファベットの『F』の形をした、二つの巨大で分厚い鉄のパーツだった。
「バルカスおじちゃん、今からこれを たおすから、まってて」
「なんなんだこりゃ。バカでかい丸石から、ミスリルの大槍が突き出てるじゃねぇか」
バルカスは丸太のような腕を組み、目をひん剥いた。
その視線の先で、バッカスが中指で眼鏡を押し上げながら不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「フン、遅えぞ、野生熊。この大槍は単なる車軸じゃねぇ、俺が組んだ魔石の振動を伝える『芯』だ。お前の作った鉄枠で、俺の繊細な魔導の動きを邪魔すんじゃねぇぞ」
「あぁん? インテリヒグマのくせに偉そうに! 魔導師の貧弱な石っころの振動なんざ、俺の鍛えた鉄枠がビクともせずに受け止めてやるよ!」
分厚い胸板をした二頭の熊が、火花を散らして睨み合う。
「おじちゃんたち、ほんとに、なかよしさんだね!」
「「だから、仲良くねぇよっ!!」」
カイトの無邪気な言葉に、二人の怒鳴り声が見事にハモる。
土の壁が取り払われると、そこにはミスリルの大槍を中心にして鎮座する、直径一メル、幅二メルの巨大な円柱が姿を現した。
男たちがテコの原理を使って丸太で押し出すと、ズシンッ!と重い音を立てて円柱が横倒しになる。
これで縦に刺さっていた大槍は、地面に対して水平な『車軸』へと変わった。
(ふぉふぉふぉ。斜面を利用した縦穴で打設し、最後に周りの土を崩して横に倒す。これでバカ重いコンクリートを持ち上げる手間もなく、そのまま車輪として現場に転がせるという寸法じゃ!)
「あのね! そのバルカスおじちゃんの 鉄のわく『F』のカタチの でっぱりを、ウチガワに むけてみて!」
カイトが短い腕でジェスチャーを交えながら指示を出す。
男たちが二つのF字パーツを起こし、出っ張り(横線部分)を内側で向かい合うように配置した。
「そしたら、わくの下の穴に、ヤリの りょうはじ(両端)を 入れるの!」
「なるほど、この一番下の穴が、車軸を通すジョイントになるのか!」
バルカスと男たちが、横倒しになった大槍の両端を、F字パーツの下部に開けられた丸い穴へとそれぞれガシャン!と通した。
これで車軸が完全にホールドされ、ローラーが転がってもフレームが外れることはなくなった。
車軸を通したことで、F字の長い縦線部分が、ローラーの側面から前方へと真っ直ぐに伸びる。
「上の 板はローラーの前で、 向かい合わせになって、二つの板が 重なるよね? そこが『もつところ』に なるから、なわ(縄)を ぐるぐるまいて ね!」
「おう! 任せとけ!」
ローラーの前方で内側に向かって伸び、交差するように重なり合った二枚の鉄板。そこを男たちが極太の麻縄で何度も巻きつけ、力一杯に縛り上げた。
完成したのは、巨大な円柱を前方に引っ張るための、頑丈な『コの字型の牽引フレーム』だ。
グラウンドを均すコートローラーのような無骨なフォルムである。
(ふぉふぉふぉ。下部の穴の隙間と『麻縄』で縛って固定。こうして結合部に遊び(ゆとり)を持たせることで、魔石の振動がローラーを引く男たちの手に直接伝わって痺れるのを防ぐようになった筈じゃ!)
「……ふぅ。……やるじゃねえか、野生熊。見た事もねぇ現物に、寸分の狂いもなく完璧な寸法の枠を合わせやがったな」
バッカスが眼鏡を押し上げながら、ニヤリと口角を上げる。
「へっ。当たり前だ。どんだけ坊ちゃんの無理を聞いたと思ってやがる!」
「そうだな、その無茶振り、何回、形にしたかワカンねぇ。でもよ、それを遣り切った時、この坊主…坊ちゃんは新しいもんをいつも見せてくれる」
「ああ、違ゲェねぇ」
バッカスもバルカスもフンと鼻を鳴らしながら、満足げに大槍と牽引フレームを見つめ返した。
重さ約二トンの質量を誇る、この世界初の超重機。
魔導師と鍛冶師、仲良くいがみ合う二人の職人の技術が見事に結集した『重圧式・魔導振動コートローラー』が、泥靴村に生まれた瞬間だった。
「「名前長すぎだろっ!」」
やっぱり仲がよかった。
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