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第102話 伯爵驚愕。高級泥パックの正体

(ふぉふぉふぉ、親父パパよ、完全に魂が抜けとるな。……だが心配するな! 雨の日にワシがニヤニヤしながら考えていた『あの台地のゾーニング計画』が、ここで火を吹くぞい!)


「おじちゃん! だいじょうぶだよ! それ、ぜんぶ パパとボクで かんがえてるもん!」


カイトは黄色い帽子ヘルメットを直しながら、短い足でトテトテと地図の前に歩み出た。


「この先に『かたい じめん(台地)』があるの。それを次に見てもらうよていしてたの。そこにおっきい おうち(巨大倉庫)と、いっぱい とまれる おやど(大衆宿)をつくるんだよ! おみず(湿気)も たまらないから、だいじょうぶ!」


「……なんだと?」

伯爵が目を丸くした。


「この おんせんはね、『えらい おじちゃんたち』が はいるの! だから、おやどを わけるの!」


(客層に合わせたハコ(宿)の分離・ゾーニング。これが都市計画の基本じゃ!)


内心でドヤ顔をするカイトの言葉に、伯爵は絶句した。


「……アルベルト。それは本当か? この先に大規模なハブ施設の建設を計画していたというのか……!?」


「え? あ、は、はい! その通りでございます閣下! すべて計算通りに……!」(※パパは今初めて知った)


伯爵は深く息を吐き出した。


「……恐れ入った。既存の道の整備費用は、私から追加の融資を出そう。急ぎ工事にかかるがいい」


(……ふぉふぉふぉ! チョロい、いや話の分かるスポンサーじゃわい! 実を言うと、伯爵が目を付けた『山を削った跡地』には、これから増える住民の新しい家を作るつもりじゃったが……確かに伯爵の言う通り、そっちにもハブ施設を拡張するのもアリじゃな。よーし、なら伯爵からもっとふんだくる(投資させる)為に、特大の『見せ金』をぶつけてやるぞい!)


カイトは無邪気な笑顔を全開にして、天幕の外に向かって元気よく声を張り上げた。


「マダムー! はくしゃくのおじちゃんに、『あれ』もってきてー!」


「はぁーい、お呼びかしらァ?」

天幕の入り口がバサリと開いた。


その瞬間、伯爵と護衛たちの動きがピタリと止まった。


そこから現れたのは、全身を黒革の装束ボンテージで締め上げた、巨大な男……いや、濃い化粧を施した『オカマ』だった。


あまりにも奇抜で暴力的なビジュアル。王都の社交界を牛耳る凄腕の商人だと聞いていた伯爵だが、まさかこれほど規格外だとは想像もしていなかった。


護衛たちが思わず剣の柄に手をかけそうになるのを、マダムは恐ろしく妖艶な流し目で制し、悠然とした足取りで進み出た。


「見事な計画ですわね、アルベルト様。……ウフフ。そして温泉をお気に召して頂けて光栄の至りですわ、伯爵閣下」


マダムは恭しく、手元の革の巾着袋を差し出した。


「こちらはアタシからの、ささやかな手土産でございます。奥様……ベアトリス様にお渡しくださいませね」


***


――実は、彼らが湯船で至福の溜息をついている間、カイトはマダム・ゴンザレスの元へ向かい、打ち合わせていた。


『マダムー、あのね、はくしゃくのおじちゃんに、どろぱっくのおみやげ、あげたいの!』


『あらカイトちゃん。伯爵に? ……なるほど「スポンサーの機嫌取り」ってわけね。いいわ、任せなさいな! 王都の女たちが血眼になって探してる特級品を、アタシがとびっきりの包装で用意してあげるわよ!』


マダムはウィンクを飛ばすと、竹林の奥の養成場から極上の泥をすくい上げ、高級感のある小瓶にたっぷりと詰めた。さらにそれを、モーガン商会で大ヒットしている「F」の焼き印が入った、特製のスライダー革巾着袋に収めて準備していた――。


***


伯爵は不思議そうに袋の口を開け、中の小瓶を取り出した。

栓を抜いた瞬間、ふわりと漂う香り。


「……!! この特有の硫黄の匂い、そしてキメの細かい滑らかな泥……! まさか、これがフェルミエール……!」


伯爵の目が限界まで見開かれた。


マダムがこれを扱う商人であることは知っていた。だが、王都で金貨が飛び交うほどの超高級品を捌けるほどのやり手が、なぜわざわざこんな辺境の村で、まだ完成すらしていない温泉宿の『管理人』などを引き受けているのか。


「……待てよ。フェルミエール……フェルミエール? フェルメ……まさか!?」


伯爵が信じられないものを見るような目で、カイトとマダム、そして先ほどまで浸かっていた温泉を見比べる。

王都の貴婦人たちが奪い合っている異国の超高級泥パックの正体が、分かってしまった瞬間だった。


だからこの商人は、生産拠点であるこの村に居座っている……!!


「……あ、ああ。そういうことか。……なるほど、そういうことか……!!」


すべてが繋がり、驚愕のあまりなおも何かを言いかけて口をパクパクさせる伯爵。その唇に、マダムはスッとごつい人差し指を当てた。


「あらん、閣下。そこから先は『乙女の秘密』よん?」


マダムが色っぽく微笑んでお口にチャックをする仕草を見せると、そのただならぬ迫力と事実に、伯爵はゴクリと生唾を飲み込んだ。


(……このフェルメールを敵に回すわけには絶対にいかない……。この底知れぬ技術と富を生み出す家を敵に回せば、我が派閥は一瞬で壊滅する……!)


すべてを察した伯爵の顔に、底知れぬ商機と、フェルメール家の末恐ろしさに対する特大の感嘆が浮かぶ。


「このフェルメールは……とてつもない富を生み出す……アルベルト。貴公の息子は……いや、フェルメールそのものが、王国を変える 存在になるかもしれないな」


伯爵は、小瓶の入った革袋を、自らの命よりも大事な宝物のようにしっかりと懐に抱え込んだのだった。

本日もお読みいただき、ありがとうございました!

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