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第101話 伯爵の全物流宣言。笑う五歳児

(……工期をミスリルで買うつもりだったが、まさかこれほどとは。私の投資は決して無駄ではなかった。いや、それどころか……)


伯爵は、足元で無邪気に笑っている黄色い帽子の五歳児を見下ろし、安堵と同時に、背筋を這い上がるような恐ろしさを感じていた。


この幼児は、あの『水準器レベル』を作り出してフェルメールの多額の借金をあっという間にチャラにさせた。さらにこの泥沼での道作りにおいては、この道作りを主導しているともここに放った隠密から聞いた。


だからお披露目パーティの席で、派閥全員のいる前で分かるように「あのバングル」を渡した。


更にだ。魔法に関しては今見た通り、宮廷魔導師すら赤子扱いするとんでもない魔法の才を発揮し、力業で領地をひらいている。


(……この子は、恐ろしい。味方でいるうちはこれほど頼もしい存在はないが、もし敵に回せば、どれほどの脅威となるか……)


そんな内心の戦慄を必死に隠していると、アルベルトが伯爵たちを湿地の広場に建てられた真新しい建物へと案内した。


「閣下、どうぞこちらへ。ここはマダム・ゴンザレスが管理する予定の、温泉旅館の目玉となる大浴場でございます」


「ほう、温泉とな。……マダム・ゴンザレスといえば、王都の社交界で『フェルミエールの美肌泥パック』を売り捌いているという、あのやり手の商人か。ベアトリスがその話を茶会の席で聞き、一瓶をなんとか手に入れたと聞いたが……アルベルト、そんな大物をこの宿の管理人にスカウトしたと言うのか…?」


(クククッ! セシリア嬢ちゃんとマダムの奴、異国の高級品に見せかけて相当儲けよったな! ワシが温泉の端っこに作った泥水溜まりが、そんな事になっとるとは思わんかったわい。こりゃ伯爵が帰る前に土産でも持たせてやれば、更に投資したがるかもしれんの)


案内されて足を踏み入れると、ふわりと心地よい硫黄の香りと熱気が伯爵一行を包み込んだ。


「まだ宿の建物自体はこれからなのですが、湿地の中でこの温泉を発見しまして、先に入浴設備の方だけを作ってしまったのです」


「ささ、閣下。道中で冷えたお身体を、どうぞ存分に温めてください」


アルベルトに勧められ、伯爵と護衛たちは極上の温泉を堪能することになった。


中に入ると、その先には、大人数でも入れる巨大な湯桶ゆおけが、並々と澄んだ湯を湛えていた。


湯桶の周りには水捌けの良いデッキが組まれ、頭上には立派な屋根が掛かっている。五十メル離れた源泉から木のといを伝わせることで、熱湯を適温まで下げるという計算し尽くされた造りだ。


さらに伯爵の目を引いたのは、湯船の奥の景観だった。

見事な巨岩が飾り岩としてドシリと据え付けられ、滑らかなカーブを描く石垣の背後には、風情のある竹林が青々と植え込まれている。


「……見事だ。ただ湯を流すだけでなく、これほど計算された優雅な空間を造り上げるとは」


伯爵は、竹林と石垣によって巧妙に目隠しされた奥が『泥パックの養成場』であることには気づくことなく、辺境の泥沼に突如現れた高級宿顔負けの露天風呂の風情に、ただ純粋に感嘆の息を漏らした。


「いや、素晴らしい湯だった。旅の疲れと、色々な心労がすべて洗い流された気分だ」


すっかり上機嫌で果実水を呷った伯爵だったが、ふと鋭い投資家の目つきに戻り、アルベルトに向き直った。


「しかしアルベルトよ。あの底なし沼に道を通す手腕と魔法は見事だったが……肝心の『物流』について、貴公はどう考えている?」


「ぶ、物流ですか? ですから、南北のバイパスが完全に開通するまでは、我々が王都へ向かうための道として使い……」


「馬鹿者。貴公は本当に政治というものが分かっておらんな」


伯爵は呆れたように息を吐き、天幕のテーブルに広げられた地図を指で強く叩いた。


「いいか、私がなぜ多額の資金を投じていると思っている。ヴァロワ侯爵派であるボルドー領を通って、奴らに『通行税』という名の資金を落とすのを一刻も早くやめたいからだ。南街道と繋がったその日から、たとえ距離が延びようとも、我が派閥の全物流をこの村経由に切り替えるのだぞ!」


「なっ……!? ぜ、全物流、ですか!?」


アルベルトの顔からスッと血の気が引いた。今の今まで、自分たちだけが使う道だと呑気に構えていたのだ。


「いいか。北街道を抜けてからここへ至るまでの二十キロ余り……あそこはまだガタガタの細い泥道ではないか。それに、長旅の商人たちを休ませる『宿屋』や、莫大な物資を保管する『倉庫』もない。街道に繋がった瞬間、馬車が大渋滞を起こして機能不全に陥るのは火を見るより明らかだ」


「あ……」


「ここへ来る道中、山が削られ、平地になっている場所があったな。あそこに今すぐ巨大な倉庫と宿屋を建てろ! 既存の道の整備も急務だぞ!」


伯爵の圧倒的な重圧プレッシャーと的確な指示の前に、アルベルトは完全に言葉を失い、滝のような冷や汗を流したのだった。


一方、カイトは黄色い帽子ヘルメットをちょこんと直し、静かにほくそ笑んでいた。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!

もし「面白い!」「続きの工事が気になる!」と思っていただけましたら、

ページ下部より【☆☆☆☆☆】の評価と、ブックマークでの応援をよろしくお願いいたします!


物語が伏線回収回と繋がったので、粗朶マット(原稿ストック)の在庫がドカンと増えました!

週末はいつもより多めに道を伸ばします(更新します)ので、お楽しみに!

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