祝・百話突破記念S S 風林火山
皆様の応援のおかげで、無事に100話を突破することができました!
今回は記念の特別編として、ロバートたちが泥靴村へ向かう少し前、
王都別宅でのドタバタ劇をお届けします。
これは、まだロバートが引き継ぎのためにセシリアとアンナと共に、王都のフェルメール家別邸にいた頃のお話。
「……なぁ、アンナ。あのお嬢様、口は悪いが物凄く商才があると思うんだが。……正直、なんであんなに稼げるのに家が没落したんだ?」
ロバートは、王都の貴族家のお嬢様たちに次々と泥パックを売りつけ、居間で金貨の山を築き上げているセシリアの背中を遠い目で見つめながら尋ねた。
傍らで、精製した泥の在庫を淡々とチェックしていたメイドのアンナが、表情ひとつ変えずに答える。
「それは、お嬢様の無駄遣いです」
「無駄遣い? ……そんなに酷いのか?」
「ええ。才能からお金まで、あらゆるものを無駄に使います」
アンナの迷いなき断言に、ロバートはニヒルな笑みを作ることすら忘れてこめかみを押さえた。
「……それ、才能があるのかないのか、よく分からないな」
「稼ぐ才能は神の如く。使う才能は悪魔の如し、です。これまでは後者が勝っていた、ただそれだけのこと。……ですがご安心を。今は私が、その蛇口を物理的に締め上げておりますから」
アンナの手元で、泥パックの壺の蓋が『ミシッ』と嫌な音を立てて閉まった。
「……それと、お嬢様は大食いの才能もあります」
アンナが「今日の天気は曇りです」と言うくらい平坦な声で付け加える。
ロバートは思わず聞き返した。
「……大食いって、才能なのか?」
「はい。どれほど困窮していても、お嬢様の胃袋だけは貴族の誇りを失いません。安酒場のパサパサしたパンでも、高級肉と同じ勢いで消費可能です。供給されるエネルギーに対して、出力されるエネルギーのコスパが悪すぎるのが難点ですが」
「それ、ただの燃費の悪い金食い虫じゃないか!」
ロバートは天を仰いだ。
王都で築き上げたあの金貨の山が、セシリアの喉元を通って跡形もなく消えていく絶望的なビジョンが見えたのだ。
「フッ……。それじゃまるで『風林火山』じゃないか。金を集める早さは『風』の如く、いつの間にか財産が消え去る様は『林』の如く、テーブルの食料を食い尽くす暴食は『火』の如く……。ならアンナ、残る『山』は何だ?」
ロバートは遠い目で、さっきまでセシリアが座っていたダイニングテーブルの上を見た。
そこには、つい先ほどまで山盛りだったはずの肉もパンも、文字通り「火」に焼かれたあとのように影も形も残っていなかった。
アンナは一寸の淀みもなく、事務手帳をパタンと閉じて言い放った。
「反省しないこと、山の如し。――お嬢様の強靭なメンタルです」
「……最強(最悪)じゃないか」
ロバートは膝から崩れ落ちそうになった。
どれだけ稼いでも、どれだけ使っても、どれだけ食べても、本人は『わたくし、何か悪いこといたしましたかしら? オホホ!』と泰然自若としているのだろう。まさに、他人の忠告など意に介さず、微動だにせぬ不動の山である。
「反省しない山か……。そんな山を築かれたら崩せないじゃないか」
「ええ。ですので、山が動かないのなら、周りの地形を変えるしかありません。私は既にお嬢様の財布の底に『検閲』という名の穴を空けています」
「それじゃ財布の意味無いだろう!?」
ロバートの至極真っ当なツッコミにも、アンナは一ミリも動じず、泥パックの壺を棚へ並べた。
「ええ。ですから、入れた瞬間に下から私が抜き取っています。……大丈夫です。お嬢様は、自分がいくら持っていたかを『忘れる才能』もありますから」
「……その才能、本当に誰か、何とかしてやれよ……」
「ただ、お嬢様も『空腹であることを忘れる』という才能だけは持ち合わせておりませんでした。それだけが残念です」
ロバートはもはや言葉を返す気力すら尽き、静かに虚無の表情で自分の胃をさすったのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
皆様の応援のおかげで、カイト親方の泥沼現場も無事に100話という
大きな節目を迎えることができました。
(ちなみに今回の記念SSは、「セシリアってこんなに商才(稼ぐ才能)があるのに、
なんで実家が没落したんだろう?」とふと思い立ち、そのアンサーとして書いてみた裏話です。笑)
次回からは、再び泥靴村での熱い工事(と、親方のブラック指導)が再開します!
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これからも『泥靴村』の開拓を、一緒に見守っていただければ幸いです。ご安全に!




