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異世界の宙(そら) 〜Sword and Magical Space War〜  作者: ぜんざぶろう
第1章 浮かぶ島、広い宙(そら)
2/3

#1 異世界転移

 空の向こうの宇宙(おおぞら)。


 白銀に輝く鎧を纏った大きな鯨の様な艦(ふね)が一隻、蒼く輝く星を背に宙(そら)を進んでいく。輝星教配下の軍隊、星教軍が新造した魔導艦(ルーンシップ)、バハムート級一番艦バハムート。


 比較的安全な宙域(かいいき)での試験航海を終え母港へと帰還する途中、浮かぶ島の一つニザヴェッリルからの救難信号をキャッチし、救援に向かうべく航路を島へと向けていた。



♢



「全く、なにゆえヤツらはあの宙域(かいいき)に突然現れよった!?」


 腰まで伸びたさらりと綺麗な銀髪を生やした少女が、苛立つ様に言葉を吐いた。


「それが分かれば苦労はしませんよ、リリアノ様。しかし、ヤツらはほんとにこちらの都合はお構い無しですな」


 白髪混じりの髪と髭を生やした男が、リリアノと呼んだ少女の横で宥める様に呟いた。


「それはそうじゃな、ラージュ艦長。おかげで、島から一番近かったわしらが向かう羽目になってしもうたわ」


 リリアノはラージュの言葉に、同意するように答えた。



「あの島ってぇ確かぁ、星教軍の魔導研究所がある島よねぇ?星官様のぉ、お気に入りがあそこにあるのよねぇ」


 薄いローブを纏った赤い髪の妖艶な雰囲気の女が、リリアノを見ながら喋った。


「無駄口を叩くな、ヌゥ。真面目に、予知の力で蟲を見つけ出せ」


 リリアノは少し怒った様にヌゥに注意した。


「はぁ〜い」


 ヌゥはしょんぼりとしながら、自分の前にある大きな水晶球を見つめだす。ヌゥは予知の力を使い、艦(ふね)周辺の索敵を担っていた。水晶球に手をかざしじっと見つめていると、水晶球の中に小さな光の点がいくつも現れ始めた。


「見つけたわぁ〜、前方にアラクネ級の群れぇ。数は十体(ジュウ)、距離は三千ねぇ〜」


 ヌゥは状況に似合わぬ艶かしい口調で、索敵の結果を報告する。


「見つけたか!!………ラージュ艦長!!」


 ヌゥの報告を受け、リリアノはラージュの名を呼びながら目で合図した。


「了解しました、リリアノ様。キムナ伝信士!!艦内に通達!!総員、第一種戦闘配置!!」


 ラージュはリリアノの合図の意味を即理解し、艦内の乗組員に通達すべく、伝信、連絡を取りまとめる任に就くキムナに指示をだした。


「了解しました、艦長。指揮所から通達、総員第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘配置、各員速やかに所定の位置へ」


 ラージュの言葉を通達したキムナの声と、それと同時に警報機の音がバハムート艦内に鳴り響き始めた。



♢



 警報音が鳴り響く中、船員たちが自分の持ち場に向かうべく、慌ただしく走りまわっていた。


 そんな状況の中で、艦内にある出撃準備室と記された区画で、これから島に上陸する部隊の一団が手慣れた様子で黒い鎧の様なモノを装着し始めていた。


 それは魔導甲冑(ルーンアーマー)と呼ばれるもので、機械的な鎧に強化魔法と防御魔法を施してあり、装着者の内なる魔力(オド)を消費して身体能力を飛躍的に向上させる事ができる物だ。白兵戦を主にして戦闘を行う、星教軍の戦士たちの標準装備である。


「ちょっとあんた!!何をもたついているんだい!?いつまで新兵気取りなんだい!?」


 額に二本の短い角を生やした、赤い艶やかなショートヘアの女が、魔導甲冑(ルーンアーマー)の装着に戸惑っている自分の側いる若い戦士の一人に怒鳴る様に言った。


「すっ、すいません!!カイン分隊長!!」


 カインのすぐ側で準備していた、若い戦士の一人がカインにびっくりした様に謝り、急いで装備を整えていく。そのやりとりを横目で見ながら、他の戦士達は魔導甲冑(ルーンアーマー)の装着を完了し、各々の武器を手に取り待機していた。


「よし!!あんた達、準備はいいね!?戦いの神ヴァルキリアと共に母なる星を護る為、星教軍の戦士の名に恥じぬよう、全てを捧げて戦え!!」


 カインが自分の分隊の戦士達を見渡し準備が整っているのを確認すると、これから戦地に赴く戦士達を鼓舞する様に言った。


「いくぞぉぉぉ!!」


 戦士達はカインに鼓舞され、手に持った武器を高く掲げながらそれに答えた。


「ウゥーハァーッ!!」



♢



 魔導甲冑(ルーンアーマー)に身を包み戦う戦士達が出撃準備を整えていく一方で、艦内にある別の区画の一つの騎体格納庫でも、出撃準備を整えつつある部隊があった。


 翼を広げて佇む鎧を着た竜の様な姿の小型の魔導船(ルーンシップ)が、一列に並んでいる。ワイバーン型輸送艇と呼ばれるこの魔導船(ルーンシップ)が、戦士達を今から島へと送り届けるため、眠っていた竜が目を覚ます様に次々と起動していく。


 整列した竜達の向かいには、鎧を着た巨人の様な佇まいの魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)達。それはミスリルやオリハルコンといった、魔金属で作られた身体を持ち、乗り込む騎士が内なる魔力(オド)を使い、操り戦う為に作られた魔導の巨人。

 ただ、操るには大量の内なる魔力(オド)を消費する為に、専門に訓練された『騎士』でしか乗りこなすことは難しい。


 その魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)を眠りから起こす為に、騎士達がそれぞれの騎体へと駆けていく。ちょうど胸のあたりから騎士達が魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)に乗り込み、次々と扉が閉まっていく。

 

 そして淡い光が、機体の表面に刻まれている紋様に灯る。


 そんな中、赤い魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)の一騎から非常に落ち着いた雰囲気の、少しばかり冷たく感じさせる女の声が起きた魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)の状態を報告する。


『騎体覚醒、伝信感度良好、騎体各部異常無し。シュヴァリエ一番騎、フィール・リーン、行動開始します』


 ファールと名乗った騎士が操る赤い魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)シュヴァリエは周りに待機していた整備員から問題無しと判断され、そのまま誘導員の指示で射出機(カタパルト)の方へと歩みだす。


 それに続くように、他の魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)達も動きだした。



♢



「魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)隊、及び島上陸部隊の出撃準備が完了」


 キムナが各区画からの報告を取りまとめ、指揮官であるリリアノへと報告した。


「よし、それでは行くとするかの。あの忌々しい蟲どもを蹴散らすのじゃ!!」


 リリアノは不敵な笑みを浮かべながら、力強く命令を下す。艦(ふね)のまとめ役であるラージュはリリアノの命令を受け、指示を出した。


「バハムート、ハッチ開け!!魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)隊、ワイバーン隊は順次発進!!」



♢



 バハムートの腹が左右にゆっくりと開いていき、二本の並んだ道が降りてくる。降りてきた道が艦(ふね)の下部後方に開いたハッチへと接続される。それと同時に、道には3つの光輪が順番に浮かびあがってきた。

 

 先陣でまず魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)隊が発艦し、宙(そら)に展開する蟲を撃破しつつ突破口を作り、後に発艦するワイバーン隊が魔導甲冑(ルーンアーマー)を装着した戦士隊を島に上陸させる作戦だ。


 ハッチが開き道が繋がった今、いよいよ作戦が開始される。


 魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)が二騎づつ並んだ道を射出機(カタパルト)で運ばれ、三つ光の輪、加速魔法の魔方陣を通り勢いをつけ、宙(そら)に展開するアラクネ級を目指し次々と発艦していく。


 しばらくすると、島の近くから、光の矢の様なモノが飛んでくる様になった。アラクネ級による、魔法攻撃が始まったのだ。

 魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)隊とアラクネ級による戦いの火蓋が切って落とされた。そして、ワイバーン隊が順次発艦していく。


 魔導騎兵(ルーンキャヴァリィ)隊が作るであろう突破口を通り、戦士隊を島に運ぶために………。



♢



 日本の地方都市の駅前にある、日本全国どこにでも見かける居酒屋チェーンのとある店。今日の営業も終わり、身支度を済ませ帰っていくアルバイト達。


「それじゃ、今日もお疲れ様でしたー。お先に失礼しまーす」


 平日にもかかわらず、忙しかった営業で疲れ果てたアルバイト達の中で、一際疲れた様子で店長に挨拶する男。


「おう、お疲れさん。明日も忙しいと思うけど頼むわ、一輝(いつき)」


 40代を迎え、アルバイト以上に疲れ果てた様子の店長は気だるい様子で返事を返してきた。


「了解しました、こっちも学費やら生活費やら稼がないかんので、明日もバリバリ働かせていただきます」


 男はそう言い残し店を出ると、近くに停めてあったスクーターにまたがり、キーを回しエンジンをつけた。


 星守(ほしもり) 一輝(いつき) 、22歳。

 幼い頃に父親が仕事から帰る途中に行方不明になり、母親と二人で暮らしてきた。

 その母親も去年、大学三年の冬に病気で突然他界しまい一輝は一人で生きていくことになってしまった。


 母親が亡くなる間際に「私の分まで生きて、幸せになって」と一輝に言い残した一言。彼は母親との約束を守るため、アルバイトをして学費と生活費を稼ぎながら大学生活を送っていた。

 

 今は大学四年なのだが、アルバイトが生活の中心になっているため学業が疎かになってしまい、留年の危機を迎えていた。


(明日もテストだし、帰ったらテスト勉強しないかんな)


 一輝は今テスト期間の真っ只中、今日も睡魔と戦いながら一夜漬けで勉強をしてテストを終わらせ、夕方から深夜までアルバイトをしていた。そんな地獄の様なテスト期間も残すところ後二日となっていた。


(やべー、めっちゃ眠い)


 スクーターで風を切りながら走っているにもかかわらず、ここ数日の寝不足が限界まできていた。

 

瞼が重い。


 信号待ちの時に、一瞬落ちてしまうぐらいに。


 頭が働かない。


 一輝を乗せたスクーターは国道を走り、川にかかる橋を渡りきったところで堤防道路へと曲がっていく。深夜の川の堤防道路は車も少なく、灯りも無いためスクーターのライトのみが道を照らしていた。


夜風が涼しくて気持ちいい気分になるイツキ。スクーターを走らせながら、睡魔に負けて一瞬落ちてしまった。いかんいかんと、ハッと目を覚ました一輝。


 その時だった。


 一瞬意識が落ちてしまったせいで、堤防道路に落ちている岩に気付かず、そのままスクーターの前輪が乗り上げてしまった。その勢いでバランスを崩し、一輝は堤防道路から投げ飛ばされていた。一輝は宙を舞い、堤防下の自分よりも高く伸びた草むら目掛けて落下していく。


(まずいっ、死ぬ!?)


 そう考えたのが一瞬、一輝の身体は草むらに吸い込まれる様に落ちていった。その瞬間、地面に叩きつけられ一輝は意識を失っていった。



♢


 真っ暗な世界でイツキはふと、意識を取り戻した。


(痛ぇ、身体が動かねぇ)


 頭は動いてるはずなのだが、地面に叩きつけられた衝撃のせいか、身体のあちこちが痛み、身体は言うことを聞かない。


(あれ?でも、俺生きてるのか?)


 全身に感じる痛みのおかげで、自分は死んではないのだと気付かされる。しかし、イツキは真っ暗な世界にいる。


(ああー、そうか夜中だったもんな)


 イツキは深夜の帰り道で、乗っていたスクーターが岩に乗り上げ、自分が堤防から投げ飛ばされたのを思い出した。


(やべー、明日テストだし、その後バイトもあるのに、やっちまった)


 イツキは事故ってしまったことを激しく後悔する。


(とりあえず、起きて病院行かないと)


 痛みはまだ残っているが、徐々に言うことを聞く様になってきた身体を起こそうと、イツキは顔をゆっくりとあげようとした。その時、深夜だったはずにもかかわらず、閉じた瞼を通り越す眩しい光を感じた。


(眩しい!?)


 イツキは眩しいのを我慢しつつ、ゆっくりと瞼を開ける。

そこは日中の様に明るい、自分よりも背の伸びた草むらの中だった。


(えっ………!?)


 イツキは一瞬何が起きたのかが分からなかったが、自分が堤防下で意識を失って朝まで気を失っていたのだと気付いた。


(朝!?やばい、テストが………!!)


 イツキは焦った。今日のテストは留年がかかった、大事なテストなのだ。欠席しようものなら、あっという間に留年が決まってしまう。イツキは跳び起きる様に身体を起こし、一緒に落ちてきたはずのスクーターを探し始めた。


 しかし、スクーターは一向に見つからない。


 この辺りから大学までは歩いて行けるぐらい近いことを、イツキは思いだす。幸い、軽い打撲と擦り傷だけで済んだ身体で、探しても見つからないスクーターはとりあえず後にして、大学まで走って行こうと決める。投げ飛ばされたと言っても、そんなに遠くには落ちていないはずだ。

 

 イツキは堤防道路を目指して、まだ若干の痛みが残る身体に気合いを入れて、草を掻き分け進み始めた。いつも通る、この辺りの河川敷はそこまで広くはない。どれだけ遠くに飛ばされていても、すぐに堤防道路に出るはずだ。

 

 だが、進んでも進んでも一向に堤防道路が見えてこない。


 なんだか状況がおかしいと感じ始めたイツキの耳に、遠くから何か爆発した様な音との人の雄叫びや何かの金切り声が入ってきた。


(いったい、なんなんだ!?)


 イツキは訳が分からないまま、音のする方へと向かうことにした。



♢



 戦士達がを乗せたワイバーンが宙(そら)の戦闘空域を通り抜け、島へと降下し、地面まで後少しのところで浮きながら停まった。そして後方のハッチが開き、そこから続々と戦士達が飛び降りていく。戦士達が無事に飛び降りたのを確認すると、ワイバーンはハッチを閉じ再び宙(そら)へと向かって昇っていった。


 戦士達が降り立った先に、無数の人型の蟲が群れを成し、こちらの方へと押し寄せているのが見える。


「こりゃあ、すごい数だな………!!」


 魔導甲冑(ルーンアーマー)を装着した戦士の一人が驚く様に呟く。


「なぁーに、大した事ないさ、こんな状況なんて毎回の事だろう」


 片手で自分の身長よりも長く大きい戦斧を持ち、頭から顔面まで頭部全てを包み込む兜の奥からカインの声がそう言った。


「おっ?ゴブリン級の中にいくつかオーク級が混じってるね」


 もうすぐ命を掛けた戦いが始まるのにもかかわらず、カインは蟲の群れを見ながらどこか楽しげに言う。


 自分の種族の血が騒ぐ。

 

 カインは大きな戦斧を軽々と取り回し、臨戦態勢に入る。その時、前方より迫り来る蟲の群れが突如、爆発に巻き込まれていく。カイン達より少し後方で、灰色の魔導甲冑(ルーンアーマー)を装着し、手には金属の杖を持った魔導士達が、蟲目掛けて爆発魔法を放ったのだ。


 爆発に巻き込まれ、吹き飛ぶゴブリン級の蟲達。

 

 だが、その圧倒的な数の前には、吹き飛んだ蟲はほんの僅かでしかなかった。


「よおーし、いくよ!!アンタ達!!」

 

 爆発を合図に、臨戦態勢に入っていた戦士達が雄叫びを上げながら蟲の群れに突撃していった。


 そして始まった戦士達と蟲の群れとの戦い。


 次々と斬られ、吹き飛ばされ、叩き割られて、増えていくゴブリン級の蟲どもの死骸。油断して、蟲の刃の様な鋭い爪の餌食になった戦士達の死体。


 魔導甲冑(ルーンアーマー)に施されている強化魔法と防御魔法のおかげで、戦士達は数で圧倒されながらも少しづつ蟲の群れを追い詰めていく。


「後少し!!アンタ達!!達気張りなよ!!」


 カインは自分に襲いかかってくるゴブリン級の蟲達を、次々と斬り殺し、すぐそこにいたオーク級の蟲をめがけて高く跳び上がり大きな戦斧を振り下ろし、戦士達達よりもふた回りほど大きなオーク級の蟲を、頭から真っ二つに斬り裂いた。


 残り僅かになりつつある蟲達を、戦士達は次々と殺していった。


 そして、いよいよ最後の一体となったゴブリン級は、あっけなく一人の戦士の剣によって斬り殺された。



「終わったか………」


 カインが少し疲れた様な表情で呟いた。


 魔導甲冑(ルーンアーマー)を装着しながらの戦闘は、自身の身体能力や防御力を高める一方、魔導甲冑(ルーンアーマー)に施されている魔法を常に発動させ続ける為に、内なる魔力(オド)を消費し続ける事になるのだ。


 それは、体力の消耗に近い疲労感を装着者に与える。


 この戦闘を戦い抜いた事で、カインの疲労感はかなりなものになっていた。疲労感で立ち尽くしていたその時、カインの兜に内蔵された伝信機から、中隊長の声が届いた。


 『状況終了、みんなご苦労だった。各位、負傷者と戦死者の確認を』


 中隊長からの労いの言葉と生き残った戦士の務めを聞き、カインは自分の分隊の戦士達を確認する。どうやら、分隊みんなは無事の様だ。


 その時、何かを見つけた若い戦士が、突然カインを驚く様に呼んだ。


「カイン分隊長!!あそこの草むらの陰に人がいます!!」


 カインはこの状況で戦士以外の人がいる事に驚き、さらに生きている事に再度驚いた。カインは若い戦士が発見した、見慣れない服装の若い男の方へと走り出した。



♢



 イツキは自分よりも高く伸びた草むらを掻き分け、音のする方へと進んでいた。自分の記憶とはまるで違う場所にいる様に、草むらはまだまだ続いていた。


(いったい、ここはどこなんだ?)


 イツキは自分が今、どこにいるのかが見当がつかず、困惑していた。しばらく進むと、ようやく草むらの境が見えてきた。その先に、音が聞こえる。イツキは草むらから、その先の音の方を見てみる。


(なっ!?なんだアレ!?)


 イツキは音の正体を知り、驚愕した。


 イツキのいる草むらから少し遠いところで、黒や灰色の西洋甲冑の様なモノを身につけ、大きな斧や剣や槍といった武器を手に持つ団体が、人型の蟲の様な生き物と戦っていた。


 斧や剣で次々と斬り殺されていく蟲達。時々、手足や首を斬られ、西洋甲冑も倒されていく。


 周りには、西洋甲冑と蟲の無数の死体と、赤い血や青い血が水溜りの様に点在していた。


 黒や灰色の西洋甲冑の団体も人型の蟲達も、戦いに集中しているのか、イツキには気付いていない様だ。


 イツキは逃げる様に草むらの奥へと戻った。


(人?が死んだ!?虫のバケモノ?アレはなんなんだ!?)


 先ほど見た嘘の様な光景が夢だと信じたいのだが、身体に未だに残る若干の痛みがイツキを現実へと連れ戻す。草むらの奥方へと進み、息を潜め縮こまり怯えるイツキ。


(いったい何がどうなってるんだ!?)


 イツキは頭を抱え、自分が置かれている状況を考え、整理する。


 テストが終わった後に、バイトに行って、ラストまで勤務して、スクーターに乗って帰る途中に落ちていた岩に乗り上げて、スクーターごと堤防道路に投げ飛ばされた。草むらの中で目を覚ますと、朝になっていて………と、イツキは今まで出来事を思い返す。


 そして、イツキは気はふと思った、本当に目を覚ましたのは朝だったのか?イツキはパンツの右ポケットに入れていた、スマートフォンを確認した。


 画面には今日の日付と、店を出てからスクーターに乗っていた時間と草むら掻き分けて進んだ数十分程しか経っていない時間が表示された。

 事故の衝撃で壊れた感じはまるでないが、電波は届いていない。


(まじか!?全然時間が経ってない!?)


 イツキは画面を見て、ひとつの有り得ない答えを導き出した。


(まさか、異世界にでも飛ばされたのか!?)


 そんなアニメみたいなこと有り得るわけがないと思いたいイツキだが、事故による身体の痛みと壊れていないスマートフォンに表示された日付と時間が、現実だと認識させた。


 異世界転移。


 イツキは事故で投げ飛ばされ、草むらに落ちた瞬間、異世界へと転移していたのだ。


 嘘の様な現実。


(いったいこの世界はどんな世界なんだ?)


 イツキは先ほどまでの雄叫びや金切り声が聞こえなくなったことに気が付いた。


(戦闘が終わったのか?)


 イツキは先ほどまで音のしていた方へと再び進み始めた。


 草を掻き分け進み、草むらの境までやってきたイツキは、戦いのった方をじっと眺めた。先ほどまでいた虫のバケモノはいない。その代わりに、周りには先ほどよりも多くの虫の死骸があちこちに散らばっていた。西洋甲冑の人達には兜を脱いでいる人達もいる。


(人間だ………!!)


 兜を脱いだ西洋甲冑の人達がヒトだと判ると、イツキは草むらを出ていった。それに気付いた西洋甲冑の一人がイツキを見て驚き、大声で誰かを呼んでいる。日本語を話している様だ。


 イツキを見つけた人がこちらへと走ってくる。呼ばれた人手に大きな斧を持ちながらも、遅れてこちらの方へ走ってくる。


「君、大丈夫かい!?」


 イツキはこちらへと走ってきた人をを見て驚いた。彼の頭に犬の様な耳がある。


 遅れて走ってきた人、女性だったのだが、その人の額を見てイツキはさらに驚いた。彼女の額には二本の小さな角が生えている。


(やはり、この世界は普通じゃない)


 二人を見てイツキは、やはり自分は異世界へと飛ばされたのだと改めて実感した。


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