#2 白銀の騎体
イツキの目の前には、黒い西洋甲冑とSF映画に出てくるパワードスーツを足して割った様な物を身につけ、手に大きな斧を持った額に二本の小さな角を生やした女性が立っている。
「あんた、逃げ遅れた島民かい?この状況でよく生きてたな」
その女性、カインはイツキを見て驚く様に言った。先ほどの戦場からは少し離れているとはいえ、蟲に見つからずに生きてそこにいたからだ。
「ん?あんた、怪我をしてるじゃないか?治癒士!!この子、治してやってくれ!!」
カインが誰かを探す様に辺りを見回しながら、治癒士を呼びつける。すると、少し離れたところから、白い魔導甲冑を装着した人が走ってこちらへと向かってきた。
「そんなに大した怪我ではないわね。すぐ治るから、少し待ってて」
そう言いながら、治癒士と呼ばれる人はイツキに手をかざすと掌がふんわりと淡く光った。その瞬間、イツキは身体に何か温かいものを感じ、それと同時に身体の痛みが軽くなっていくのを感じた。そして、しばらくすると痛みはほぼ無くなった。
「あ、ありがとうございます」
イツキは身体の痛みを消してくれた治癒士に感謝の言葉を述べると同時に、やはり自分は異世界に転移したのだと、改めて感じた。
(治癒魔法………?魔法だよな、これ。身体の痛みが嘘みたいに消えたし)
魔法。イツキのいた世界では、架空の存在でしかないモノ。だが、この世界では実際に存在していた。それは自分の身をもって体感したことで、イツキは確信ができた。
「よし、怪我は良くなったみたいだな。もうすぐ、本隊の船が私らを拾いに降りてくるから、とりあえず一緒についてきな」
カインはイツキにそう言って、優しく微笑んだ。額に角が生えている以外は美人と言える、赤く綺麗なショートカットの髪に整った目鼻をした、カインの笑顔にイツキは思わず見とれてしまった。
「おっ?こいつ、分隊長に惚れたか?」
イツキの近くにいた、多分普通の人と思わしき、年輩のいかにも軍人という雰囲気の男がカインに見惚れているイツキを見てからかう様に言った。
「小僧、悪いことは言わねぇ。分隊長が美人でも、鬼人種が相手じゃあ、俺ら人種には釣り合わねーよ」
そう言って、その年輩の人は豪快に笑い飛ばした。
(鬼人種?やっぱり、この女の人は普通の人間じゃないのか?このおじさんは普通の人間みたいだけど、俺のこと見つけた人や治癒士の人は………、もしかして獣人種ってやつなのか?)
イツキは年輩の戦士に言われたことで、周りにいる人たちが普通の人間の集まりではないことを察した。やはり異世界らしく、ファンタジー物の話に出てくる獣人や鬼といった人であって人ではない人達の集まりなのだ。
そう考え込んだイツキの横で、豪快に笑っていた年輩の人が、鬼人種の女の人、カインに豪快に頭を叩かれた。
「痛ぇー!!何すんだよ分隊長!?殺す気か!?」
「アホなこと言ってんじゃないよ!!暇があんなら戦死者の確認を手伝ってやんな!!」
カインに怒られて、年輩の人は戦死者の確認作業を手伝うために、足早にこの場を去っていった。イツキはそのコントの様なやり取りを見て思い出した。そう、さっきまでここが戦場だったことを。そして、死んだ人もいるということを。
(戦闘で死んだ人もいるのに、全然重い空気じゃないんだな)
イツキは今の状況に違和感を覚えた。戦死者が出たのが悲しくはないのだろうか?それとも、これは日常茶飯事のことで、当たり前のことなのだろうか?イツキはまだよく知らない異世界の常識に、少し戸惑いを感じた。
イツキが色々と考えている時、カインの伝信機に伝信が届いた。
『こちらワイバーン隊隊長騎、降下予定地点上空で蟲の群れを確認した。魔導騎兵が交戦中だが、念のため降下地点を島南西の街の方へ変更する。戦士隊はそちらへ移動してくれ』
迎えに来る予定だったワイバーンから、戦士達への伝信。それを聞いた戦士達は一度空に視線をやってから、ため息を漏らした。
「あんた達、聞いての通りだ!!さっさと移動するよ!!」
カインは周りにいる戦士達に、確認するように大声で指示した。その声を聞いた戦士達は戦死者の確認作業を中断し、街へ向かうために走り始めた。
「すまないが、あんたも走ってもらうよ?死にたくなかったら、全力で走りなよ」
カインは少しいたずらっぽく笑いながら、イツキにそう言った。生きて帰るために。イツキはカインに言われ、全力で走ることを決意した。そして、周りの戦士達に続く様に、カインの分隊の戦士達と一緒にイツキは街に向かって走りだした。
♢
その頃、島の上空、宙では、魔導騎兵隊と蟲との戦いが繰り広げられていた。蟲を運ぶための輸送艦の役割を担う、アラクネ級の蟲は先行していた魔導騎兵隊によってあらかた沈められていたが、残ったアラクネ級の蟲から飛び出した蟲達の猛攻に合い、苦戦を強いられていた。
「ーーーっ!!斬っても斬っても、次から次へと湧いて出てくる!!ガーゴイル級ごときが、私達の邪魔をするな!!」
赤い魔導騎兵、シュヴァリエの騎乗席の中で、フィールは苛立ちながら叫んだ。シュヴァリエと同じぐらいの大きさの、翅を生やした人型のガーゴイル級の蟲達が群れとなって魔導騎兵隊に襲いかかっている。
斬られても斬られても、次から次へととシュヴァリエ目掛けて翔んでくるガーゴイル級の蟲達。他のシュヴァリエ達も必死に戦っているが、一騎、また一騎とガーゴイル級に破壊されていく。そして、今まだ生き残っているシュヴァリエは、フィールが騎乗する騎体以外に七騎しか残っていなかった。ガーゴイル級の数が多すぎて、その向こうにいるアラクネ級までたどり着くには少し厳しい。一度撤退して立て直すことを意識したその時、騎乗席に女の声で伝信が届いた。
『こちら、カヴァリエーレ小隊アル・ド・ロンド五星騎士。遅れてすまない、これより加勢する!!』
シュヴァリエ達に群がるガーゴイル級の蟲達に、一筋の光の矢が飛んできた。カヴァリエーレの光牙魔法による魔法攻撃だ。光の矢に頭部と身体を貫かれたガーゴイル級が体液を流しながら絶命し、力なく漂っていく。そして、今度は物凄い速度で近づいてきた青い魔導騎兵、カヴァリエーレ達が次々と残りのガーゴイル級の蟲達に斬り込んでいく。
「ガーゴイル級はこちらで引き受ける!!シュヴァリエ隊はアラクネ級を沈めてくれ!!」
アルがガーゴイル級を次々と斬り殺しながら、フィール達シュヴァリエ隊にアラクネ級の元へ急ぐように言った。輸送艦を沈めればガーゴイル級が湧いて出てくるのを止めることができるからだ。
「援護感謝する!!シュヴァリエ隊全騎、アラクネ級へ突撃を開始!!」
フィールが生き残ったシュヴァリエ達を引き連れて、アラクネ級へ向かって宙を全速力で進んでいく。シュヴァリエ達が手に持った大きな剣が淡く光った。そして、巨大なアラクネ級の頭上へとたどり着いたシュヴァリエ隊は、そのまま急降下し、八騎が一斉に頭部へと剣を突き刺した。その瞬間、剣から放たれた雷撃魔法がアラクネ級の巨大な蜘蛛の様な身体を襲い、破裂した。
「アラクネ級撃破!!各騎、散開し残存する蟲共を殲滅!!」
アラクネ級を沈めたシュヴァリエ隊に、フィールは次の指示を出す。増援が到着した今なら、残ったガーゴイル級を殲滅するのは容易い。後少しで、この戦闘が終わる。フィールがそう思った時に、破裂したアラクネ級の残骸から一体の蟲が飛び出してきた。
「なんだあの蟲は!?ガーゴイル級じゃない!?なんて速さなの!?」
アラクネ級から飛び出した蟲は、とてつもない速さで宙を翔び、進む先にいたシュヴァリエ達を次々と斬り倒し、そのまま加勢に来たカヴァリエーレ達の方へ向かった。フィールと他二騎のシュヴァリエはその蟲の進路上にいなかったために、生き残っていた。
「なんだ!?アレは!?」
アルがガーゴイル級とは違う蟲がこちらに物凄い速度で近づいて来ているのを察知し、そのあまりの速さに驚いた。そして一瞬のうちに一番離れていたカヴァリエーレがその蟲に斬られ爆発した。このままだとまずいと判断したアルは、カヴァリエーレ達に散開するよう指示を出した。そして、その蟲は散ったカヴァリエーレ達を追いかけようとはせず、一直線に翔び去っていった。
「まずい!!あっちにはバハムートがいる!!」
アルがガーゴイル級ではない蟲がバハムートに向かって翔んでいることに気付いた。遅れてアル達カヴァリエーレ隊に合流した、フィール達生き残ったシュヴァリエ隊が急いで後を追っていった。
♢
島からわずかに離れた宙で、バハムートが島から戻ってきたワイバーンを次々と格納庫へと迎えていた。島から避難してきた島民と、戦闘を終え生き残った戦士達を乗せてワイバーン達が帰ってきたのだ。一騎の魔導騎兵も一緒に運んできていた。その様子が、指揮所の方へと報告されていた。
「生き残った戦士隊がワイバーンにて帰還。一人、逃げ遅れた島民も一緒だそうです」
艦で伝信を取りまとめる任に就いている、キムナが格納庫から上がってきた報告を取りまとめ、後方に座っている指揮官のリリアノ星官と、艦のまとめ役のラージュ艦長へと報告した。
「逃げ遅れた島民?島の守備隊の方で、全員他の島へと避難させたと言っていたはずだが」
ラージュはキムナの報告を聞いて、眉間にしわを寄せながら呟いた。島が敵襲を受けた場合は、非戦闘員である島民は全員守備隊の指示の下、決められた避難ルートを使い魔導船で全員脱出させることが義務だからだ。
「例のモノも運んで来てくれたみたいなじゃな。島の蟲共を殲滅し、逃げ遅れた島民も救出したのじゃ、それで良いではないか」
リリアノが満足そうに言う。
「後は島の宙におる蟲共じゃが、もうすぐ終わりそうかの?ヌゥ、何か見えるか?」
リリアノが自分の前方で、大きな水晶球を見つめているヌゥに問いただした。ヌゥは予知の力で索敵を担っているため、離れた場所にいる味方や蟲の存在を感じることができるからだ。
「魔導騎兵が何騎かやられちゃったけど、蟲達は殲滅できたみたいよぉ」
ヌゥは場の空気に合わない艶めかしい口調でリリアノの問いに答えた。もうすぐ、この戦闘が終わる。誰もが安堵し始めたその時、水晶球に物凄く速く動く光点が浮かび上がった。ヌゥはその光点を見つめながらリリアノに報告する。
「星官様ぁ、アラクネ級からいきなり何かが翔び出してきて、ものすごぉい速さでこっちに向かって来るわぁ。これはぁ……、えっ?そんなことって………!!」
いつもゆったりとした口調で話すヌゥが、突然焦るような口調に変わる。ヌゥがこのように変わることが、とてつもなくまずい状況であることを知っているリリアノが驚くようにヌゥを見た。
「ティアマトが………、ティアマトがこっちに来るわ!!」
ヌゥのその一言で、リリアノとラージュが驚くと同時に、焦るように指示を出す。
「ティアマトじゃと!?なぜあやつが現れよった!?ラージュ艦長!!」
「了解です、リリアノ様。ババムート艦体に魔法障壁を展開!!急げ!!」
リリアノの目の合図を瞬時に理解し、ラージュはティアマトからの攻撃に備えるために、魔法障壁を展開する様に指示を出した。それと同時に魔砲撃戦の用意と、出撃している魔導騎兵隊にすぐに戻る様にと指示を出す。
「まさか、ティアマトはアレを狙っておるのか………!?」
リリアノは思い当たる節を呟きながら、指揮所の大きな窓からティアマトの方へ宙を睨みつけた。
♢
バハムートへ向かって、翅の生えたその身体はまるで細身の女性の様な姿の蟲が一直線に翔んでいく。そして、ババムートから少し離れたところで止まり、右手をババムートへ向けてかざした。その瞬間大きな光の輪、魔方陣が浮かびあがり、黒い炎の球が出来上がった。どんどんと膨れて大きくなっていく黒い炎の球が、今度一筋の線となってバハムートへと向かっていく。ティアマトが邪炎魔法を放ったのだ。
大きなバハムート艦体は回避行動をとる暇もなく、そのまま邪炎魔法の直撃を受ける。が、間一髪で展開した魔法障壁のおかげで、艦体への直撃は免れた。魔法障壁に阻まれ、煙を上げながら爆散する邪炎魔法。その煙を散らす様に、今度はバハムートの主砲である魔砲撃が、ティアマトへ向かっていくつもの光の線を描きながら飛んでいく。
次々と飛んでくる魔砲撃を、舞う様に避けるティアマト。最後の魔砲撃を避けた瞬間、再び右手をバハムートの方へかざした。ティアマトがもう一度、邪炎魔法を放つために魔法陣を展開し始める。その時、ティアマトの右手に光の矢が突き刺した。
「間に合った!!二発目はやらせない!!」
アルが騎乗する、カヴァリエーレが放った光牙魔法がティアマトの右手に突き刺さったのだ。そして、他のカヴァリエーレ達も一斉に光牙魔法をティアマトを目掛けて放った。それに気付いたティアマトは、翔び上がり寸前で光牙魔法を避けた。翔び上がったところで、今度はフィールの騎乗したシュバリエに左脚を切断される。
「ちっ!!頭を狙ったのに上手く躱された!!」
苛立つ様にフィールが言った。翔び上がってきたところ狙って首を刎ねるつもりだったのだが、上手く躱されてしまった。だが、運良く左脚を切断することはできた。ティアマトにトドメは刺せずともその身体に傷をつけたことで、フィールは手応えを感じた。
ティアマト一体に対して、魔導騎兵は二十騎近く。負けるはずはない。誰もが勝利を確信したその時、ティアマトの左脚の切断面から突如泡が立ち、筋組織が飛び出して脚の形を作っていく。切断されたはずの左脚が再生し、元通りになっていった。
「そんな!?脚が生えてきた!?こいつ、再生するのか!?」
「身体を斬っても駄目なら、いつも通り頭を狙え!!」
再生する左脚を見て驚きを隠せないフィールに、アルは気丈に振る舞いながらフィールに言った。
今、彼女達が戦っている相手は初めて見る蟲だった。蟲達は姿形や大きさは種類ごとに違うのだが、一つだけ共通の弱点がある。それは、頭部の破壊。小さい蟲だろうがとてつもなく大きな蟲だろうが、その弱点だけは同じなのだ。
魔導騎兵達が一斉に、ティアマトの頭目掛けて斬りかかろうとしたした瞬間、ティアマトの右手が指のある手から鎌の様な形状に瞬時に変わり、周りの魔導騎兵達を斬っていった。
胴体や頭部を斬られ、行動不能になる魔導騎兵達。フィールとアルはとっさに手に持つ大きな剣に防御魔法を施し、その剣でティアマトの鎌を受けたので斬られずには済んだのだが、その衝撃で吹っ飛んでしまった。
その隙を突いてティアマトはバハムートの方へと急接近し、ついには格納庫のハッチの目の前までたどり着いた。そして、ティアマトはハッチを破壊し、格納庫の中へと侵入していく。
「しまった!!」
「急げ!!フィール!!ヤツを中から引きづり出すぞ!!」
一瞬の隙に、ティアマトにバハムートの内部に侵入されてしい、焦るフィールとアル。二人の乗ったシュバリエとカヴァリエーレが体制を立て直し、急加速してバハムートへと向かったいった。
♢
ババムートの格納庫には、島から戦士達を乗せて帰還した、ワイバーンがずらりと並んでいる。そして、ワイバーンの開いたハッチから生き残って帰ってきた戦士達が続々と降りていた。その中に、突然見知らぬ世界へと転移してしまったイツキの姿があった。
「本当に宇宙なんですね、ここ。カインさんの言った通りだ」
「イツキは本当に何も知らないんだな。あんたが異世界から来たって話は嘘じゃなさそうだね」
島に降下してきたワイバーンに乗り、このバハムートに着くまでの間に、イツキはカインに自分がなぜ島にいたのかを、ざっくりと説明していた。なかなか信じてはもらえなかったのだが、イツキの乗ったワイバーンが宙まで上がった時に、外の景色を見て物凄く驚いていたことや、誰もが知っているはずのこの世界の常識をイツキが全く知らなかったことで、カインはイツキが本当に異世界から転移してきたのだと、徐々に信じる様になった。
この世界の成り立ちを知らない者など、この世界にはまずいない。何十年も続いている、異形の蟲との戦争のことも知らないのはありえないからだ。
「とりあえず、まずはこの艦の星官様に会って話をしてくれ。今から、その手はずを整えるから」
カインはイツキに今後どうするかを伝えた。星官とはこの大きな艦に乗艦している、輝星教という宗教組織の軍隊の指揮官のことだ。イツキはカインに大まかにこの世界の事、カイン達戦士が所属する軍隊のことを聞いていた。
イツキの元々いた世界にはない常識が、この世界にはあった。本当にここは異世界なのだ。その異世界の住人は、逆に自分達にとって異世界の住人が現れたことに戸惑い、星官の指示を仰ぐことにしたようだ。
これからイツキは星官に会って、今後の自分の身の振り方をを考えるつもりだ。なにせ、元の世界に帰る手段があるかどうかもわからないのだから。
「星官様に話はついたよ。私と一緒に星官室まで向かうとするかね」
イツキが色々と考え込んでいる間に、カインは上官伝いに星官と話をつけてくれていた。イツキがカインと共に格納庫を出て星官室へと向かおうとしたその時、突如格納庫が激しく揺れた。ハッチが何者かに破壊されたのだ。そして、破壊されたハッチから、女性の様な形をした、異形の蟲が姿を現した。
「なっ!?蟲の侵入を許したのか!?」
「宙の魔導騎兵隊はどうなったんだ!?」
「大型が相手じゃ、俺たちには手に負えんぞ………!!」
その場にいた戦士達が、格納庫へと侵入してきた蟲を見て、驚きの声を上げた。
「全員格納庫から早く退避しろ!!急げ!!」
一人の戦士の声が、どこからともなく聞こえてきた。自分達が挑んでも、勝ち目は無いのはカインを含め、その場にいた戦士達全員が分かっていることだ。戦士達は一斉に格納庫から退避すべく走り出した。
「イツキ!!あそこに走るぞ!!」
「まだ死にたくないんで、全力で走ります!!」
カインはその場から少し先に見える、格納庫の出入口を指差しイツキに向かって叫ぶ。イツキは大きな声で応えた。イツキとカインは周りの戦士達と同じ様に、格納庫出入口へ向けて走りだした。
ティアマトはババムートの中に侵入し、ワイバーンとその周りから逃げ惑う様に走り去っていく戦士達を見つめていた。そして、ティアマトは自分から近いワイバーンを右手の鎌で真っ二つにした。斬ったワイバーンをしばらく見つめると、次はその隣のワイバーンを斬って、見つめる。何かを探し出している様に、次から次へとワイバーンを斬っていく。
「なんだあいつは!?私達には構わず、ワイバーンばかりを斬っている?」
走りながらて、ティアマトの行動を見ていたカインが不思議そうに言った。いつもの蟲なら、真っ先に人を襲ってくるはずなのに、こいつは何かを探している様だと、カインは思った。
ティアマトが何騎かのワイバーンを斬った時だった。斬られた一つのワイバーンの中に白銀に輝く、魔導騎兵が姿を現した。ティアマトは、それを見つけるとまるで女性の悲鳴の様な声を上げながら、白銀の魔導騎兵に斬りかかった。
「あの魔導騎兵は島から運んできたやつか?しかし、あんな騎体見たことないぞ?」
カインがその光景を走りながら見て、驚きながら呟いた。見たことのない魔導騎兵と、まるでそれを探していた様なティアマト。
カインとイツキは生きる為に、格納庫出入口へむかって走っていく。出入口まで、あともう少し。




