八、悲しげな声
八、悲しげな声
「蜘蛛丸、声が聞こえるか?」
「若、聞こえまするぞ、はて、これは誰かの泣き声で御座るか?」
「いや、それは、遠くからこの俺を呼んでいる声だ。地理的なものではない、時代を越えて、遥々、この俺の耳にまで届いたものだ、陰陽師、賀茂光栄としては放っても置けまい、俺の助けを必要としているのだ」
二人は、いつか薄暮とも暗闇ともつかぬ、そして、冥界とも極楽ともつかぬ六道の狭間を凄まじい速さで移動して行った。
どのくらい時間が経過したのか分からない、いや、幽体や、魂の世界では、時間の経過など無いのかも知れない。
「近いぞ」
「左様でございますな。声が次第に大きくなって、この蜘蛛丸めの耳にも確かに声が届いております。何やら、か細く、今にも消え入りそうでござりますな」
「さて、声の主の元へ行くぞ、蜘蛛丸、心せよ」
光栄は、智拳印を結び、額に押し当て、呪を唱えた。
二人の身体は激しく回転し始めた。
「若、何でござりますかこれは、ああ、目が回りますぞ、何とかしてくだされ」
「弱音を吐くではない、蜘蛛丸、この俺にも、これからどうなるのか分からぬ。このまま冥土に落ちていくのかもしれぬし、宇宙の果てに飛ばされるのかもしれぬ。何れにしても、それはそれで良いではないか、未知の経験を味わえるのだからな」
「何を申されるか、若はそれでようござりましょうが、蜘蛛丸めはまっぴらでござる。わあ、誰か助けてくだされ、後生で御座る」
身体の回転は、ますます速く、錐もみ状態となって制御は出来ない。
そして、意識は遠のいていった。




