六、光栄の修行3
六、光栄の修行3
目覚めたのは翌日の朝であった。
どうやら、まだ生きているらしい。
身体が衰弱しきっていて、立ち上がろうとしても力が入らない。
このままだとまた幽体が離脱してそのままあの世まで飛んで行ってしまいそうな気がした。
「これは呪術の工夫どころではないぞ、先ずは体力をつけることが先決だ」
そう判断した光栄は大声を発した。
「蜘蛛丸、蜘蛛丸はおらぬか」
「ははっ、ここに控えております」
すぐに外からいつもの耳障りの悪い声がした。
「何か食うものを持って来てくれ、精の付くものが良い」
「はっ、お待ちくだされ、すぐに取り揃えて参ります」
光栄は、立ち上がろうとして、また倒れ込んだ。
ようやく、思い違いしていたことを自覚したのである。
修業をすればするほど、身に付く技の質は磨かれる。
だが、寝食を忘れてはならない。
十分な体力があるが故に厳しい修業に耐えられるのだ。
そのことにやっと光栄は気が付いたのであった。
「若、お持ちいたしましたぞ」
声を聞きつけるが早いか、よろける足で外に出ると、階を転がるように降りて蜘蛛丸が運んで来た食事を高坏から手づかみで口の中に放り投げるよう次々と平らげた。
酒の小瓶をつかむとこれも胃の腑に流し込むように飲み干した。
少々食べ過ぎたきらいが無くもないが、じわりと活力が体中にみなぎって来るのが分かった。
「蜘蛛丸、ご苦労であった、満足したぞ、俺は、また修業を続ける」
「承知致しました、ですが、若、馳走はまだまだ残っておりますぞ、いかがいたしましょうや」
「捨てるなり、そなたが、食すなり、好きに致せ」
「それは嬉しきこと、蜘蛛丸めは、この場にて食らいますぞ」
蜘蛛丸は手を打って喜びを隠さない。
部屋に戻った光栄は、早速、智拳印を深く結び、神経を集中して今まで、行ったことを繰り返す。
そのうちに、又もや幽体離脱の現象を感じ、しかも、幽体は天井の一角から離れて、光栄の意志の通りに動くようになっていた。
それから、一月ほどの間、蜘蛛丸に食事を運ばせては良く食い且つ飲み、そして激しい修行を続けた。




