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賀茂光栄 時空を駆ける  作者: 屯田 水鏡
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五、光栄の修行2

五、光栄の修行2


何カ月も費やして時空を駆ける術を工夫してきたが、技を会得できる手掛かりの欠片かけらさえ見いだせないでいた。

役行者に出来て、この俺に出来ぬはずはないと高をくくっていた光栄に、焦りの色と同時に弱気の虫が出始めていた。

それを何とか踏みとどまらせたのは、遥か彼方から流れて来る悲しげな声の存在であった。

「この俺が、必ず、そこに赴いて、そなたの悲しみと苦しみの根源を探し出し、雑草を引き抜くように、取り除いてやろうぞ、待っておれ」

心の中で叫び、呪を唱えて智拳印ちけんいんを結ぶ光栄。

智拳印とは、大日如来だいにちにょらいが結ぶいんで、左手の人差し指を右手で握って悟りの境地に入り、宇宙の中心から、エネルギーを吸収する秘術である。

全神経を集中させ、はて、どのくらいの時間が経過した頃であっただろうか、目の前が次第に暗くなって、意識が自分の身体から抜け出すような不可思議な感覚に襲われた。

また、いつもの幻覚が起こったのか、そんなことを考えているうちにさらに目の周りが暗くなり、体がぐらりと揺れて光栄は意識を失った。

気が付くと天井の四隅の一角にへばり付いている自分がいた。

下を見ると、ゆっくりと屏風に倒れ掛かる自分自身の姿が目に入った。

「この感覚は何なのだ。空腹と疲労から来る幻覚か、あるいは、幽体という現象なのか。天井近くの壁に張り付いている今の俺は重さを感じない、というよりは上方に向かって登って行こうとする力を感じる。軽くなったこの体は、意識の塊ともいうべきものなのか、はて、幽体となった体は、思い通りには動かないものだ。天井を突き抜けて天界へまで上って行こうとする、というより、上方に落ちて行こうとするではないか。重力が上下逆さまになったようだ。このままだと時空を駆けるどころか、あの世に向かって行きそうな気がした光栄は、辛うじて、しゅを唱えて、〈呪とはこの場合、光栄が考案した自分を落ち着かせるための呪文である〉心を静め、幽体となった自分をどうにか体の中に戻すことを試みた。

だが、一度幽体となった光栄の魂を肉体に戻すことは、殊の外、難しい。

まるで、自身の肉体が、魂が戻るのを拒絶しているようにさえ思える。

時間が経過すればなおさらに難しくなるようのではないか。

そんな恐れが、光栄の脳裏に浮かんだ。

何度も仕切り直しをするうちに、何とか入り込むことが出来たが、魂は肉体に戻ったものの、体の自由はすぐには戻らなかった。

懸命に立ち上がろうとして屏風に捉まったが、そのまま、また倒れ込んでしまって意識が薄れて行く。

だが、次第に、光栄は恐怖も苦痛も感じなくなって行った。

こんなに気持ちよく死ねるのならば、それも良いのではないかとさえ思ったのであった。


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