二、光栄の憂鬱
二、光栄の憂鬱
光栄の評判は、都の内で、知らぬ者はないほど高かった。
だが、評判が良くなるほど、経済的に豊かになるほど、なぜか、彼の心は満ち足りた状態から、程遠くなるのであった。
というより、空しさが彼の心身を虫食んで、胸の奥深くに巣食う欝という気の病が顔を出して、戸惑いと倦怠感に捕らわれ、どうしようもなく滅入るのを覚えていた。
「俺は今まで、多くの貴族の頼みを聞き入れて、その願いを叶えてきた。だが、それで良かったのであろうか?時には、こやつめ、怨霊に取り殺された方が、世のため人のためには良いのではないか、むしろ、貧しく、虐げられている民は喜ぶのではないか、とさえ思える者たちの悩みを解き放ち、救った。かといって、彼らがその後、我が身の過去の所業を悔い改めて、良き行いをしているかと言えば、凝りもせず、悪行を続け、貪っている。奴らが恨みを受けて駆け込んで来る度に、俺の手には大きな富が手に入るのだが、ああ、どういう訳だ、何と空しいことよ。この世に生まれて生きて良かったという実感が俺には無い、刹那で良い、生きている証が欲しいものだ」
そんな風に思い悩む彼が今、工夫に工夫を重ねているのは、時空を自在に駆ける術の会得である。
その術を完成させれば、今の苦しみや悩みから解放されるのではないかと、何の根拠としてないが、そんな気がするのである。
「遥か昔、倭が先祖で山伏の祖、役行者は、苦行の末、時空を駆ける秘術をあみだした。そして、国家が禁止するのも、ものともせず、天竺、中国、日本の上空を駆け巡り、さらには、過去と未来を自在に行き来した。役行者に出来たことならば、その血を引き継ぐこの俺に出来ないこともあるまい」
と光栄は思うのであった。
光栄が時空を駆ける難しい術を会得しようと思い立ったきっかけは、彼に助けを求めるかのような悲しげな声がどこからか彼の耳に届いたことにある。




