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賀茂光栄 時空を駆ける  作者: 屯田 水鏡
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十三 朱美の病室

十三 朱美の病室


病室の窓を誰かが叩いた。

「だれだ」

蜘蛛丸は面倒くさげに窓を見やった途端、その目を丸くした。

「あっ、若、若ではありませぬか。何ですか、こんなところから。落ちたら怪我をされますぞ。ふむ、ふむ、宙に浮いているので御座るか、ならば、大丈夫で御座りますな」

窓を開けながらぶつぶつと蜘蛛丸は呟いている。

「若、どこに行っていたので御座りますか、この蜘蛛丸めを一人置き去りにして。どれ程心細かったか、お分かりで御座いますか。おまけに、もう少しで、この朱美という娘に、それがし、正体を知られる羽目になるところで御座いましたぞ」

「それはいかん、醜いお前の姿を目撃したら、朱美殿がどんなに気分を害することやら、可哀そうなことになる」

「何という言い草で御座りますか、若、わたくしめのこの顔、自分ではなかなか凛々しいと感じいっておるのですぞ」

「うむ、そうだ、その通りだ、お前の顔は凛々しい。ちとばかり気持ち悪いがの」

「いい加減にしてくだされ。ところで、若、この蜘蛛丸を一人残してどこに行っていたので御座りますか?」

「それよ。ちょっとばかり、この世の中を観察しようと思ってな、空の上からであったが、駆け足で、あちこち、見て回っていたのだ」

「それで、若、どうで御座りました?」

「うむ、そうさな、蜘蛛丸、ざっと見ただけではあるが、この世は相当に病んでおるぞ、下で蠢いておるあの影は、自動車というらしい。箱のような四角いものは、バスというのだそうだ。大きなものは、トラックというのだそうだ。それらが、動き回り、しりへより臭いものを吐き出しておる。おかげで、人々の吸う気は濁ってしまっておるのだ。そればかりではない。人々の心は、我らの住む平安の世の物のもののけ以上にすさんでおるぞ」

「そんなにひどいところで御座りますか。そうでございましょうとも、何といっても、我らが住む平安の世が一番で御座いますからな、若、こんな世界にはさっさと見切りをつけて、我らが世に、はやう戻りましょうぞ」

「そうよの」

生返事をしながら、光栄は朱美という娘の顔を覗き込んだ。

「お、良く眠っているではないか。少しあごが細すぎるが、良く見ればなかなか美形であるのう。ふむ、見よ、苦しそうな寝顔ではないか、無理もない、我が身の未来に絶望しておるのだ。はて、どうにかして、この娘の悩みを軽くしてやりたいのう。蜘蛛丸、そう思わぬか」

光栄は眉をひそめて呟いた。

「そう言われましても、我らに出来ることは御座いますまい。ふむ、それにしても、よくよく見ますと、なかなかの美形で御座りますな。我らが世に連れ帰って、人買いに売れば、高く売れるやもしれませぬ。大原女や桂女として育て上げれば、金になりますぞ」

「そうか」

光栄はこぶしを固め、蜘蛛丸の頭をコンと打った。

「うわあ、若、今言ったのは冗談で御座りますよ。許してくだされ」

蜘蛛丸は、頭を抱えて座り込んだ。

「何を言うか、お前のことだ、良からぬことを目論んでいることは分かっておる。だが、何とか、この娘の心の闇に

少しで良い、希望と呼ぶ明かりを灯してやりたいものよ。何か手立てはないか?・・・うむ、そうするか」

光栄は腕を組んで、自分を納得させるかのように、小さく頷いた。


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