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9、お風呂でリラックス

 浴室に繋がる控え室は、何処までもお洒落な骨董品の棚が置かれていた。

 興味津々に周りを見ていると、着替えとしてだろうが、こちらの世界の服が綺麗に畳まれて置かれている。

「お姉ちゃん! 早く行こう!」

「こらこら。服を脱ぎなさい」

 窘めながらも彩も好奇心が少し理性より勝っていた。

 ここにこの世界の人間がいなくて、他人と接するのが苦手な彩は少し緊張していたらしいと今更ながら気付かされた。

 こんなことではダメだと彩は思う。

 茜を守ると誓ったあの日に決めたんだ。

 もう、二度と泣き叫ぶ茜なんて見たくもないし、させたくもない。

「お姉ちゃん! もういいでしょ? 行こ!」

「そうね」

 タオルを体に巻いて脱いだ服を棚に置いていく。

 茜は空元気だろうか、彩に心配掛けないようにと、明るく振る舞って笑っていた。

 その姿が彩には痛々しくて胸が苦しくなる。

「お姉ちゃん、背中流しっこしよう?」

「自分でできるよ。茜も子供じゃないでしょ?」

 茜が悪戯っ子のような表情で提案して来た内容に、彩は引きつった表情をして回避しようと試みた。

 彩の背中は他人に見せられたものではない。

 実は修学旅行なども、ある理由でいつも大浴場には入ったことがなく、家でも何かと理由を付けて交わしていたのだ。

 だって彩の背中には大きな火傷の痕があったから……。

 あの火事の時、彩が気を失うほどの傷痕をつけた柱は、彩ばかりか茜にまで傷痕を残していた。

 額に掛かる髪の毛に隠された火傷の痕を見て、何度泣きそうになっただろう。

 彩は守ると誓ったものすら守りきれなかった証。

「いいじゃん。普段お姉ちゃん一緒に入ってくれないんだし」

「いやいや、それにしてもね……」

 なんとか誤魔化せないかとうだうだ考えていると、図ったように茜は彩に抱きついて来た。

 甘えるように抱きつかれてうっと詰まる。

「お願い、お姉ちゃん。お姉ちゃんの背中流すの夢だったの」

「……っ。きょ、今日だけよ」

「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 そう答えただけなのに、茜は嬉しそうな笑顔で花が咲いたように笑った。

 だから気付かなかった。

 背中を向けて歩き出した彩の背中を、寂しそうな悔しそうな表情で茜がみつめていたことに。



 浴室は大理石の露天風呂に体を洗うスペースと別れた広大な場所だった。

 儀式の間や謁見の間すら彩たちが住んでいた場所よりも広いのだ。

 自宅一件が丸々入ってしまう広さには驚いたが、この露天風呂は何人用に作られているのだろうか。

 感覚的に20人が軽く入って寛げる広さだった。

 後から聞いたことだが、この露天風呂は王族用らしい。

 たった四人のためにこの広さとは脱帽だ。

「じゃあ先にお姉ちゃんからね」

「わかったわよ」

 茜に背中を向けると、茜は彩の背中を見て涙が出そうになった。

 でも、ここで泣いたら彩を困らせることになるから、恐る恐る綺麗な肌に残る醜い火傷の痕に触れた。

「きず、残っちゃったね……」

「茜を守った証だからね。名誉の負傷よ!」

 茜の震える声に気付いた彩は、努めて平静に、明るく言い切ってみせた。

 事実、彩にとってはとても嬉しかったのだ。

 まだ幼かった妹を守れたということが嬉しくて、でも両親が亡くなって辛くて苦しくて、後ろを見ている余裕さえなかった。

 犯人が捕まったと知らされても全然嬉しくなくて、新聞記者に追われた日々。

 傷痕をなぞるようにそっと触れられて、彩はくすぐったくて仕方なくなり、茜に苦情を言う。

「ちょっと茜。くすぐったい」

「あ、ごめんなさい。今洗うね」

 ぼうっとしていたらしい茜が心配になって振り返ると、茜はなんだか地に足が着いていないような、夢見心地な表情をしていた。

 そっと頭を撫でて優しく笑うと、茜は直ぐにぱっと笑顔になり背中を流し出す。

 結局二人で体を洗いっこしながら楽しくお風呂に浸かった。

 茜の肌はやっぱりもちもちすべすべだったのが羨ましい。

 そんな彩もすべすべの綺麗な肌であることを追記しておく。

 温かいお湯に浸かりながら、茜が彩の顔を見て嬉しそうににこにこ笑っていた。

「どうしたの?」

「ん~。お姉ちゃんはやっぱり素顔が一番だなって」

「何それ」

 不思議そうに首を傾げた彩に茜は苦笑して答えた。

「せっかく可愛いのに眼鏡掛けてちゃ勿体ないなって」

「私は可愛くないよ? 可愛いのは茜でしょう?」

 理解していない彩にため息を付いて、茜は誤魔化すために彩に水を飛ばした。



 暫くお姉ちゃんは私だけのものでいいよね。





呼んで下さる方本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。


感想などあれば是非!

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