宴会
「……えー、というわけで、今日から新しく家族が増えるから、みんないいお姉ちゃんお兄ちゃんになってね!! それじゃあそろそろ皆、カンパーイ!」
院長先生の音頭に従って、あちこちでグラスを捧げてカンパイ、と声があがる。
屋外に出されたいくつもの長テーブルには、ベリーさんが自慢の腕をふるって作られた料理が所狭しと並べられている。みんな小皿をもって好きなものをとって食べてる。
めぼしいものを取り分けて、少し離れた場所まで椅子を引きずって座る。隣ではクレスがこれまた好物が山盛りに盛られた皿を持ってむしゃむしゃと食べてる。クレスもわりと細身なのに大食漢だよね。
お。なんかむこうで出し物が始まった。
音楽が流れ始めた。見れば、いつの間にか出されてたのか、パイプオルガンみたいにごちゃごちゃといろんな部品がとび出してる楽器。鍵盤以外にも異なる形の演奏できそうな部分が見える。
その前に立っていたのは意外なことにシャルさんだった。あの人もちゃんと参加してたんだな。
シャルさんが楽器に触れると、最初に一音、音を確かめるように鳴らして、軽快な音楽が始まる。
不思議なのはシャルさんの指が奏でてる音楽と比べて、指がそれほど動いてないことだ。なにか特別な操作方法でもあるのかね?
さらに別の場所では、別の出し物が始まっていた。
ベリーさんによる、ジャグリングだ。投げているのは…………うーん、瓶に見えるんだけど、心なしか、中がちゃぷちゃぷ揺れているように見えるのは気のせい…………ではないですね、ハイ。しっかり中身入ってます。
しかもあれ、酒瓶じゃないですか。そんなもの振り回さないでくださいよ、ほんと。
あ、ベリーさんが回している瓶の一つをルックさんに投げ渡した。残りは止めることなくジャグリングし続けている。
ルックさんは受け取った瓶の蓋を開けて、なにかを詰める。あれは紙かな。
…………………………………ん?
あれあれ、ルックさん? その中、お酒が詰まってますよね。何してんですか。
ルックさんは瓶の口からはみ出ている紙に指を近づけて、こすり合わせる。ボッ、と音をたてて、紙に火がついた。
そしてそのまま火炎瓶状態の瓶を投げ返す。それをベリーさんは苦も無く受け取って別の瓶を同じように投げ渡す。
何度か投げては返してを繰り返し、ついにベリーさんのジャグリングは、炎の輪になった。
「おー、お見事」
「…………」
この頃にはもう、心配するだけ無駄なので、素直にショーを見てる気分でクレスと鑑賞していた。
やがてベリーさんは、投げている瓶の一つ一つを、それぞれバラバラの場所にいる大人たちの方へ器用に投げて行く。受け取る側も慣れているようで、危なげなく受け取っていく。もちろん、誰一人火傷するへまもしない。
最後の一本を残して全部投げ終えると、ベリーさんはその瓶を最後に放り投げて、くるくると回る瓶を口が上の状態で掴んで高く掲げる。
それが合図だったかのように、子ども組からは拍手と歓声。大人組からは乾杯、という声と瓶同士を軽くぶつからせたチン、という音が響く。
受け取られた火炎瓶は、そのまま大人組の祝い酒に迎え入れられたようだ。飲み方も十人十色違っている。
ジール先生はきちんと魔術で火を消してから飲んでいる。院長先生はどうやったのか燃えている紙を瓶から取り出して折っているし(何故火傷しない)、キドゥさんあたりは紙を取るどころか瓶の口を指の力で弾き飛ばして、火酒状態にして飲んでいる。演奏中なのにちゃっかり受け取っていたシャルさんに至っては、なにやら怪しい粉末を振りかけて、炎の勢いを二倍にしたうえでさらに色も赤から白に変わっている。本人も飲む気はないのかすでに明かり代わりにしてるし。
あとは猛獣ショーや魔術を使ったガチのマジックショー、面白おかしく演目は続いていって、宴会は大いに盛り上がっていった。
ちょっと景色のいいところに行きたくなって、クレスと一緒に屋根に上った。ミリアから隠れるのも面倒になってきたし。
そこから見えたのは、視界いっぱいに広がる緑(暗くなってたので黒ずんで見えたけど)と、地平線の彼方まで広がっている星空。言っちゃなんだけど、前の世界よりは断然こっちの方がよく見えるね。
下では相変わらず賑やかな音楽や明るい光が見えて、どんちゃん騒ぎしていることが窺える。
「…………賑やか」
「……(コクン)」
いつも夜は夕食を食べて、お風呂に入って、夜更かししないようにと早めに設定された就寝時間に急かされて部屋に戻って、たまにクレスが部屋に忍び込んできては朝まで一緒に寝てて、翌日ジール先生にこってりしぼられたり。私もクレスもあまりうるさい方ではないから、二人しかいないとほんとに周りの音がやたらと大きく聞こえたり。
いつの間にかこんな日常が当たり前となっていて、私はようやく、この世界で生きているのだと実感してきていた。
――正直に言えば、今でもたまに昔の夢を見る。夢の中で見るのは、家族の顔と、病室の窓から覗く、切り取られた景色。
どれほど自分の世界は狭かったんだろう。どれだけ、あの世界に自分が生きた痕跡があるだろう。未練があるわけではないけれど、やはり心残りと言うものはある。
いつか、本当にいつか、今よりも力も体力も技術も身に着けて、一人でも生きていけるようになったら、世界を回ってみようか。最初はこの世界を隅々まで見て、そのあとは…………可能なら、異世界にも行ってみたいね。
そういえば……、
「……?」
=なに?
「クレスは、ここ出たら、なにしたい?」
「……?」
=メルティアは?
「私は、詳しくは決めてない。けど、世界は見てみたい」
「……………………」
=俺はメルティアのそばにいる。守るよ
私端から見てそんな心配されるほど弱っちく見えるのか? ちょっとへこむな~。
「クレスも自分のやりたいこと、やっていい。私もちゃんと強くなるから」
「………………………?」
=強い弱いは、関係ない。俺がメルティアのそばにいたいだけ。嫌か?
う…………、そう言われるとね……。いや別に嫌なわけではないんだよ? 確かに今のままだとクレスの将来心配だから一緒にいたいと思うし……。けどなんて言うのかね、こう……なんというか……。
「人生において重要な選択を迫られているような……」
「……?」
=メルティアは俺の事嫌いか?
「それはない」
うん。それは即答できる。嫌いな人のそばを居心地いいと感じるはずないし。
「……」
=それなら、いい
なにやらクレスがほっとしてる。そんなに嫌われてるのが嫌だったのかね。
「…………」
=メルティア、眼をつぶって
「?」
なにかあるのかね。言われた通り目をつぶる。途端に暗闇の中へ放り込まれた状態になるが、そばにクレスがいるので、不安感とかは起きない。
何が起きるのか今か今かと待っていると、額にコツン、と何かが触れた。これは……すぐ近くで息遣いが聞こえることと言い、クレスの額が合わさってるのかな。
「 」
あ
れ
い
ま
な
に
か
き こ
え
「…………!?」
パチ、音がしそうなくらい勢いよく瞼を引き上げた。
真っ先に目に入ったのは満点の星空。
………………あり?
いつの間にか倒れていたらしい。ひょっこりと、クレスが頭の上から覗いてきた。頭の下に感じる感触といい、どうやらクレスに膝枕をされているようだ。
「……」
「クレス?」
クレスが私の髪を梳き始めた。とくに拒む理由もないのでそのまま身をまかせていると、やがて満足したのか髪を梳くのを終えて、どこか誇らしげに頭を撫でてくる。
「あ~~! メルちゃんにクレスくん、見~つけた!」
「「……!?」」
突然降りかかった声に、お互いビクッとして固まる。
声のした方を見れば、屋根の縁に掴まって、こっちを覗き込んでいる赤ら顔の院長先生の姿があった。
「も~~、探したのよ~」
院長先生は一旦屋根の下へ引っ込むと、勢いをつけて、屋根の上に転がり込んできた。
院長先生、記憶違いでなければ、そこに足場になるものなかったはずなんですけど。腕の力だけで体持ち上げたの? しかも酒瓶持ってるってことは片手でだよね。
「このぐらい、五十階建ての建物を登った時に比べれば、ちょろいもんよ~」
うわ、この人から酒精の匂いが凄い漂ってくる。相当飲んでるね、この人。
「院長先生は、なにか用事?」
「あ、そうそう、お熱いところ、邪魔しちゃってごめんなさいね! 二人に伝えとく事があったのよ~。すっかり忘れてたわ」
酔ってるせいか、普段より無駄にハイテンションなご様子で身振り手振りも加えてからんでくる。
「……伝えることって?」
「二人とも、街に行ってみない?」
「…………」
「…………」
…………………………………………………………え?




