水棲種の姉弟
「え? 荷馬車に忍び込んでた? 知ってたけどー?」
院長先生を問い詰めたところ、あっさりとそんな返事が返ってきた。
「停まってるときは鍵開けといたんだけど、全然逃げないんだもの。こうなったら連れてくしかないかなって」
テヘッ、と語尾がつきそうな勢いで院長先生は悪びれずに言った。
「……で、あのガキどもどこで拾ってきやがった?」
イライラと問い詰めたのはジール先生。ちなみに、院長先生を椅子に縛り付けたのもこの人。本当に夫婦なのか? この二人。
「三カ月ぐらい前ね。騎士団と一緒に人身売買の組織を潰したんだけどねー。その時に捕まってたのを見つけたのよ」
院長先生外で何してたの?
「ちょーっと、王様から部下を鍛えてくれって頼まれてただけよ。……で、そこの姉弟、捕まってたせいで人族を信用してなくてね、私が世話していたのよ」
院長先生無駄に長生きしてるせいか、人脈広いな。
「メルちゃん今何考えたのー?」
「イエナニモ」
鋭い……。てかなんで私までここにいなくちゃなんないの。私も外の宴会の準備に参加したい。
「……外出ちゃダメ?」
「ダメ」
「却下」
「難しいですね……」
即答である。ヒドイ。
「……なんで」
「ミリアさんがオリアスくんとクレスくんから離れず、クレスくんがメルティアさんから離れないからです」
ルックさんニコニコしながら言った。理由が酷い。私この件になんも関係ないじゃないか。
ルックさんはここの鍛冶師。長い黒髪の人族で、私は鍛冶をしているとき以外でこの人の笑顔以外の表情を見たことがない。こういう人が案外一番侮れない。シャルさんもある意味いつも笑顔で危険人物だけど。
ちなみに罠を製造しては喜々として仕掛けているのもこの人。鍛冶師なだけあって見た目優男なのに、この人の服の下は巨獣の捕獲用の罠をあっさり持ち上げられるぐらいには筋肉がついている。細マッチョ。
この中で唯一の人族なせいか、私たちとテーブルを挟んで一番遠いところに立っている。
ミリアとオリアス姉弟は、姉が左手で弟を抱え込んで、右手でクレスの服の裾をつまんでいる。
クレスはミリアたちにも院長先生らにも興味はなく、話に参加しないで本を読んでいる。ちなみに私がとっとと逃げ出したがっているのを察してか、右手でガシッと私の左手首を掴んでいる。地味に強くてほどけない。
クレスと姉弟は四人掛けできそうなソファに座り、院長先生は椅子に座ってるけど、他は全員立ってる。
ちなみにこの姉弟と私たちは、さっきとは別の服に着替えてる。服はボロボロ、体は煤と埃まみれだったので、一丁丸洗いでもするかと風呂に入れた。まだ身体つきに性差がそれほど無い歳でよかった。ミリアがなかなかクレスから離れたがらず、姉弟、クレス、私がまとめて風呂に入ることになったよ……。
ここの風呂は地下にあって、源泉をひいていて、風呂に使われている石材には温度調節用の魔法印が刻まれているので、いつでも好きな温度で入れます。いいね、温泉。
服は皆、院長先生のお土産を着た。土産は服が六割、本やおもちゃの娯楽物が三割で、その他が一割だった。あ、食べ物とか調味料や生活用雑貨は別ね。
「……で、こいつらどーすんだ」
「ここに置くに決まってるじゃない!」
「…………」
「ハハ……」
ジール先生は溜息、ルックさんは乾いた笑い。お二人とも院長先生の言葉は予測していたらしい。
「ま、おふざけはここまでとして。――実際問題、下手なところに預けちゃうよりはここで引き取った方がなにかと都合はいいのよ。ここならミリアちゃんたちが拒否反応起こす人も少ないし」
急に真面目になった。まともにしてれば貫禄とか威厳もあるのになー。
「……ハァ」
「決定ですね。ではそろそろ、院長と新たな仲間の歓迎会を始めるよう、伝えに行きます」
「……おー」
「よろしく~」
ルックさんはこっちに会釈だけして、出て行った。まあ、ちゃんと挨拶しなかったのは後ろで警戒心丸出しにして唸ってる姉の所為だろうけど。
「それじゃ、話はここまで! みんな庭に出てパーティの始まりよ!」
「……ごはん」
「……(コクン)」
「あなたたちも行きましょう。あなたたちのことも皆に伝えないとね」
院長先生がミリアを抱き上げる。オリアスを手放したがらなかったけど、弟の方はジール先生が抱き上げたので、ミリアは院長先生に恐る恐る掴まった。
うーん、ほんとに人族とそれ以外で態度違い過ぎ。というか弟はさっきからポヤンとしてて反応ゼロ。危機管理大丈夫? 姉が過保護すぎなせいか?
「じゃ、行きまっしょっか! 二人ともちゃんと参加するのよ?」
「……ん」
「……」
院長先生たちは先に外へ出て行った。院長先生越しに、ミリアがクレスと手を繋いでいる(ようにも見える)私を睨んできた気もするけど気にしない。ええ、気にしませんとも!
「……」
「……」
「…………行く?」
「…………(コクリ)」
クレスが頷くのを確認してそのままクレスを引っ張る。
クイッ
「うわ」
部屋を出ようとしたところで逆に引っ張られた。なんなのさもう。
「……」
「……クレス」
クレスがじっとこちらを見てくる。負けじと私もクレスをじっと見る。
「………………」
=メルティアは、ずっと俺と一緒
「それがどうかした?」
クレスが頭を撫でてきた。さすがにそろそろ同い年にこうされるのはへこんでくるなあ。
「……………………」
=何でもない。少し確認しただけ。メルティアは気にしないでいい。
「…………?」
なにが言いたかったんだ?
「…………」
=宴が始まる。行こう
心なしか機嫌のよくなったクレスが私を追い抜いて逆に引っ張る。とりあえずまあ、思いのほかクレスも宴に喜んでいるようでよかった。
美味しいものどんとこーい。




