土産…………なのか?
荷馬車のそばに来ると、すでに何人かの気の早い子供が荷馬車の戸についてる錠を開けようと躍起になってた。
その内の一人が、細い金属の棒をどこからともなく取り出して錠に差し込んだ。
ああ、あれピッキング技術学んでる子か。将来そっち系の仕事でしか役に立たなさそうなものだよね。…………まあ、面白そうだし、私もそのうち身に着けようかな。
荷馬車の確認はその子らに任せて、こっちは馬のほうにいよう。この馬、普通のより体毛が長くてフッサフサ。ところどころ馬にあるまじき牙と爪が見えるけど、ベースは馬だし、なんていうか、運搬よりも戦闘に向いてそうな感じ。バトルホース?
「……うわっ!?」
クレスと一緒に思う存分モフってたら、荷馬車のほうから驚きの声があがった。
「?」
お宝発見でもしたのかな?
名残惜しく馬から手を放すと、荷馬車の戸の方へ回る。
「【――ちカヨるなッ!】」
可愛らしい怒声が響くと同時に、覗き込んでいた少年が、弾かれたように馬車から転げ落ちた。
「いってて…………――何すんだよ!」
怪我はないか心配する他の子達を振り払って、突き飛ばされた少年は馬車の中に向かって怒った。
うん? 中に誰かいるのかね?
「こっんのやろ……っ「どいて」……!?」
こぶしを振り上げようとする少年を押しのけてクレスと一緒に中を覗き込む。
中はお土産が入っているであろう荷箱が大量に積まれている。暗がりになって見づらい奥の方で、もぞりと何か動いた。
「誰かいる?」
「……っ!?」
ん~~? 中暗い。魔術で視力強化…………あ、見えた見えた。
えっと……女の子? がさらに男の子? を抱えて縮こまってる。二人は似た顔つきだから姉弟かな? てか気になるのは姉弟の少し耳の上の方にある魚の――エラ? てことはこの二人…………、
「…………――――水棲種?」
……さて、ここで一旦基礎知識。
水棲種っていうのは文字通り、水辺、あるいは水中を住処とする種族の総称。
別に陸上でも暮らせるっちゃ暮らせるんだけど、本来水がある場所で暮らすことに特化した種族だから、陸上ではそれなりに制限がかかる。
特徴としては、体のどこかに魚と同じ器官を持ってる。目の前の姉弟のように分かりやすい見た目の人も多いらしい。ここまでは獣人種と似たようなものだけど、水棲種にはもう一つ特徴がある。というか人さらいが水棲種を狙う理由の約七割がこれだったりするんだよね。
水棲種の特性とも言えるそれは――『声』。
魔術や魔法とは別に、水棲種は声そのものに魔力が宿っている。言葉一つ一つが、魔術となってしまう。
もちろん、魔力を敢えて宿さぬように喋ることも可能ではあるけれど、水棲種にとって声に魔力が宿るのは自然なことらしく、気を抜くとすぐに戻ってしまうんだって。ついでに言えば、水棲種はその性質もあって、美声揃いらしい。なので、いろんな意味で魔性の声――『魔声』と呼ばれていたりする。
……――え? 水棲種に対してやたら詳しくないかって?
そりゃ、身近に水棲種がいるんだもん。詳しくなるよ。
ここまで言えばわかるかな。クレスの種族も、水棲種なんだよね。なんの種族の水棲種なのかは知らない。クレスもあんまり言う気はなさそうだし、本人の気が向くまでは私も気にしない。聞こうが聞くまいがなにかが変わるってわけでもないしね。
ちなみに、クレスが喋らないのは、クレス曰く、『魔声』が強すぎて自分でも制御できないからなんだって。…………私から見れば、喋らない理由の約五割は喋るのがめんどくさいからに見えるんだけど。
閑話休題。
「――……【クるナ】っ!!」
「……っ」
……おぅおぅ、結構効くな。五秒ほど、踏み出そうとした足が動かなかった。強引に破ったけど。
声にこめられた魔力を上回れば、拘束を力任せに解くことも可能なんだよね。
けれど警戒されたまんまじゃ、埒があかないな。どうにかして落ち着かせないと。
「…………名前」
「……!?」
「……あなたたちの、名前は?」
「…………」
答えない。姉(?)はこちらを睨みつけたまんまだし、弟(?)は顔すらあげないし。どうしたもんかな。
つんつん
ん? クレス?
「…………」
クレスが前に出る。どうするのかね。
「………………」
「……?」
あれ、姉(?)の方からなんの拒絶の声も来ない。覗いてみると姉(?)はポカンとした表情でクレスの顔を凝視してる。あ、改めて顔を見るとこの子将来有望な美人さんだね。
「……」
「……」
「……」
「……」
お互いなんの行動も起こさず見つめ合ったまま、動かない。いや、正確に言えば微妙に違うんだけど、端から見ればそう見える。埒があかないのでクレスの袖を引っ張る。
「……クレス」
「……(コク)」
クレスが指先をあげる。そのまま指を動かすとその軌跡に沿って、黒い色をした魔力が文字を形成していく。
実はクレス、前にペンと紙を使って意思疎通の練習してたんだけど、紙とインクがもったいないからって、魔力に色をつけて空中に文字を描いていく手法に変えた。まあ、これも一種の魔術だし、クレスが一人でも意思疎通が出来るっていうならいいんだけどね。
『名前』
しかしクレスさん。せめて文を作りましょうよ…………。
「…………み、ミリア」
「……」
え、今何かボソッて言ったよね? ミリアってのがこの子の名前?
『そっちは』
「…………オリアス」
自分の名前を呼ばれたのに気付いたのか、弟(?)も顔をあげてこっちを見る。思いっきり眼が合った。
「…………ぁ」
「……っ」
姉(?)が弟(?)視界を遮るように前へ出る。うん、美しきかな、姉弟(?)愛。
しかしなんでここまで警戒されなきゃなんないんだろ。私たちまだなんも悪いことしてないよね?
まあ、名前も聞けたことだし、一番事情に詳しそうな人に話を聞きますかね。
誰か首に縄引っ掛けてもいいから院長先生連れて来てー。




