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異世界で新たな人生を  作者: ミト
幼少期
20/45

院長先生

 次の日。

 朝からそわそわする子供が多い中、私とクレスは、人目のない裏庭で、魔法印を作ってた。

 一通りの魔法印を覚えた後は、気が向いた時にいろいろと思いついたものを片っ端から『設定』して魔法を作ってみてる。今日は擬似的な意思を持った人形を創ってみようと思う。前世風に言えば、あれだ、式神や使い魔? ゴーレム? みたいなもの。

 材料はとりあえず土、擬似思考は……AIみたいなものかな? 一応人型だからところどころ筋肉や関節の設定やその他諸々も入れて…………と、できた!

「クレス、下がって」

「……(コクン)」

 出来上がった魔法印に魔力を流せば、淡い光を伴って魔法が発動する。

 ズゾゾゾッ…………と音をたてながら、地面が盛り上がって蠢く。さほど時間をかけずに、土人形が出来上がる。腰ぐらいの高さしかないけど、初めてだしこんなものかな? うまく発動できてよかったよかった。



 ……ちなみに、余談だけど魔法で生成されたものには基本、微弱な『魔力感知』の性質が組み込まれている。じゃないと誰が発動したのか判断できないからだ。同様に、『魔力形状記憶』なんて性質もあったりする。


 創り上げた土人形の姿は、指のない手足に、首が無く胴体と頭が一体化しているものだった。どう見ても人型とは言えず、人を模した何かだ。…………まあ、初めてだしそんなもんだよね!

「……歩け」

 簡単な命令を一つ。土人形はのっそりのっそりと一歩をぎこちなく踏み出す。

 緩慢な動作ではあるけれど、確かに命令を聞いて動いた。

 けれど、その場をぐるぐると歩き回らせてたら、十周ほどでぱたりと倒れて、そのままさらさらと体を構成していた土が崩れてしまった。

 …………ありゃ、もったのは十分程度か。ま、改善点だらけだし、最初としては上出来かな。あとは改良次第……。

 片っ端からメモして、ついでにクレスもやってみれば? と誘う。

「……」

 地面にクレスの陣が浮かび上がる。え、魔法じゃなくて魔術ですか……?


 陣から生成されたのは、向こうまで透き通るぐらい澄んだ水で構成された蛇。1フォル近い長さの胴体は空中を泳いで、クレスの体に纏わりついて、クレスに頬に擦り寄る。

「……?」

 =こんな、感じ?

 完成度高いですクレスさん。



 水蛇と視線がかち合う。先っぽの別れた舌を時折出しながら、私も蛇も視線を外さない。

「……」

「……」

「………………」

「………………」

「………………………」

「……………………」


 フイ


 先に折れたのは水蛇だった。勝った!

 水蛇がクレスから離れて、こっちに巻き付いてきてほっぺすりすり。

 おお! 意外とプニプニ、水だから冷たくて気持ちいいね。


 思う存分愛でていたら突然、水蛇の体がブルブルと震え始めた。あ、いやな予感。

 クレスが操作したのか、水蛇が体から離れると同時にパン、と音をたててはじけて消えてしまった。うわ、ちょっとかかった。

「……?」

 =大丈夫?

「ん、平気」

 水滴がかかっただけだからすぐに乾くし。

「クレス、魔法では作らないの?」

「……?(コテン)」

 =なんで?

「なんでって……」

「…………?」

 =魔術じゃ、ダメか?

「……駄目じゃない」

 うん。駄目ではないんだけど…………まあ、いいや。

 私も魔術方面に切り替えるかな……いやしかし、これ魔法の実験なわけだし……ん――どうしよう?



 どちらを実行すべきか考え始めた時、庭の方から馬のような嘶きと同時に、子供らの歓声が響いた。

 やれやれ、やっとご到着か。

「……行く?」

「…………」

 =どんな人

 院長先生がってこと? そういえばクレス会ったことないっけ。

 あの人は…………まあ、最後に会ったの二歳ぐらいだったもんなぁ。一言で説明するのメンドいし、百聞は一見に如かず。実物見せてから説明の方が早いな。

 クレスの手を引っ張って、建物の角からひょっこり顔をのぞかせる。


 庭の中にある森から続く道の上にある、馬? らしき生き物に繋がれた馬車の前に、大体四、五歳以上の少年少女が群がっていた。

 その馬車と子供の間に、女性が一人いる。

 遠目でもわかる見事な金髪に、尖った耳。彼女が院長先生――リリシア・ビスダムさん。

 ちなみに、名字の通り、ジール先生の奥さんである。見た目若いけど、あれで立派な二児の母らしく、子供はどちらも成人して自立してるとか。てかジール先生絡みの時点で、見た目通りの年齢なわけないよね。


 あ、そうそう、この世界での成人は大体十五、六歳。その歳を越えたら孤児院を追い出されて、手に職見つけなければならないことになってる。まあ大体それまでに必要な技術は身に着けさせられてるから、そんなに苦労する人はいないらしい。



 院長先生の種族はプロース人ていう種の一族らしくて、この一族の人らは白い肌、淡い金髪に尖った長い耳、そしてとんでもなく長寿なのが特徴らしい。あれだ、前世風に言うならまんまエルフ? のような姿。

 ジール先生とは幼馴染同士って聞いたんで先生もその一族かと思ったんだけど、あの人髪は黒いわ肌は浅黒いわで(耳は知らないけど)、長寿ってとこしか共通点ないんだよなぁ。


「……あの人が、院長先生」

 クレスにも見えるようにどいて、対象を指差す。

「………………」

 =メルティアは、あの人苦手、なのか?

「どうして?」

「…………」

 =あまり、乗り気じゃない

 いや、まあ、苦手というか……メンドーなんだよね。

「あの人は…………」

 言いながら、また視線を馬車の方へ戻す。



 ――目の前に、院長先生の満面の笑みと胸元が広がってらっしゃいました。



 ………………………………はい?


 ガバッ


「ああ~ん! メルちゃんすっかり可愛くなっっちゃって!! 話には聞いてたけど予想以上だわっっ!!?!!?」


 ムギュ~



「………………………うぇ」

「……!?」

 苦しい。気管が絞まってる…………あ、クレスが助けてくれた。助かった。

「けほっ……」


「キャ――!! 君がクレスくんね!!? うわ、もうマジで激美少年! 二人揃うとペアのお人形さんみたい!?」


 代わりにクレスが次の生贄になってしまった。

 院長先生の勢いにおされて、クレスはビクついてる。表情は全く持って変わらず沈着冷静だけど、あれはもう完全に焦ってる。

 だからこの人に会うの嫌なんだよね。三年前も出くわす度にハイテンションで。挙句の果てにこっちがダウンしてる時でも興奮してくるから、最後の方にはベリーさんやジール先生に出禁くらってたし。その癖他の子らには大人しくて大人の寛容さも見せたりするのに。何故?

 おっと。クレスがいろいろと撫で繰り回されてる。そろそろ助けないと。クレスなんだかんだ言って人見知りの気があるし。



「後で二人に似合う服いっぱい持ってきたから着せ替えしましょうそうしましょう大丈夫二人なら絶対に似合うからそして皇帝のあんのヤローに私のファッションセンスの方が上だと見せつけてやりましょうあんのガキなーにが私の方が可愛い子に似合う服がわかるだこちとら何十年も子供見続けてんだ私の方がわかるに決まってんでしょ――――!!!!」


「ガキの前で何口走ってんだテメーは――――――!!?」


 スッパ――――――ンッ



 どうしよう。いろいろとつっこみたいところはあるんだけどとりあえず。


 救世主(夫さん)が現れた。


「いった――――!? ちょっとダーリン、数年ぶりに会う妻との久々の再会が抱擁でもチューでもなく頭への叩きってひどいじゃないもう!」

「ダーリン言うなつってんだろーが! 帰って来て早々、ガキの前でいらんこと喋る奴の対応なんざこれで充分だ。クレスにメルティアもわかっているだろうが、こいつの言うことの約四割は無視していい。聞くだけ無駄だ。馬車にこいつからの土産が積まれてるから、他のガキに混ざって見てこい」

「ええ――、私これからメルちゃんとクレスくんにいいことするのに…………」

「お・ま・え・は、これから俺達と会議だ!」

「えー、ケチ――!」

 あっという間に、院長先生はジール先生に首根っこを掴まれて引きずられていきました…………。て、『に』? あの人、『に』いいことするって言ってなかった?

「…………」

「…………」

 うん。考えることを放棄します。あれは多分四割に入るよね!


「行こっか」

「……(コクン)」

 なんとなく、クレスの手を握って並んで歩く。クレスも握り返してきたけれど、その手は少し震えていた。



 馬車を覗き込んだ子供が驚きの悲鳴をあげたのは、この数分後の事でした。



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