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異世界で新たな人生を  作者: ミト
幼少期
19/45

手紙

 怪鳥がクパリ、と嘴を開くのが、逆光のなか見えた気がした。

「……っ」

 グイ、と襟を引っ張られて床に伏せる。


 グェエエエエエエエエエエエエエ――ッ!!


「やかましいわこのアホ鳥が――!!」


 クェエエエエエエエエエエエエェ…………





 ………………………………。



 伏せていた頭をあげる。

 …………うん。まずは何が起きたかを言おうか。

 突然怪鳥が口を開いたと思ったら、とんでもない声量で鳴いた。

 それはもう、窓がビリビリと揺れるくらい。

 そして、その鳴き声を聞いてイラついたジール先生が、隣の部屋の窓から飛び出すと同時に、三十個ぐらいの陣を同時展開して、火炎弾を撃ち込んだ。

 わー凄い。私まだ同時展開は五つか六つくらいしかできないよ。

 まあそれはともかく。

 あわれ、怪鳥は火炎弾の直撃をくらって悲鳴をあげながら落下した。

 しかし、黒焦げの丸焼きになってないあたり、ジール先生も手加減してたり、怪鳥の方にも耐性があるようだ。

 地面に激突した怪鳥は目を回してジール先生に小突かれてる。


 あれ、空にいるときは逆光でよく見えなかったけど、改めて見たら、あの鳥、ヘルさんじゃん。


 ………………。


 え、なんだその不吉な名前はって?

 いやだから、あの怪鳥の名前だって。そうそう、あの全長5フォルぐらいの、猛禽類の名前。

 ヘルさんはどう見ても狩猟とか物資の運搬に向いてそうな見た目をしてるんだけど、役割は手紙の配達だったりする。ほら、背中の方に括り付けられてるちっさい荷物がそれ。

 え? 宝の持ち腐れだって? 私に言わないでよ。飼い主に言ってください。

 あ、避難してた子供たちもヘルさんだって気づいてわらわらと近づいてってる。

 ヘルさんは見た目は狂暴だけど、むやみやたらに人を襲ったりはしない(まあ、命令があれば別らしいけど)ので、子供にも大人気だ。今だって、動けないのをいいことに、何人かがよじ登っている。

 ああ、いや、あれは体のいい遊び場になってるだけだね。

 ヘルさんの背中に登った子が、括り付けられてる荷物を取り外して、ジール先生に渡した。

 ジール先生は中身を確かめたあと、ヘルさんで遊んでた子供たちを離れさせて、ヘルさんの顔に魔術で水をぶっかけた。


 クァアアアアアアアアア――ッ!?


「やかましい!」


 ボカッ


 クェエエエエエ…………


 ジール先生、鬼だねぇ……。誰だって、寝てるところに水かけられたら驚くって……。

 なのに悲鳴すらうるさいって殴るんだから、理不尽……。

 お。ジール先生がなんか指示を出してる。…………と思ったら、ヘルさんの姿が縮んだ。

 いやいや、ほんとに5フォルぐらいあった身長が、1フォルぐらいになったんだって。

 あいかわらずデカい鳥って認識は変わらないけど、それでもまあ、建物の中に入れるぐらいのサイズにはなったかな。

 しかし小さくなったせいで子供たちにもみくちゃにされて、さっきとは別の意味で悲鳴をあげている。私もあとでモフろうかな…………。

 ジール先生はと言えば、遊ばれてるヘルさんから幾分離れたところで、手紙を読んでる。

 ……………………あれ? 気のせいかな。読み進めていくにつれて、どんどんジール先生から不機嫌というか怒りのオーラが放たれているような………………あ、子供たちも近付いてませんねてことは気のせいではありませんねハイ。

 グシャ、という音がこちらにまで聞こえてきそうな勢いで、読み終わった手紙を手の中で潰して、ジール先生は暗雲を背負ったまま、複雑な、ほんとーに複雑そうな表情でこちらに大股歩きで近付いてくる。

「……」


 クイ、クイ


「クレス?」

 クレスに腕を引っ張られて、窓際から離れて本棚へ。

 直後、どの位置からジャンプしたのか、ジール先生が文字通り窓から、飛び込んできた。いや、まあそりゃジール先生なら長距離の跳躍も難なく出来るでしょうけど。私は一度でいいからジール先生でも不可能なことを見てみたい。

 書庫に飛び込んできたジール先生は、迷うことなく部屋の隅の一本脚のテーブルに設置されてる反響石を手に取った。

 反響石ってのは簡単に言えば放送用の道具。魔力を通すと確か……半径500フォルぐらいだったかな、その範囲内にある反響石全てから、言った内容が聞こえるというものだ。範囲内のもの全部だからちまちま細かい指定は出来ないんだけど、こういう風に全体に伝えたいときは便利だ。

 さて、それでジール先生が全体放送で伝える内容は…………と、


「緊急連絡だ。館内にいるやつもいねえやつも全員聞け!」

 初っ端から命令口調だった。


「まずキドゥ、朝までに山で獣狩って肉を調達して来い! ルックは罠の解除しとけ! 全部徹底的に壊されんぞ! ベリーは宴の仕込みしとけ! イベルはペット避難させとけ、無駄な怪我するぞ! 残りは全員館内の大掃除だ! ――――ああ、それとガキども、喜べ」


 つんつん


 クレスにつっつかれた。何…………。

 手渡されたのは、グシャグシャになった手紙。って、ジール先生から取ってきたのかい? クレスさんよ。

「どれどれ……」

 中身は流し読みでスルー。多分、今一番重要なのは、最後の文。そこには……、


『明日帰ります。お土産期待しててね♡』


「――――明日、リリシアが帰ってくるぞ!」


 ……………………。


 一瞬の沈黙。直後、館内や庭、内外を問わず子供たちの歓声が響き渡った。

「……」

「……」


 あー、そっか、帰ってきちゃうんだ。


 ――リリシア・ビスダム。

 ここ、スフェック孤児院の院長先生の、約三年ぶりの、ご帰還だ……。

1フォル=1メートルぐらいです

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