のほほん危険人物
「そういえば~メリーちゃん、クーくんはどうしましたぁ?」
シャルさんがむしゃむしゃと食事をしてる間に、部屋の中を簡単に掃除する。
「あ、その瓶は密閉してあるから氣をつけてくださいね~」
「……クレスは別。これはどこ?」
クレスは最近格闘術の授業も受けるようになった。今日も、同じ授業を受けているマークに引っ張られていった。私ももう少し強化した体に慣れたら受けてみたい。
「あら~、そうなんですかぁ? クチハの実は後ですりつぶすからぁ、わかりやすいところに置いといてくれますか~」
………………この人の間延びした口調どうにかならないかなあ。変に調子が狂うっていうか……。
「ところでメリーちゃ~ん」
「……?」
「この部屋にはなんの用事ですかぁ?」
ゴチッ
「…………」
思わず頭を棚にぶつけてしまった。
「……」
「あら? メリーちゃん駄目ですよぉ、それ振りかぶっちゃ。割れて気化したらメリーちゃん倒れちゃいますわ~」
「…………」
持っていた瓶は棚に戻す。
代わりに手近な本を手に取る。魔術も加えて勢いよく飛ばしたそれは、シャルさんの片手で持ったお盆によってあっさりと弾かれた。どうしてこの孤児院の大人達は皆こうも規格外過ぎるのかなあ。
「……草木の知識、教えてもらう約束……」
「……………………………………。
………………………………………………。
………………………………………………………あらあらぁ、そうそう! そういえばそういう話でしたねえ!」
……この人興味のないことはすぐに忘れるんだよね。この質問だって三回目だし。
「それで、前は何を話しましたっけぇ?」
「…………ヤワズの実の毒性と、その中和法について」
シャルさんはポンと、右手のこぶしで左の掌を叩く。
「それなら、実際に見てみましょう~!」
「……?」
突然何を言い出すこの人は。
シャルさんは善は急げとばかりにいそいそと立ち上がり、壁に掛けられていたどこかの鍵を手に取る。
「こちらですよ~」
シャルさんについて行くと、天井から吊るされている干した薬草のカーテンの向こうに、こじんまりとした扉があった(ちなみに、反対側にも扉があるんだけどそっちはシャルさんの寝室。あんまり使われてなかった)。
…………ここ、外からの出入口あったんだ……。
「いい天気です……。そろそろ咲く頃ですかね~」
「何が?」
「食人花です~」
「…………」
幻聴かな。今、シャルさんさらっととんでもないもの言わなかった?
シャルさんは相変わらずニコニコしてる。言い間違えってことはなさそう。
「咲きましたら~、花粉を回収しましょうねぇ。五秒で終わらせないと腕もがれてしまいますからぁ、気を付けてくださいね~」
え? これ手伝うパターン?
「あそこです~」
「……?」
シャルさんが指差した先には、木々が広がっているだけ…………あ? 今何か光った。
「あ…………」
近づいてみると、光った物の正体がわかった。
「大きい……!」
森の中に隠れるように、全面硝子(みたいな物)張りの温室があった。
「メリーちゃんは見たことありませんでしたか~? この温室はぁ、ボーリ石でできたものなんですよぅ」
ボーリ石……っていうとあれか、見る向きと角度によって透明になったり白くなったり、あるいは光に反応して周りの景色を映し出すっていう鉱石…………だったっけ?
なるほど、それなら遠目ではわからない。まさか近くにこんな大きな建物があったなんて、知らなかったな。
さすがは、何でもありな世界。前の世界じゃありえない物も普通に存在してるんだね……。
………………というか、常々思うけどこの孤児院、土地あり過ぎ……。
聞いた話じゃ、近くにある野菜畑や、山一つ越えた先の朝の訓練場だけでなく、ここら一帯の山や森も、ここの院長先生のものらしいし。
………………え、前々からそんな噂どっから仕入れてくるんだって?
二月に一回ぐらいにくる業者さん。
ここの孤児院出身らしくて、いろいろ教えてくれた。おしゃべりな人だけど、ここ出身なだけあって、身のこなしに隙がなかった。
外で迂闊なことを喋ってしまうってことはなさそう。
「メリーちゃ~ん? 入りますよ~」
いつの間にか温室の鍵を開けていたシャルさんが手招きする。
「今行く」
「入ったら~、すぐに左によってくださいねぇ」
入り口の戸を開けながら、シャルさんが釘をさしてくる。
「どうして?」
「入り口付近に~、防犯を兼ねて酸を吐き出す植物を植えてるんです~。もちろん酸も回収しますよ~? あれは特定の葉っぱと合わせて調合するとぉ、便利な腐食液になるんですぅ」
腐食液なんて普通に暮らしてたらまず使わない!…………多分。
どうしよう。今無性に帰って寝たい。クレスの顔見たい。
だって…………ねえ? どう見たって、怪我を免れられないルートじゃない!




