魔法とは
「いいかお前ら。そもそも魔法と魔術の違いはなんだ」
翌日。承諾したが面倒になった私はばっくれようとしたんだけど、怒ったジール先生の探索魔法によって見つかり、あっさり捕まってこってりしぼられた。そのせいで授業はお昼を挟んでからになった。くそう、四歳児にとってお昼過ぎは昼寝の時間。辛い。しかし私は逃げられないように紐で縛られてる。いつか絶対探索魔法妨害できるようになってやる。
そうして眠気と闘っている私たちに出された問題が、先程のジール先生の言葉だ。
「…………才能の有無?」
「……」
「それもある。だが魔術の才能が無い奴は、得てして魔法の方も才能のある奴と比べりゃ、それ程上手く出来るわけじゃねえことが多い」
「へー」
「……」
クレスは自分に答えを求められることが無いとわかっているので、完全に聞き役に回っている――ついでに参考書に隠れながら好きな本を読んでいるが。
「じゃあ、何?」
「もうちっと頭働かせろ」
スパン、とジール先生が丸めた紙で叩いてくる。紙だからさして痛くはないけどこの先生、なにかあったら口よりも先に手や魔法が出るよな。
「……そんなこと言われても。魔術はやったけど、魔法は読んだだけで実行してない」
ね? と確認すればクレスも頷く。
「常識を学べっつってんだろうが。普通は魔法を学んでないやつは魔術を施行できん」
なんでよ。確かに魔術はちょっと設定と具体的なイメージないと難しいかもしれないけど、それだって段階的に方法を思い浮かべれば……………………ん? 具体的なイメージ?
えーと、私魔術やるときどういうこと考えてたっけ。確か起こしたい事象を決めて、それがまず漫画みたいな状態で書かれているように思い浮かべて、それを徐々に平面から立体的に変えてリアルになるように変換していって(それこそ漫画の内容を3Dに変えて観るように)、そして最後に現実の風景にそれが起きているように想像して合わせて…………ってあれ、これって結構、前の世界の感覚に頼ってる?
え、じゃあそれがなかった場合、魔術は発動できない…………よね?
……んー、わからん。
私にとって、前世の知識と記憶は、最初からあった。それが無い状態、と言われても、想像は出来るが理解はできない。だって、私は最初から、知っていたからだ。逆に言えば、私は知らない状態を、知らない。それは、視力のいい人が、眼の見えない人の状態を、考えることは出来ても理解は出来ないのと同じことだ。同様に、眼の見えない人が眼の見える状態を思い浮かべることも(後天的な場合は除くとして)。
知らないことは理解できない。そうだ、『魔術の基礎知識』にも書いてあったことだ。
魔術に必要なのは、知識と、それを応用する想像力。
いきなり魔術を発動しようとしてもできないのは、起こる現象が『想像できない』から。想像が出来ないのは、どのように想像すればいいのか、『知らない』から。『知らない』ものは、設定すら出来ない。
対して魔法は、最初から起こる現象も設定も『決まって』いる。『魔法印』に書かれた術式の内容を『知らなく』ても『理解していなく』ても、発動できる。
つまり魔法と魔術の違いとは……、
「………………理解しているか否か?」
「理解が早くて何よりだ。四歳児とは思えんがな」
ジール先生は今度は特に怒鳴らず、ポンと頭を軽く小突いてきた。……若干気になることを言ったけど。
そりゃ、我ながら四歳児にあるまじき思考回路だとは自覚してるよ? 天才で通すにしても異常すぎるし。でもしょうがないじゃん。中身は成人女性なんだから。……精神年齢は前世とさよならした歳で止まってる気がするけど。
「お前が何を考えているかは知らんが、お前がどういう思考をしていようとどんな性格をしていようが俺はどうでもいい。どうせこの世界は、死者の復活以外は何でもアリだ」
そう告げるジール先生の眼は、本当に何も気にしていないようではあったけど、その代わりに、こちらに迷惑をかけんなら仕置きするからそこは忘れんじゃねーぞと、分厚い本を掴んでいる右手が、そう語っておりました……。
「……で、お前はこれで魔法と魔術の違いは理解できたな?」
「ん」
「じゃあ、本棚にある本から魔法印の基礎の形を覚えろ。ベースになる基礎魔法の魔法印を五種類。種類は問わん。何も見ずに零から描いて正確に発動出来たら次を教える」
「えー」
「文句は受けん。……次はお前だ、クレス。まあ、お前の場合は魔術を正確に理解していたわけではないだろうから、普通に魔法から学んで魔術を理解していけ」
「…………?(コクン)」
クレスが魔術を理解していない? けれどクレスって私よりも簡単に発動してたよね?
「こいつが発動したのは、水の魔術だろう?」
「? はい」
なんで知ってる? 見てたのか?
そんな疑問を感じ取ったのか、ジール先生はあっさり見てない、と答えた。
「こいつの種族を考えれば、簡単にわかる。あれは理解でなく本能で魔術を操るからな。だがそれ以外は、てんで普通の奴らと変わらん。ああ、クレス、お前は水以外の魔法印を三つ、発動しろ」
ジール先生はそう言って立ち上がると、開いていた本を閉じる。と同時に、私を椅子に縛り付けていた紐が床に落ちる。
「俺はこれから他のガキどもの授業があるから隣にいる。魔法の発動は外でやれ。室内を散らかしたら吊るす。……逃げようとしても無駄だからな」
物騒な捨て台詞を残してジール先生は書庫を出て行った。
…………一刻も早く妨害できるようになってやる!
……………………とは言ったものの、ジール先生は本当に容赦無かった。一通りの魔法の知識と技術を手に入れて、魔術の使用許可をもらうのに約1年。さらに念願の強化魔術を成功させるのには、それから半年もかかった。何度魔力枯渇と疲労と虚弱体質のせいで倒れたことか……。
しかし独学ではこの何倍かの時間がかかったのは明白。その点で言えば、感謝していないこともない。
けれどいまだにこの人の探索魔術を振り切れない。他の人のは振り切れるのに、何故? やっぱりここの大人は規格外過ぎる。そう言ったらジール先生に「お前が言うな」と言われた。
………………何故?
この後時間飛びますがその前に番外編と人物紹介なんかを載せたいと思います。




