先生
「…………で、おめーらはいったい何してやがった」
「……」
「……」
現在、正座中です。と言うのも、ジール先生に首根っこを掴まれて書庫に引きずられて、それからお説教タイム。正座って血の巡りが悪くなるから苦手なんだけど……。
大体ジール先生細身なくせに無駄に力強い。おかげで首と頭が痛いし。
ジール先生はこの孤児院における、教師的な立場の人だ(口は悪いけど)。基本的にこの施設では、六歳になるとこの人から字の読み書きや計算を学ぶ。いつかここを出た時に必要な技術と知識を教えておくのが、ここの方針だ。ちなみに技術としては、料理、裁縫、洗濯、掃除といった家事的なことから、魔法、格闘術、剣術、サバイバル術などの実践的なこと、はては読唇術、追跡術、鍵開け技術など諸々の……はっきり言ってどう考えても日常生活には必要のないものまで、望めば教えてくれる。
で、目の前のジール先生は技術の魔法も担当してるんで、当然、その分野に秀でてるわけで、もしかしたらばれるかなーって思ってたけど、やっぱりばれた。
それ以外ではジール先生は書庫の司書もしている。ただ出不精なうえに頭からすっぽりかぶった黒っぽい焦げ茶のローブのせいで、引き籠りのような印象が強い。普段からローブで顔を隠してるんで、ジール先生について知っていることは、髪が黒い、肌が浅黒い、見た目よりも歳を取っていることぐらいか。正確な歳は知らない。肌や力を見るに、二十代半ばのものに思えるけど、実際はこの孤児院設立の時からいた古株だそうだ。ちなみに、この孤児院が建てられたのは三十年ぐらい前だそうです。…………詐欺だ。
「おい」
「黙秘権を使用」
「……(コクン)」
「ふざけるな」
そりゃあどうにかして誤魔化そうとしてるんだから、冗談も言うよ。
「お前らは貸出禁止の本を持ち出して、何してやがった」
「読書」
ゴン。
「いっ……!?」
暴力反対。ま、この場合本だけど。
「もう一発くらうか?」
「嫌です」
「話せ」
話したくないで…………わかりましたわかりました話しますから実力行使しないでくださいこっちはただでさえ体が脆いんですから!
ちぇ、結局話すはめになった。もともと近いうちに話すつもりではあったけどさ。それだってある程度の見通しがついてからのはずだったのに。
話を聞き終えたジール先生はテーブルに突っ伏しそうな勢いでうなだれていた。てかいい加減足がきつい。床冷たいし足はしびれてるし。限界なので足崩した。クレスも。ジール先生は考え込んでてこっちの状態に気づいてない。今のうち。
「……おまえら」
「はい」
「……」
ジール先生は私たちから取り上げた『魔術の基礎知識』を手に取った。
「これの中身、理解できたか?」
「大体」
「……」
「クレスは?」
「…………、……(コテン)」
クレスは少し考えたあと、首を傾けた。
「…………なんて言った?」
「半々、だって」
ジール先生はクレスが喋らないことは最初っからわかっているので、端っから私に聞いてくる。なんでわかんないのかなぁ。
「…………ハァ」
「ジール先生?」
「魔術ってのは魔法についての修練を終えた奴らが、更なる修練と研鑽のために修得する技術だ。なのにお前らは……」
そこで大きなため息を一つ。
「なんでその過程すっ飛ばしていきなり魔術やってんだよ。なんでそれで成功してんだよ…………」
「できそうだったから」
「……(コクリ)」
「できそう、じゃねーよ。お前ら異常なことしてるの自覚しろ」
「……そんなに?」
思ったよりも面倒な事態。魔術とかは起こす結果の規模は置いとくとしても、理解自体はそう難しくはないはずなのに。
「…………わかった」
互いに顔を見合わせてキョトンとする私たちをみてどう思ったのか、ジール先生は立ち上がって私たちのそばに来ると、私とクレスの頭をそれぞれ片手でグワシと掴んだ。
「お前ら明日からこの時間にここに来い。魔法の基礎から常識まで、叩き込む」
「えー」
「えーじゃねえ。魔術は俺が許可出すまで使用禁止だ」
「やです」
「……(コクン)」
ギリギリ。
痛い痛い頭握らないでくださいマジで潰れる!
「……返事は?」
「…………はい」
「…………(コクリ)」
こうして、不本意ながら魔法の先生が出来ました。いいけどさ。
…………こうなったら貸出禁止区域を含む書庫中の本を読み漁ってやる。




