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異世界で「生まれ変わるなら、綺麗な人に……なりたい」そう願ったのに、美人だけが嫌われる。  作者: HARUHANA


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20/31

20.牽制のため

「……大臣。まだウェルネシカ側からも、ウォルティス伯爵令嬢からも返事は届いておりません」


 会議室に、沈黙が流れる。


「我々の目指す未来に、彼女なら有利な駒となるんだろう?」

「はい。美貌とは裏腹に、秘めた才能があるのは間違いありません。ですが、大使館にいる以上、我々の踏み込む余地がありません」


 集まった幾人もの役職が、顔を見合わせながら不満を口にする。


「顔で取り入っただけのやつに、才能なんてあるのか?」

「しかし彼女は、計画の一つをダメにした」

「そうだ。それに、大使の補佐が出来ているのも偶然ではあるまい」

「イースタンが名を馳せるには、駒は必要……それは、歴史が物語ってるだろ」

「大使が手放すだろうか……」

「取り込めぬなら切り捨てるべきでは?」

「馬鹿を言うな。ウェルネシカに渡したままでは損失だ」

「ですが、あの女は予測がつかない」

「……だからこそ価値がある」


 大臣が、一つ咳払いをした。


「此処に来ざるを得ない状況を作り出せ。同時に書簡も送れ」

「かしこまりました」


 再び静まり返った部屋に、響いた駆け足の音。

 一呼吸置いたのか、一拍置いてからノックが鳴った。


「失礼します。ウェルネシカ大使館のリク・ブレス大使がお見えです」

「大使が? 約束は、ないはずだが」

「はい……そのようにお伝えしたのですが、大臣に面会を希望されておりまして……」

「……無碍には出来ん。通せ」

「かしこまりました」

 

 一度閉じた扉が、再び開いた時。静かな足音が会議室へ響く。


 ウェルネシカ大使――リク・ブレス。

 柔らかな笑みを浮かべているにも関わらず、その場の誰一人として空気を緩めることが出来ない……。


「突然の訪問をお許しください」


 丁寧な礼から上げた顔は、まるで査問でも始まるかのような圧迫感。


「……いえ。しかし本日はどういったご用件で?」

 

 薄く汗が滲む額をハンカチで拭って、薄ら笑ってみせた。


「大したことではありません。ただ――少々、確認したいことがありまして」

「確認、ですか」

「ええ」


 リク大使が、視線をゆるやかに巡らせた。

 それだけで、会議室にいた数人が息を呑む。


「最近、我が大使館宛てに妙な問い合わせが増えておりまして」

「問い合わせ?」

「ウォルティス伯爵令嬢についてです」


 ……空気が止まった。

 しまった――と、誰かが顔に出したのを、彼は見逃さない。


「……随分と、彼女にご興味をお持ちのようだ」


 責めてもいない。怒鳴ってもいない。

 それなのに、背筋が冷える。


「い、いや……優秀な人材だと聞いておりますので」

「優秀、ですか。顔に似合わず能力がある、とでも? 今更、それにお気付きとは…」


 誰かが、椅子を僅かに鳴らす音だけが響いた。


 まさか……先程の会話を聞かれていたのか。

 そんな疑念が、一斉に脳裏を過った。


「ま、まさか。そのようなことを、我々が」

「そうですか。なら安心しました」


 安心したのは、どちらか……そんな台詞、口が裂けても言えない。静かな沈黙の後、リク大使はゆっくりと本題を落とした。


「彼女に、ここでどのような仕事を任せるおつもりなのか――それだけ確認したくて参りました」


 ――牽制だ。そう、ここにいる全員が理解した。下手に手を出せば、ウェルネシカは黙っていない。

 適当な答えを伝え、納得したのかリク大使が去った。


 重苦しい沈黙の中、大臣が深く息を吐く。


「……予定を変更する」

「ですが――」

「馬鹿者。あれは警告だ」


 額の汗を拭いながら、大臣が低く告げる。


「とにかく慎重にやれ。絶対に尻尾を掴ませるな」



 ***



「お帰りなさいませ」


 イースタン城の外で待機してたケイトが、頭を下げた。

 一人で来ても良かったが、牽制するなら、それなりの格好を見せなければならない。


「これで、大丈夫だろう」

「宜しかったのですか? アイリさんに何も伝えず来て……」

「どこで仕事をするか決めるのは、彼女だ。だが、イースタンを選ぶなら……僕じゃ守れない」


 どこへ行ったとしても応援したいと、本当に思ってる。だけど、願わくば――


「……行ってほしくは、ないけどね」


 思わず本音が漏れた。

 最初は、有能な人が埋もれてるのを見過ごせなかった。それなりの環境を与えれば、すぐ花開くのは分かっていたし、それがウェルネシカのためになるなら、と。

 だけど。蓋を開けてみれば、とても繊細で……だけど、芯がしっかりして……。知れば知るほど、放って置けない自分がいて。


「明日で、試用期間を終えますね」

「あぁ。明日の夕食前に、彼女に聞こうと思ってる」

「もう、気付いてるのではありませんか? ご自分の気持ちに」


 馬車に揺られながら、自分の手元をじっと見た。

 この感情に名前を付けたら何になるか……か。


「そう簡単に口に出来るほど、僕も子どもじゃない」


 彼女が側にいてくれたら……それだけで、良い――

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