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異世界で「生まれ変わるなら、綺麗な人に……なりたい」そう願ったのに、美人だけが嫌われる。  作者: HARUHANA


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15/31

15.風に乗った思い

 一つ呼吸を置いて、目の前に置いた資料のページをゆっくりと開いた。


 “美しい武器に、我々は敗北した“


 その一言から始まった歴史の一ページ。

 美しいと評判を呼んだヒリアに、当時の王ライオネルは夢中になった。美しい彼女を守るため、あらゆる知識を集め、あらゆる手段を講じた。

 そうして美しい子どもが生まれ、ライオネルは全てを手にした――ように見えた。


 しかし、ヒリアが愛されれば愛されるほど、周囲がどんどん壊れていく……。


 政治に利用され、止めても尚、続く絶望――


 終いには、美貌のせいで男を誑かし、国を歪めたと責め立てられた。

 ……そして、“美しい“という理由で、犯してもいない罪を着せられ……処刑された――


 彼女の最後の言葉。


『こんな事なら、美しくなんて……生まれたくなかった』



 次のページが、捲れない……。

 今は仕事中で、ここには多くの人が出入りしている。意に反して熱くなる目頭を抑えようとした時。


「今日は、ここまでにしますか?」


 リク様が、そっと机にハンカチを置いた。

 見上げたリク様が、心配そうに隣に立っている。瞬きした途端、ポツリと落ちた涙に、慌ててハンカチを押し当てた。


「……すいません。少し席を外します」


 それだけ告げて、執務室を飛び出した。

 自分の部屋に帰るでも、厠に行くでもない。

 ただ……上手く消化出来ない感情の行き場を探すために、庭園まで歩いてきただけ……ただそれだけ。


「せっかく声を掛けて下さったのに……」


 飛び出してしまった後悔。握りしめてたハンカチを見て、余計に涙が溢れた。

 自分でも分からない……。この涙は、資料を読んだ悲しみなのか、それとも……沢山優しさを貰ったリク様に応えられなかった涙なのか。


 暫く、庭園を眺めた。

 見上げた空に流れる、ゆっくりとした雲に想いを馳せた。


「リク様……私――」


 通り抜けた風に声ごと持って行かれる……。


「……ここにいましたか」


 落ち着いたリク様の声が、すぐ後ろから聞こえた。


「……リク様」

「少しは、落ち着きましたか?」

「はい……。仕事を置いて飛び出したりして、申し訳ありませんでした……」

「気にしていません。辛い仕事を押し付けたのは、僕ですから」

「……知りたかったんです、自分のルーツを。だけど現実は、想像よりももっと残酷でした」


 私の隣に座ったリク様が、小さく息を吐いた。


「僕は、それなりに高い地位にいますので、令嬢から声を掛けられることもあります」


 唐突に出てきた話に、返答の仕方が分からない。

 ……でも、それが事実ということだけは、分かる。年齢の割に落ち着いて、優しく、聡明で、それでいて整った顔立ち。令嬢が、放っておくはずがない。


「初めてイースタンに足を踏み入れた時、それで違和感を覚えました」

「え?」

「失礼ですが、ここだけ逆だったんです。一般的に綺麗と言われる人が、壁に立って地味なドレスを着ていました」

「あっ……」


 ……確かに。


「会議に行っても、外務部に行っても、状況は一緒でした。最初は、能力的に差が出る人種なのか……とも思いましたが、そんなことはなかった」


 当事者だった頃は、考えもしなかった。


「膨らんだ違和感に、一石を投じたのがアイリさん、貴女でした」

「私が、ですか?」

「声を掛けた、領主会議です。目立たぬよう、机の下から書類を的確に出して行く姿を見ていました。あれは、細部まで予想していないと出来ない準備の仕方です」


 どんな質問にも的確に答えなければいけない。それが、領を守るための手段だったから。


「どうして、国全体がこんな習慣になったのか、僕は貴女となら解明出来ると思っています」

「リク様……」

「正しませんか? 誰もが正当に評価されるように」

「……出来るでしょうか」

「当たって砕けろ」

「え……?」

「そういう言葉があります。何事もやってみて、ダメなら次を考えれば良い……失敗したって、終わりではありません」


 失敗したって……終わりじゃない。

 誰もが正当に評価される、そんな国になったら……私は、嬉しい。


「私……やります。やってみたいです」


 

 ***



 強く、熱いものが瞳の奥に見えた気がした。

 彼女は、いつだって強い。


「僕にもぜひ手伝わせて下さい」

「いつも、こんな私に勇気を下さって、ありがとうございます。リク様と出会えて、とっても幸せです」


 涙を浮かべながら、笑った。

 まただ……また、胸が痛くなる。どうにも、彼女の笑顔に弱い。


 暫くしても戻らない彼女を探そうと、庭園に着いた時。

 空を見上げて、思いに耽る彼女の言葉が風に乗ってきた。


「リク様、私……貴方がいなかったら――」


 その先は、風のせいで聞くことは出来なかった。それでも、少なくとも自分の存在が彼女の救いになってたら嬉しい、そう思った。

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