14.小さな告白
――結局、罰ゲームになってしまった。
金箔の乗ったデザートなんて、ズルい。
それでも……こんな優しい罰ゲームなら――
「……リク様?」
「どうぞ」
初めて……リク様のお部屋に入った。
落ち着いたシックな家具に、囲まれたリク様らしいお部屋。
「扉は、開けたままで良いですよ」
手招きされたソファへ、緊張の面持ちで座った。
「そんなに緊張しないで。ただ、貴女と話したかっただけなんです」
「私と……ですか?」
「はい。言ったでしょう? 安心をあげたいのだと」
優しい笑顔で笑うリク様に、思わずドキッとしてしまった。
……違う違う。ただ、お話しにきただけ。
「これは、僕が寝る前にいつも飲むお茶なんです」
そう言って、リク様自らお茶の準備を始めた。
「あの、私が――」
「ダメですよ、僕がもてなす番です。東方の国から取り寄せた、茶華と言うんです。お湯を注いで……」
「……わぁ!」
「名前の通り、花がゆっくり咲くんです」
「綺麗……」
ふわっと花が咲くと、一気に香りが広がる。
ただ座って、お茶を見てるだけなのに……心が軽くなるみたい。
「どうぞ」
注がれたカップを受け取り、瞳を閉じて香りを楽しんだ。優しい香りが、どこかリク様と重なる。
「リク様のようなお茶ですね……いただきます」
「……っ、」
「……美味しい」
……リク様。これのどこが、罰ゲームなんですか……?
***
『リク様のようなお茶』
その言葉に、思わず心臓が痛んだ。
罰ゲームなんて建前で、彼女にホッとしてもらえればそれで良かった。なのに、結局自分の方が癒され、満たされてる気がする。
それにしても……良い笑顔だ。
「アイリさんは、好きな季節ってありますか?」
「季節、そうですね……私は、春が好きです。冬から春に変わる穏やかな空気が好きです。リク様は?」
「僕は、冬が好きなんですよね。白い息とか雪とか、あとは布団から出たくなくなる……ところとか」
僕の言葉に、また彼女がクスッと笑った。
「確かに、ぬくぬくした布団から出れなくなりますね」
「学校が休みだったら……とか、仕事サボろうかな……とか考えて、いつも母に叱られてました」
「叱られても……冬が好きなんですか?」
「はい。好きなものは、好き。それで良いんです」
それで良い。どうか、伝わって欲しい――
「叱られても……好きでいて良いなら、私は……ぬいぐるみが、好きです。小さい頃、どうしても欲しくて両親にお願いしてみましたが、私には似合わないと叱られました。でも……好きなんです」
「それが、アイリさんの憧れだったんですね」
それから、お茶を飲み終えるまで会話を楽しんだ。
「お休み」を交わし、彼女がいなくなった。静まり返った部屋に、ふと笑いが溢れる。
「一人が楽だと、思ってたんだけどな」
そんな独り言を呟いたまま、眠りについたのだった。
――翌朝。
いつもの時間に、いつものように執務室へ入って行く。
何か違うと言えば、身体が軽いことだろうか。
別に、そんな気にするほどのものではない。
「おはよう」
数人の職員と顔を合わせ、奥の本棚にいた彼女にも挨拶をした。
「今日の大使……いつも以上に機嫌が良いな」
「何か良いことでもあったんだろ。そういえば……アイリさんも、心なしか明るいよな」
「……」
「……あれ?」
そんな会話が隅で繰り広げられてるとは知らず、今日の仕事を確認する。
貿易の収支報告、各国からの招待状、そして――
「アイリさん」
「は、はい」
本棚から小走りに来た彼女に、一枚の書面を手渡した。
手にとって見てる書面こそ、今一番解決しなければいけない案件。
「これは……」
「引き受けて貰えますか?」
すぐに返事が返ってこないのは、想定内。
それだけ、彼女自身にとって重く、覚悟が必要な仕事だから。
「……大丈夫です。やらせて下さい」
「貴方ならそう言ってくれると思いました。ケイトが資料を持ってきますので、少し待って下さい」
「分かりました」
……美貌の女ヒリアの事実を、彼女自身に暴いてもらう。自分を苦しめた根源。
もしかしたら、途中で手を引いてしまうことだってある。それでも……避けては通れない道だと、分かってるはずだ。
ケイトが、箱に詰められた資料を渡したのを確認して、僕は僕自身の仕事に取り掛かったのだった――




