13.ケイトの思考
今日得た情報を整理しながら、主人であるリク様の帰りを待つ。本来であれば、ガーデンパーティーに同行するはずだったが、急遽予定を変更した。
「……そろそろ着く頃か」
書き留めた書面を、リク様の机に置き、玄関まで移動する。別に、馬車の音が聞こえたわけでも、予知能力があるわけでもない。
ただ……そんな気がするだけ。
予想通り、少し玄関で待っていれば、大きな門を潜り抜けたウェルネシカの馬車が帰って来た。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。ケイト、今日の夕食は、彼女の好きな物を沢山用意してくれ」
「かしこまりました。料理長も腕がなりますね」
「あぁ。今、彼女とゲームをしてるんだ。罰ゲームに持って行きたくてね。それと――」
幾つか料理長への指示を聞いて、メモを取った。
「かしこまりました」
察するに、アイリさんに罰ゲームをさせたいのか。
……どんな罰ゲームなのか、とても気になる。まぁ、リク様の考えることだ。どうせ、アイリさんにとってご褒美にしかならないだろう。
「夕食が整いましたら、お呼びします」
二人それぞれの部屋に戻って行った。
アイリさんの照れた様な苦笑い、あれはあれで人気が出そうだ。リク様のあんな笑った顔、はかな令嬢が見れば卒倒だな。
とにかく、料理長は、張り切って腕を捲った。
鼻歌を交えながら次々に下準備が進んでいく。
……と、その前にリク様へ今日の報告をしに行こう。
「失礼します。リク様、今日の報告を――リク様?」
「あ、あぁ……すまない」
自分が置いた報告書を読んで、顔を強張らせていた。それもそうだ……だって――
「ケイト、これが事実なら……」
「はい。イースタンは、国ごと呪われている可能性があります。呪いよりも暗示、のようなものでしょうか?」
「……分からない。過去に実在した絶世の美女ヒリアによって、国が滅び……一度イースタンは消えた」
「そして、再び国を再建するために、国を覆う力によって被害者が生まれた……」
歴史上、悪女と呼ばれる存在は度々登場する。
頂点を弄び、他者を蹴落として地位を得る。
しかし……それを、何かしらの力でねじ伏せるとは。
「お伝えするんですか?」
「いや、もう少し様子を見たい。せっかく、笑って打ち解ける場が出来て来たんだ……今は、あの笑顔を崩したくない」
「解決の糸口を探します」
「ケイトの負担が大きすぎるだろ……」
「内偵もいますし、何より――」
幸せになって頂きたい。
多くの者が救われている様に、リク様自身にも。
「ん?」
「いえ、内偵もいます。それに、未来は明るいと信じています」
フッと、リク様が笑った。
そう……いつまでもそうやって笑っていて欲しい。
「そろそろ夕食も出来る頃でしょう。ゲームを、されているんでしたっけ」
「あぁ、彼女を甘やかすゲームだ」
「甘やかす?」
廊下を歩きながら、楽しそうに話をする。
「本人は、ここにきてから甘えっぱなしと言うんだ。甘えてるのは、どう考えても僕らなのに」
「確かに。それは言えてますね」
「だろ? もう少し解してあげようと思ってね」
「……随分と楽しそうですね」
「楽しいのは間違いない。僕自身も、ここに来てからずっと肩に力が入ってた気がするよ」
廊下の角を曲がると、食堂の扉の前にアイリさんが立っている。
入ろうか悩んでいるのか?
「どうされたのですか?」
「あっ……すいません。いつもなら中から声が聞こえていたので……先に入って良いのか悩んでしまいました」
「お待たせして申し訳ありませんでした。中へ、どうぞ」
扉を開け、ぺこりと頭を下げたアイリさんが、いつも通りの席に座ろうとしている。
「アイリさん、今日は少し楽しい食事にしませんか?」
リク様が、一枚のお皿を手渡した。
いつもならダイニングテーブルに置かれるはずの食事が、サイドテーブルにズラリと並べられ、大きなスプーンが添えられた。
「今日は、バイキングにしてみました」
「こんなに沢山のお料理……」
「料理長も楽しかったんでしょう。僕らの後に、使用人たちも同じようにバイキングを楽しんで貰いますから、残っても気にしないで下さいね」
「ありがとうございます。どれも、とっても美味しそう」
二人で会話しながら皿に盛り付けていく。
それにしても……この微笑ましい状況で、どうやって罰ゲームに持って行くのか?
何度かお皿が空になり、新しいお皿へ盛り付ける状況が続いた。リク様のことだ、きっと狙いを定めてると思ったが……思い違いだったか?
「アイリさん、デザートは如何ですか?」
「デザートもこんなに……どれもとっても可愛いですね。この光るのは、まさか――」
「金箔です。入手が難しい品ですが、今日は特別です」
「き、金箔!? あの……私は一つで……」
「もっと取って下さい。遠慮しなくて良いんですよ」
「で、でも……私ばかり頂くのも申し訳なくて……」
「アイリさん」
ぴたり、とリク様が動きを止めた。
「……あ」
しまった、と言いたそうな顔に、私も思わず口元を押さえた。
「今、自分を責めましたね?」
「えっ!? い、いえ、そんなつもりでは……!」
「残念。罰ゲーム決定です」
「そ、そんな……!」
これは……リク様の完璧な作戦勝ちだった。




