11.品とは何か
ガーデンパーティーは、想像以上に情報合戦の様で、リク様は引っ切り無しに挨拶を受けている。
そんな中で、ノースポーター王国から来たと言う外交官は、熱烈なまでに質問の嵐だった。しかも内容が……私のことばかり。
『領主会議の時に用意した資料は、一人で作ったのか』
『なぜ、リク大使を選んだのか』
『他にやりたい仕事は無いのか』
どの質問にも誠実に対応したつもりだけど……。
リク様は別の方と話しをされていたし……相手が満足行く答えになっていたか、確かめる術がない。
ただ、どんなに『ノースポーターで仕事をしませんか?』と問われても、全く心が動かなかった。
『私には、やるべき仕事があります』
少し誇らしげに言ってみせた。
少し前の自分では、考えられないくらい堂々と。
『諦めませんよ。また口説きにきます』
そう言って、去って行った。社交辞令も欠かさないとは、さすがだ。
「ふぅ……」
「疲れましたか?」
「いえ、大丈夫です」
「少し食べませんか? 実は、僕の好物がありまして」
再び手を腕に乗せられ、料理が並ぶテーブルへやって来た。ズラッと並べられた色とりどりの食事に、思わず声が出てしまう。
「……凄いです」
「これが、美味しいんですよ」
私の分まで取り分けて、空いてるテーブルへと運んできた。わざわさ椅子まで引いて、紳士的な振る舞い。
「これは、ビスケットの上にチーズと生ハムが乗っているんです。イースタンでは、どちらも手に入りにくいので食卓に出るのは限られるんです」
一口食べたリク様の口元から、サクッと楽しい音が聞こえた。頬張りながら笑う、お茶目なリク様に思わず笑ってしまう。
「……私も――サクッ」
ビスケットの割れる音と、口に広がるチーズと生ハムの味わいに、目を見開いてしまった。
リク様がお勧めするのも納得だ。
「美味しいです!」
「ですよね。見た目も可愛いし、ワインにも合うから好きなんです」
「色々なトッピングが合いそうですね」
「そうそう、ローストビーフにバジル――」
リク様が、言いかけた言葉を飲み込んで、私を覆う様に何かから庇った。
――バシャッ
「……っ、」
「申し訳ございません!」
……イースタン語。しかも、聞き覚えのある声……。
顔を上げてリク様を見ると、袖からポタポタとワインが溢れている。慌てて、ハンカチを取り出し、雫の飛んだリク様の顔にハンカチを当てた。
「リク様、お洋服が……」
「これくらい何ともありません。アイリさんのドレスは、無事ですか?」
「私は何ともありません。それよりリク様が――」
ワインを溢した当人が、わざとらしく言う。
「失礼。手が滑ってしまいました」
「……手が滑ったにしては、随分と真っ直ぐこちらへ来ましたね」
わざとらしく肩を竦めながら、男は口元だけで笑った。
給仕服を着てはいるものの、その訛りも、こちらを値踏みする視線も見覚えがある。
イースタン外務局――以前、監査資料の提出を渋っていた官僚の一人だ。
「大国ウェルネシカの大使が、まさかそんな品のない女性と公の場で同席とは……クスッ、実に微笑ましい」
「……」
――まずい……。
私を使って、リク様の評価を下げる気だ。
腹いせなのか、嫌がらのためにこの場を選ぶなんて。
「……失礼ですが」
居てもたっても居られず、声を上げた。
「品がないのは、どちらでしょう。このような場で、謝罪よりも嘲笑を優先するのがイースタン代表と思われる方が恥ずかしいです」
「なっ……」
「リク様は、私ではなく“イースタンの信用”を庇われたんです。ここでワインが掛かっていたら、管理も出来ない国と笑われるのは、イースタンですから」
静まり返る会場で、男は言葉に詰まり、周囲の他国の外交官達が冷めた目を向け始める。
「……なるほど」
周囲の誰かが、くすりと笑った。
『実に聡明なご令嬢だ。イースタンも、人材不足では無かったらしい』
聞き取れた人にだけ分かる、言葉の意味。
……イースタン側の外交官には伝わらない。
「リク様、着替えましょう」
「そうですね」
側にいたメイドさんにお願いして、部屋へ案内してもらった――
***
彼女が持ってきたタオルのおかげで、絨毯に染みを残さず済みそうだ。
僕があの場を収めても良かったのに……彼女は、震えながらも立ち上がった。その姿を側で見れただけで、今日来た価値があったかもしれない。
「こちらのお部屋をお使いください」
「ありがとうございます」
予備だと持参してくれてたシャツに着替えた。
室内にある水道でワインの染みと戦う彼女に、「ありがとう」と伝えた。すると、不意に肩を落とし僕に謝罪をするのだ。
「私のせいで……リク様にご不快な思いを……本当に申し訳ありませんでした。ケイト様となら、こうはならなかったでしょうに……」
「貴女は、何か誤解しています」
「……え?」
彼女の生い立ちと環境が、そう思わせてるのは重々承知している。
だけど、今大事にして欲しいのはそこじゃない。
「正しい正義と戦った。その事実だけで十分です」




