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完結編 第9話 違和感

任務当日。

朝の空気は、妙に静かだった。



「……早ぇな」


蒼真があくび混じりに呟いた。

まだ人の少ない通りに、白い息が溶けていく。


「お前が来るのが珍しいだけだ」

蓮は短く返し、装備の最終確認を続けている。

指先の動きに無駄がない。

「は?ちゃんと来てるだろ、俺」

「ギリギリでな」

「来てるだけマシだろ」

「……それで許されるのはお前だけだ」

淡々としたやり取り。

だが、どこか硬い。


「おはよーさん」

天馬がいつも通りの軽さで現れた。

手をひらひらと振りながら、3人の元へ歩いてくる。

「寝れたか?」

「まぁな」

「嘘つけ、顔に出てる」

「お前もな」

ふっと、小さく笑いが零れた。


その空気を——

紫苑が静かに断ち切った。


「……来たぞ」

全員の視線が自然と前を向く。


車列がゆっくりと近づいてきていた。

今回の警護対象——異国の大使を乗せた車だ。

配置につく。

指示通りの動き。

訓練通りの呼吸。

問題は、ない。


(……いや)

蓮は、ほんの一瞬だけ眉をひそめた。

今——

何か、視線を感じた気がした。

振り返る。

だが——

そこには、誰もいない。


「どうした」

天馬の声。

「……いや」

蓮は小さく首を振った。

「気のせいだ」

そう言いながらも、

胸の奥に、わずかな違和感が残った。

消えない。

理由も分からないまま、

それだけが、静かに沈んでいく。


警護期間は3日の予定だ。

初日は大使が国のお偉いさんと会合。

2日目は市中の演説パレード。

3日目の昼には帰国の段取りとなっている。


「…で、なんで俺たちはここに居るんだ」

「さあ?」

蓮が隣で眠そうにしている蒼真へ声をかけた。

蒼真、蓮は天音と橘と共に会合の場の警護担当となっていた。

葛城、天馬、紫苑は庭内警備にあたっている。

天音だけは椅子に腰掛け、国の重役や大使と穏やかに会話をしている。

更に驚くべきが…蒼真も大使の連れてきた双子の子供達と「あれ、久しぶり」等と軽口を叩いていた事だ。


—こいつの家…マジでヤバい家だった。


蓮は現実を処理しきれずにいた。

確かに神代久遠家はこの国の名家中の名家…。

だが、まさか…国の政治の一端までくい込んでいるとは思っていなかった。

俺なんかがこの場に居てもいいのだろうか。と思った時だ。

部屋の窓から見える木の影に人影の様な物が見えた。

—だが、すぐになくなる。


(…また、だ…)

最初から誰も居なかったみたいに、消えた。

橘さんに報告すべきだろうか?

いや、確証のない状態で報告しても

現場に混乱を招くだけかもしれない…。


会合は穏やかに進んだようだ。

大使と重役が握手をしていた。


会合終了後、交代の時間となり俺たちは休憩となった。


「で、蓮はなんでそんなに疲れてるんだ?」

「いや…あんな国家の会合見たら疲れるわ…」

「真面目だなー、内容聞く必要ないじゃん」

ジュースを飲みながら蒼真はケータイをいじっている。

誰かとメッセージのやり取りをしているようだ。

「ってか、こんな時に誰とやり取りしてんだよ」

「ん〜?双子の妹の方の陽菜。暇すぎて死にそうって言ってる」

その名前は…大使の子供の名前だ。

いや、なんで連絡先知ってるんだ、こいつは…。

「お前…そんな事バレたらヤバいぞ」

流石に天馬も重要な任務中に何、ナンパしてるんだと呆れている。

その表情には疲れも見えた。


「いや、昔から知ってた。ただ会う機会なかったからさ」

3人は目を丸くした。

(こいつ、今、平然ととんでもない事言ったぞ)

3人の心の声が重なった瞬間だった。



休憩後、配置につくと天馬は朝から時折感じる視線に気がついた。

大使を乗せた車を——射抜くような視線。

ただの視線じゃない。

“見られている”んじゃない。

——狙われている。

そう感じた瞬間、背筋がわずかに冷えた。

だが、それがどこからなのか、誰からなのか分からない。

気のせいだと、切り捨てるには---

妙に、感覚が生々しかった。


その夜、任務は何事もなく終わった。

はずだった。

だが——

“何も起きていないはずの一日”が、

一番記憶に残っていた。









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