完結編 第10話 戦場
—任務 2日目。
市中演説が無事に終わり、パレードへと移っていた。
この時間が1番怖い。と橘さんは話していた。
パレードの民衆、全員敵と思え。と言われた。
ザワザワした気配が多すぎる。
そんなタイミングで通信機にもノイズが入ってしまっている。
一瞬だけ、
“誰かの声”のようなものが混ざった気がした。
だが、すぐにノイズにかき消された。
民衆のケータイの影響かもしれないと、改善はシステム班が進めてはいるそうだが…。
蒼真、蓮はパレード後方、双子の乗る車を橘と警護。
天馬、紫苑は葛城、天音と共に前方の大使の乗る車の警護だ。
車の窓を開け、双子の妹は蒼真に時折、話しかける。
任務中なので蒼真は話し込む様子はなさそうだ。
そんな蒼真の目が一瞬、鋭くなった。
–ピピッ--ザザ………。
蒼真が通信機を使ったのが分かった。
だが、ノイズで声がかき消される。
—パンッ。
一発の銃声がパレード全体に響き渡った。
「……は?」
現実が、遅れてくる。
——パンッ、パンッ。
「伏せろ!!」
誰かの叫びと同時に、空気が弾けた。
悲鳴が上がる。
民衆が一斉に崩れ、押し合い、逃げ惑う。
さっきまで整っていた“列”は、一瞬でただの群衆に変わった。
「チッ……!」
蓮は即座に周囲を見渡した。
どこだ。
どこから撃ってる。
「通信は!?」
「ダメだ、ノイズで——ッ」
言葉が途中で途切れる。
耳障りなノイズが、すべてをかき消す。
——ピピッ…ザザッ……
「……くそっ」
視界の端で、一般人が倒れた。
血が、石畳に広がっていく。
「蓮!!後ろ!!」
蒼真の声だ。
反射で俺は振り向いた。
——影。
人混みの中に、明らかに“動きの違うやつ”がいた。
「いた——ッ!!」
蓮が踏み出した、その瞬間。
さらに銃声が重なる。
——パンッ、パンッ、パンッ。
「くっ……!」
「蓮、追うな!」
橘さんの声が響いた。
「蒼真!!車だ!!」
蒼真にも指示を出している。
「分かってる!!」
蒼真は即座に双子の乗る車へと駆けた。
さっきまでの軽さは、もう欠片もない。
「窓閉めろ!!頭下げろ!!」
乱暴に扉を叩き、叫ぶ。
「外に出るな!!絶対にだ!!」
その声は、完全に“守る側”のものだった。
——銃声は、前方からだった。
「……来るぞ」
天音の低い声。
その一言で、空気が変わる。
次の瞬間——
——ドンッ!!
爆ぜるような衝撃音と共に、車列の前方で煙が上がった。
「くそっ……!」
「前だ!!」
天馬が叫ぶと同時に、前へ飛び出そうとした。
「下がれ!!車から離れるな!!」
葛城が位置を取り、即座に防御のラインを作り
天馬が出すぎるのを防ごうとした。
紫苑は何も言わない。
だが——
その視線だけが、すでに敵を捉えていた。
「数は——?」
「多い……ッ」
民衆に紛れていた“それ”が、一斉に動いた。
フードを被った男たち。
一斉に構えられる銃口。
「チッ……完全に包囲かよ……!」
「想定内だ」
天音さんは一歩も動かず
その場に、立ったままだ。
全く焦りが感じられず、葛城はゾクリとした。
「——任務を遂行しろ」
静かな命令。
だが、逆らえない。
「……了解ッ!!」
天音の声を合図に天馬が踏み込み、
葛城が銃を構え、紫苑が一歩前に出る。
——パンッ!!
弾丸が地面を抉る。
「ちっ……!」
「前に出すぎるな、天馬!!」
「分かってますって!!」
軽口のようでいて、余裕はない。
葛城は天馬の焦りを感じていた。
—それ以上、前に出るな。
「……囲まれてるな」
紫苑が口を開いた。
その声に、感情はない。
だが——
その目だけが、わずかに揺れていた。
——パンッ!!
——パンッ!!
銃声が途切れずに響きわたる。
天音は刃を振り、弾丸を弾き落としている。
だが、その中に——
異質な“音”が混ざった。
——ダンッ。
「……来るぞ!!」
次の瞬間——
人混みを“割るように”、影が飛び出した。
「ッ!!」
一気に距離を詰めてくる。
速い。
手にしているのは——
銃じゃない。
——刃。
「近接かよ……!!」
葛城が舌打ちする。
「2人とも下がれ!!車から離れるな!!」
しかし、そんな葛城の声は2人には届いていなかった。
天馬が前に出ていた。
——キィンッ!!
金属音。
刃と刃がぶつかる。
「くっ……!」
重い。
想像以上に重い一撃。
大人の力が予想以上だと天馬は感じた。
-俺は、まだ守られている子供なのか?
「ただの暴徒じゃねぇな……!」
次々と、民衆の中から“それ”が現れる。
「紛れてやがったのか……!」
紫苑は動かない。
だが——
一歩、踏み出す。
——一閃。
何も言わず、ただ斬る。
まるで、止まれば終わってしまうかのように。
「……数が多い」
淡々とした声で紫苑は口を開いた。
だが、その言葉の意味は重い。
——その頃。
「チッ……マジで繋がんねぇな……!」
蒼真が舌打ちしながら通信機を叩く。
ノイズだけが返ってくる。
「……完全に切られてるな」
蓮は短く言い、視線だけを周囲へ走らせる。
「前線、ヤバいだろこれ……」
「分かってる」
一瞬の沈黙。
——だが。
前線ばかりを気にしているわけにはいかない。
「……行くぞ」
「おう」
2人の眼に迷いは、なかった。
次の瞬間——影が動いた。
民衆の流れに紛れていた敵が、一斉に動き出した。
——パンッ!!
蒼真が先に撃つ。
「右二人!!」
「見えてる」
蓮が踏み込み、振り抜く。
——キィンッ!!
だが、簡単に刃が弾かれてしまう。
その隙に——
「そこだ」
蒼真の二発目。
——パンッ!!
敵が崩れた。
その一瞬の隙に蓮が切り込んでいく。
「連携、いいじゃん」
「無駄口叩くな」
だが——
その動きに、迷いはない。
2人の呼吸が合っている。
「前、三!」
「任せろ」
蓮が前に出る。
——一閃。
躊躇がない。
「……やるな」
「そっちこそ」
軽く言葉を交わしながらも、
その動きは完全に“戦闘のそれ”だった。
橘は一瞬だけ、二人の方を見た。
(……あいつら)
敵を捌きながらも、
確実に、前へ進んでいる。
連携。
判断。
無駄のない動き。
(……成長したな)
ほんの僅かに、
口元が緩んだ。
だが次の瞬間——
「油断すんなよ、ガキ共」
再び、戦場へ意識を戻した。
—―守り抜く。
そして――
必ず、4人で戻る。




