完結編 第5話 対等でいたい
それはいつものように訓練をし、後片付けの時間だった。
片付け当番は蒼真と天馬の2人だった。
「なぁー天馬ぁ」
「どした?」
「ただ片付けても、つまんなくね?」
蒼真の悪い癖だ。
片付けがつまらないとは…。
毎度思う事だが、枠にハマらないというのはコイツの事だろう。
この規律ガチガチの場所でその規律を壊そうとする蒼真の発言が天馬は好きだった。
「じゃあさ…どっちが早く片付けられるか勝負しようぜ!」
天馬はニヤッと笑うと蒼真もニヤッとする。
「臨むところだ!」
そんな2人を倉庫の入口付近で見ている蓮と紫苑。
「「アイツらホント、ガキ」」
2人の声が重なった。
思わず、顔を見あって蓮と紫苑は笑ってしまった。
—バシャ!!
水音と共になぜか蓮は全身ずぶ濡れになっていた。
「…は?」
蓮は状況が理解できなかった。
隣に居たはずの紫苑はいつの間にか後方に居る。
蒼真を見ると、やべぇ。とフリーズ。
天馬も同じく、あちゃあ。とフリーズしている
たった数秒の間に2人は倉庫の中身をひっくり返した上に訓練用の水の入った銃を暴発させていた。
その時だ、橘が片付け終わったか〜?と倉庫へやってきてしまった。
「…お前達、これはどういう事だ」
橘さんが腕組みをし、仁王立ちする。
「ぁの…蒼真と天馬が…」
震えながら蓮が状況説明をしようとするが
「お前もだろ」
と一喝。
「なんで俺まで!」
「止めなかった」
正論だ。
「そしたら、紫苑も…って、居ねぇ!!」
紫苑はいつの間にか離れた場所で腹を抱えて笑いながらこちらを見ていた。
あいつのあの器用さはなんなんだ!と蓮は腹を立てた。
「蒼真、蓮2人で片付け、終わったらペナルティ、グランド30週!」
「ちょ!橘さん、天馬はぁ?!」
蒼真の異議申し立てだ。
なぜ、一緒に片付けをしていた天馬にお咎めがないのだと詰め寄った。
「……天馬居ないぞ?」
そう言われ、倉庫内を見渡す蒼真。
—居ない。
どこにも、居ない。
どこ行った!!と周囲に目をやると…。
紫苑の隣で笑顔で手を振っている。
「いや、忍びかよ…!!」
ちゃんとやれよ〜。と橘さんは去って行く。
仕方なく、蓮と片付けを始めると、2人が戻ってきた。
「ふざけんなよ、お前ら」
「器用すぎんだろーが」
文句を言うと、ペナルティは嫌だけど片付けは手伝うぞ。と天馬と紫苑も片付けに参加した。
「……なんで毎回こうなるんだ…つーか着替えてぇ」
「学習しろよ」
「これから走るんだから乾くじゃん」
「そうだ、片付けとくから走ってこいよ」
天馬が早く行ってこい。と倉庫から2人をつまみ出した。
蒼真は片付けしなくてラッキーと走り出したが
「なんっで、俺が走らなきゃいけねぇんだっ」
「橘教官の命令は絶対だろ〜」
巻き込まれただけだし、俺は被害者だ!
なんで毎回こうなる!と蓮はまだ文句を言っている。
「天馬的に言うと、今が楽しけりゃいいじゃん」
蒼真がさらっと言うが
「いや、納得いかねぇよ!」
とまだ怒っている。
不意に蒼真は走るのを辞めた。
「…なんだよ」
「お前はいつもそうだよなぁ?うじうじ文句ばっか」
蒼真は蓮を睨みつけた。
「ああ?お前らのせいで俺は巻き込まれてんだから当たり前だろーが」
「しつけーんだよ」
「お前はよ、天音さんの息子で一目置かれてるし、サボるクセに成績いいしよ、悪目立ちしたって平気だろうけどなぁ!俺はお前とは違うんだよ!お坊ちゃまがよぉ!」
蓮の”お坊ちゃま”と言う言葉を聞いた瞬間。
俺は蓮に殴りかかっていた。
蓮にだけは、なぜか呼ばれたくなかった。
「…っお前に、俺の何が分かんだよ!!」
礼儀、マナー、作法。
幼い頃から叩き込まれて育った。
天音と橘さんは別にどっちでもいいって言ってくれたけど
最低限は覚えておけ。と周りが許さなかった。
だから、成績がいいのなんて当たり前だ。
—だけど。
蓮の努力も見てる。
ゼロから礼儀、マナーを身につけて他の奴らを追い抜いた。
家柄なんて関係ないことを証明してくれた。
初めて、俺に向き合ってくれた。
—嫌い。
そう言ってくれた。
なのに、それなのに!!
「てめぇにだけは、”お坊ちゃま”なんて呼ばれたくねぇ!」
最後に一言吐き捨てて、俺は蓮から離れた。
止めに入ろうとしていた天馬に声を掛けられたが無視してしまった。
—誰とも話す気分じゃない。
「またやってるよあいつら」
ははっと天馬は喧嘩しだした2人を遠くから見ていた。
「……似た者同士だな」
…いや、蒼真が一方的に殴っている?
いつもと違う様子に俺は天馬と止めに入ろうと立ち上がった。
聞こえてきた「てめぇにだけは、”お坊ちゃま”なんて呼ばれたくねぇ!」という蒼真の叫び。
蓮が蒼真の地雷を踏んでしまったんだ…。
「生きてるか」
俺は蓮に声を掛けた。
「…死ぬかよ」
起き上がる蓮に手を貸してやった。
「……なぁ、なんであいつ、”お坊ちゃま”って呼ばれるのダメなんだ?」
「詳しくは知らねぇよ。でも蒼真の性格だ、”お坊ちゃま”なんてガラじゃねぇ」
俺はネタにするけどな。と紫苑が呟く。
蓮は何も言わずに黙り込んでしまった。
「……俺にだけは、呼ばれたくねぇって」
「…対等で居たいんだろ、蓮とは」
お前ら傍から見たら親友だからだろ。とは言わないでおいた。
火に油を注ぎそうだ。
蓮との喧嘩から、蒼真は講義をサボり、中庭にいた。
まだ、イライラしている。
「子供かよ」
紫苑の声が聞こえた。
「うるせぇ」
喧嘩してサボりかよ。と言いに来たんだろう。
つーか、こいつもサボったのか…?
紫苑がサボるなんて珍しい。
「蓮を許せよ」
「別に」
怒ってねぇし。とぽつりと呟いた。
怒ってたんじゃない。
悔しかったのか?
自分でも分からない。
「俺でもお前の気持ちなんて、分かんねぇんだからよ」
名家の子供として育ってきた紫苑でも分からない。
蓮に…俺がどう育って来たかなんて
分かるはずないのなんてわかってる。
それでも…。
「……お前ら似てるからなぁ」
「は?…似てねぇよ」
「そういう所だよ」
ふっと紫苑は笑った。
時々、紫苑の考えが分からない。
黙り込んでいると、紫苑が「お坊ちゃま、行くぞ」と言った。
一瞬、むっとしたけど、やっぱり蓮に言われたのとは違う。
—そういえば。
前に天音に「蓮は君にとって大切な存在になるよ」なんて言われた気がする。
—いや、やっぱり嫌いだ。
そんな事を考えると講義が終わったのか、他の訓練生も中庭に出てくるのが見えた。
蓮と天馬もいる。
「…悪かった」
蓮は一言だけ呟いた。
「………」
このまま、許さないことだって俺は出来る。
だけど…。
「二度と呼ぶなよ」
「俺も悪かったよ」
一応、謝まった方がいいだろう。
と、思ったのに。
–バキッ。
蓮に殴られた。
「これであいこな」
ふっと蓮が笑った。
天馬はなんで、そーなる。と頭を抱え
紫苑は本当に似た者同士…と呆れている。
(……対等って、そういう意味じゃねぇぞ、蓮)
心の中ではツッコミを入れていた。
—まぁ…確かにあいこだな。
「…わかったよ」
俺はにっと笑って蓮の目を見た。
蓮も笑って、天馬と蓮はほっとしたようだ。
「……なんか、大事な事、忘れてるかも」
天馬が呟いた。
「……ペナルティこなしてねぇ!!」
「倉庫の片付け終わってねぇ....!!」
「ヤバい!!!!」
各々が叫んだ瞬間だった。
構内放送が響く。
『久遠蒼真、黒瀬蓮、黒影天馬、本城紫苑、以上4名。今すぐ教官室へ来い』
低い、橘さんの声だった。
「「「「終わった」」」」
4人の声が重なった瞬間だった。
—喧嘩して、分かり合っていく。
怒られる時は4人一緒に。
それがいつもの俺達だった。




