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完結編 第3話 楽しいだけじゃ終われない


訓練場でいつものように俺たちは殺陣の練習だ。

自由にやっていいと教官の指示も出ていた。

「遅ぇぞ蒼真!」

竹刀を正確に振り下ろしてくる紫苑。

ホント、紫苑は戦闘センスがある。

「うるせぇ!!」

でも、俺だって遅い訳じゃねぇ!

「だから突っ込みすぎだって!」

一気に間合いを詰めた俺を見て天馬の声が響く。

「無駄な動きが多い」

蓮が淡々と言う。

「紫苑も」

あのクソ真面目…。

話し方まで最近、橘さんに似てきた。

冷静に分析されるとムカつくな。


「……黙れ」

紫苑が小さく吐き捨てた。

いつもの空気だ。

軽口叩きながらの訓練。

でも---この空気が俺は好きなんだよなぁ。


「——そこまでだ」

聞き覚えのない声が響いた。

その一言で、空気が止まった。


「……あ?」

俺は眉をひそめた。

全員の視線が、同じ方向へ向いた。


そこにいたのは——

偉そうに腕を組む一人の男。

「……」

無駄のない立ち姿。

ただ立っているだけなのに、妙な圧がある。

「遊びなら帰れ」

淡々とした声。

だが——

一切の隙がなかった。


「……誰だよ、あんた」

連盟本部でも見た事がない男だ。

しかも教官バッチもつけていない…..。


「葛城だ」

「今日から、お前らの4人の指導に入る」

「……は?」

空気が、さらに張り詰めた。

いつもは橘さんが指導してくれているのに

こいつは何者なんだ?

「教官じゃねぇのかよ」

俺は葛城を睨みつけた。

「違う」

「お前らと同じ、訓練生だ」


その言葉に——

一瞬、空気が揺れた。


「……先輩、ってことか」

天馬がぽつりと言う。

「二つ上だ」


それだけ言って、葛城は視線を動かし

俺達を一人ずつ、見る。


蒼真。

蓮。

紫苑。

天馬。


その目は——評価しているようで。

同時に、見透かしているようにも見えた。


「……」


「組め、2対2」

唐突な一言。


「蒼真、天馬」

「紫苑、蓮」


「え、なんでその組み分け?」

俺は首を傾げた。

今まで、俺が天馬と組んだ事もなければ

紫苑も蓮と組んだことも無い。


「いいからやれ」

拒否は許さない。

そんな空気だった。


「……チッ」

紫苑が舌打ちをした。


「…足引っ張んなよ、蓮」

「…お前こそな、紫苑」


ほんのわずかに、間があった。


もう一方では——

「やりにくいな」

俺は天馬に耳打ちした。

「そうか?」

天馬が笑う。

「……だって、あいつら性格悪いから、正確に攻撃してくんじゃん」

「なんとかなるだろ」

天馬のいい所はこの楽観的な所だ。

まぁ、確かに、何とかなるか。と竹刀を握り直した。


そして---開始の合図もなく。


葛城が一歩引いた瞬間——

戦いが始まった。


さっきまでとは違う。

空気が、重い。


「っ……!」

蒼真が一気が踏み込み、間合いを詰めた。


速い。

だが——


「甘ぇ」

蓮に攻撃が防がれる。

無駄がない。

正確すぎる動き。


「……面白ぇ」

蒼真が笑う。

思えば、蓮との対峙は最近は減っていた。

自然と橘さんに組まされていたからだ。

久しぶりで楽しい。



一方。


紫苑の動きは——

どこか、危うかった。

踏み込みが深い。

引きが遅い。


「紫苑!」

対峙していると言うのに天馬が声をかけた。

「……分かってる」

だが、止まらない。

別に天馬を負かそうなんて思ってない。

でも、崩したくもなる。

天馬なら、分かってくれる。

そう思いながら攻撃を繰り出し続けていた。


一瞬。

葛城の視線が、紫苑に向いた。

(……紫苑は、危ういな…)

「そこまで!」

葛城の声が響いた。

戦いが終わり全員が息を切らしていた。

実力の拮抗する相手同士だ。

一筋縄で勝負は決まらない。


「……悪くない」

葛城が呟く。

だが、その声に感情はない。


「だが——」


葛城が一歩、近づいてきた。


「今のままじゃ、死ぬ」


静かに。

ただ、それだけを言った。


誰も、返せなかった。

全員が楽しんでいたのを見抜かれていたのだ。


「……」


葛城は視線を外す。

「特に——」


一瞬だけ。

紫苑を見る。

「危ういな」

それだけ言って、背を向けた。


「……明日も来る」

「逃げるなよ」


そのまま、去っていく葛城の背中を

俺達は見送った。

「……なんだあの人」

蒼真が呟く。

「なんか、怖ぇな」

蓮も呟いた。

「でも……」

天馬が少し笑う。

「ちゃんと見てたな」

「……」

紫苑は、何も言わなかった。

ただ——

さっきの言葉だけが、残っていた。


(……危うい、か)


その言葉を、否定できなかった。



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