完結編 第2話 バカみたいな青春
訓練所の中庭。
「……なんで俺、こいつらといるんだっけ」
ぽつりと呟く。
目の前には——
「ははっ、だからさ!それはおかしいって!」
腹を抱えて笑う天馬。
「いや、お前の方がおかしいだろ」
呆れたように言う紫苑。
その隣で。
「……」
蓮が無言で立っていた。
「……いや、ほんとになんでだよ」
最初は——ただの偶然だったはずだ。
今でも蓮の事は嫌いだ。
戦闘以外でも学科、執事実務全てスマートにこなしやがる。
でも…負けたくない。
俺は授業にちゃんと着席することが増えた。
…サボって抜け出すことも多いけど。
気づけば、同じ場所にいて。
気づけば、同じ話をしていて。
そして今——
なぜか、当たり前のようにここにいる。
「蒼真、聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
適当に返した。
正直、聞いてなかった。
「絶対聞いてねぇだろ」
紫苑が呆れる。
こいつは…いつも突っかかってくるんだよな。
「つーかさ」
天馬がにやっと笑った。
「勝負しようぜ」
「いいじゃん」
俺は即答した。
面白そうな事には積極的だ。
「くだらねぇ」
紫苑がため息をつく。
「……やらない」
蓮がぼそりと呟く。
「お前、そういうとこだぞ」
俺はニヤリと笑いながら蓮をけしかける。
「逃げんのか?」
「……逃げてはいない」
「じゃあやれよ」
数秒の沈黙。
「……はぁ」
ここまでがいつもの流れだ。
次の瞬間。
全員、走り出していた。
「ちょっ、お前ら早ぇって!!」
「遅ぇぞ蒼真!」
「うるせぇ!!」
「……なんで俺まで……」
蓮も巻き込まれていた。
途中でぶつかり、押し合いになり——
「どけよ!!」
「お前がどけ!」
「やめろって!危ねぇって!!」
天馬が笑いながら止める。
「……バカか」
紫苑が呟く。
「お前もだろ」
蒼真が返す。
「違ぇよ」
そう言いながら、紫苑は誰よりも本気で走っていた。
こいつも負けず嫌いだ。
ようやく全員が止まる。
「はぁ……っ、はぁ……」
息を整えながら、その場に座り込む。
しばらく、誰も喋らなかった。
風の音だけが、静かに流れる。
「……バカだな、俺ら」
蒼真が笑いながら、ぽつりと呟く。
「ほんとにな」
天馬が笑う。
「くだらねぇ」
紫苑が肩をすくめる。
「……無駄な動きが多い」
蓮が淡々と言う。
「うるせぇ」
蒼真の一言で、また笑いが起きた。
「……でもさ」
天馬が、少しだけ空を見上げる。
「こういうの、嫌いじゃないだろ?」
一瞬の沈黙。
「……まぁな」
蒼真が答える。
紫苑は何も言わなかった。
だが、目を逸らさなかった。
蓮もまた、何も言わない。
けれど——
その場を離れようとはしなかった。
「……」
蒼真は、少しだけ視線を落とした。
(……悪くねぇか)
誰にも聞こえない、小さな本音。
大人達に囲まれて育った俺にはこいつら3人が
初めての友達ってやつなのかもな。
バカ騒ぎをして走り回って
訓練でも疲れているのに何やってんだか…。
紫苑は1人、寮の中庭にいた。
「また一人かよ」
天馬だ…。
部屋にいない俺を探してきたんだろう。
「……別に」
一瞬、天馬に視線を送ったが天馬はいつもと変わらない表情だ。
「今日さ、楽しそうだったじゃん」
「……くだらねぇだけだろ」
「でも笑ってた。お前が笑ってんの珍しいだろ」
確かに…笑っていた。
3人でくだらないことしてるのに…
ただのガキみたいに走り回って。
ーーでも…。
「……ああいうの、慣れてねぇんだよ」
「何が?」
天馬が首を傾げた。
誰とでもすぐに打ち解けてしまう天馬には
俺の悩みは分からないかもしれない。
でも、天馬は子供の頃からずっと一緒にいる親友だ。
天馬だけが俺から離れずに居てくれた。
「……ああやって、誰かといるの」
「いつか壊れるだろ」
風が吹いた。
天馬は何も言わず、少し考え込んでいた。
「壊れたら、その時考えればいいだろ」
「……は?」
「今楽しいなら、それでいいじゃん」
俺は何も言葉を返せなかった。
代わりに昔の記憶がよみがえった。
ーーー「また紫苑は…」
もう何度目か分からない喧嘩をしでかし、周りのやつらに愛想をつかされていた。
喧嘩をするたび、1人、また1人と俺から離れていく。
紫苑に近づくと危ない。
なんて、言われるようになっていた。
「別にいいじゃん」
「え…」
「人の価値観なんていいんだよ、紫苑」
天馬だった。
天馬はニコッと笑うと俺と手をつないでくれた。
「お前は離れんなよ、天馬」
「おう!」
「……お前、昔から変わってるよな」
紫苑は小さく呟いた。
「よく言われる」
ははっと天馬は笑った。
そうか…俺には天馬がこの先も居てくれるんだな。
天馬の明るさと気軽さに俺は救われているんだろうな…。
あいつらも…振り払っても離れてくれなさそうだ。
ーーーその時の俺たちは、まだ知らなかった。
この時間が——
二度と戻らないものになることを。




