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ヒカリを結ぶ完結編ーすべての始まり、その先へー  作者: HANA


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完結編第28話 置いて行かれる

車窓から入り込む風が気持ちいい。

橘教官の運転で蒼真は病院へと連行されていた。


昨日、1日休養をしていたにも関わらず、症状が悪化していた。

本人は1人で行くと言い張ったが、もちろんそんな許可が降りるはずもなく、車に乗るまでも蓮に支えられて歩いていた。


車に乗り込んでからは喋らずぼんやりと大人しくしている蒼真。

橘は、蒼真が黙るときは本当に辛い時と分かっているため、

特に何かを口にすることはなかった。


病院到着後、暴れることもなく素直に検査に応じた蒼真。

蒼真の検査中に橘は誠の精密検査の結果を聞きに離れていた。

検査を終えて、蒼真は点滴を打たれベッドで休んでいた。


「……置いていかれる…」

と謎の不安を呟いた。

「置いて行かねぇから、安心しろ」

橘が戻ってきた。

入院は免れたぞ。と蒼真を元気づけてくれる橘。


「…誠の結果、どうだったの」

「お前…自分の心配を少しはしろよ。…神経をやってるみたいだ…これ以上の回復は見込めないそうだ…」

橘はため息をつく。

誠の努力を橘も、もちろん知っている。

観察力の高さも評価している。

だが、今後の訓練、任務前線復帰は無理だろうという結論に至っていた。


「…後は本人次第だろう。前線に行けなくとも後方で支えることが出来るか…守るとは何かを誠が見つけられるかどうかだ」

「……そっか…」

蒼真は弱々しい声だったが、誠を橘が見捨てる気がないと分かり、安心したようだ。

「で、お前の事だが…」

「俺も聞いたよ。生活環境も刺激が多くて、それも悪化要因だって……帰り、家に送って」

「…そうか」


出来れば寮に帰りたかったであろう。

だが、あの環境では蒼真も焦るばかりで静養にもならないかも知れない。

加えて…うるさい後輩もいる。

自分で家に戻ると決めることができたのは蒼真の成長だろう。


「…でも、蓮は連れてきて。使用人さんより楽」

「大好きだな、蓮の事」

橘が笑う。

「嫌いだよ。…執事として扱き使うだけ」

蒼真は少し笑いながら橘を見つめた。

「この、クソガキが」

正直になれない蒼真を見て、橘もまた笑う。



「じゃ、休学届は俺が出しといてやるから、ゆっくり過ごせよ」

橘は車を神代家本邸玄関前に止め、見送る。

そのタイミングで蒼真の帰宅の連絡を受けていた使用人が1人出てくる。


「おかえりなさいませ」

「あ〜ただいまっ。…親父が帰ってきたら教えて」

それだけ伝えると、蒼真は部屋を目指す。

点滴で眩暈は少し良くなったが世界が回っていて、余計に部屋が遠く感じた。


ーわんっ!


飼い犬、シロだ。

蒼真の匂いを嗅ぎつけて来たのだろう。

遊んで!としっぽを振っている。

「ただいま…シロ」

元気のなさそうな蒼真を見てシロは静かに隣を歩いた。


「……暇だ」

シロと共に部屋へたどり着き、ベッドへ体を放り投げた。

親父が帰ってくるのは夜だろう。

なんか疲れたし、寝よ。と蒼真は目を閉じるとシロは蒼真にぴったりとくっつく。



気が付いた時には窓の外が暗くなっていた。

シロもいつの間にか居なくなっている。

ーコンコン。

ノックの音と共に扉が開き、天音の顔が見え、足元からシロが飛び出してくる。

お迎えの時間だったようだ。


「起きてたのか」

「ちょうど起きたところ」


シロがまた蒼真にぴったりとくっつく。


「シロはほんとに賢いね。蒼真の元気がないの分かってるし、私の帰宅もいつも迎えてくれるよ」

「…遊んでやりたいけどなー。ごめんな、今は無理だ…」

笑いながらも寂しそうな蒼真。

シロの頭を撫でながら天音の目を見た。


「……橘さんに聞いただろうけど…症状がいつまで続くか分かんない…治っても突発的に起こるかもしれない…。俺…正直怖い。ずっとこのままなのかもって…」


「…ずっと、世界が回っててさ、頭痛いし、気持ち悪いし…薬に頼んなきゃ、まともに歩けもしないんだよ…。こんなっ…弱い俺…前みたいに動けなくて…みんなに置いて行かれる」

気が付いたら、涙が溢れていた。

寮の部屋で誠と蓮と話したときは格好つけて

誠に今の状況で物事を考えるな。何て言ったけど…。


「蒼真…君は動ける自分に価値を置きすぎじゃないか?」

黙って聞いていた天音が口を開く。


「君を今、見捨てている人は居るか?」

「君を呼ぶ人は今は居ないのか」


蒼真は首を横に振った。

シロが唐突に動き出し、部屋から出て行ってしまった。

「…大和にも言ったんだろう?腕一本上がらないだけで、誠の価値を軽く扱うな、と。それが答えだよね?」


何も言わず、蒼真は頷いた。

答えが出ていることは分かっていたが、どうしても気持ちが焦る。

誰にも伝えきれない恐怖が父親には素直に伝えられる。


「走り続けて、止まってもいい。今は止まるときだ。分かったな」

「うん…。あのさ、誠の事なんだけど…卒業したら、橘さんの秘書とかどうかな…あいつ真面目だし、なんでも丁寧にやるし…ここに残りたいって気持ちのはずなんだ」

「そうだね…誠なら橘の右腕になるかも知れないな。…最終的な判断は本人がすることだし、俺も辞めろなんていうつもりもない。それは安心しなさい」


ようやく、ほっとした表情になる蒼真。

ーわぉん!と部屋の外からシロの鳴き声。

天音が扉を開けてやると、またも飛び出し、蒼真に寄り添うシロ。

そして…扉の向こうには蓮が立っていた。

何故か息を切らしている。


「…っはあっ…ここは城か?!迷宮か?!その犬…速すぎるんだよっ…走んなよ…っ…」

「「家だ」」

蒼真と天音の声が重なる。

「あと、犬の足が早いのも当たり前だろ」

蒼真が何言ってんだよ。と突っ込むと天音も笑う。


少し元気の戻った蒼真を見て、天音は胸を撫でおろした。

子供のころから走り回る子だった。

それが今は歩くことさえままならない。

苦しくないはずがない。

涙を流して悔しがるのも分かる。

でも…蓮がついていれば大丈夫だろう。


「さて…蓮も来たし…プリン、食べないか?」

「え、食べる」

「は?」

天音が手に持っていた袋を掲げた。

プリンと聞いて目を輝かせる蒼真。

総統がプリン?と目を丸くする蓮。


天音はそのまま床に座りプリンを出して蒼真と蓮に差し出した。

その時、再び部屋の扉が開く。


「遅くなった」

入ってきたのは橘だった。


「え?」

再び目を丸くする蓮。

「大和、プリン食べよう」

「またかよ…って、また高いの買いやがって」

「だって、この店の蒼真が好きだもん」

「天音は蒼真に甘すぎんだよ」

「流石、親父」


蓮は目の前で繰り広げられる天音と橘の会話に驚いていた。

橘教官が…天音総統にため口?

当たり前のように蒼真の部屋に来てプリン?

飼い犬も懐いてる?

蒼真が天音総統を親父呼び?

状況整理が追いつかない。


立ち尽くし、頭を抱えている蓮の姿を蒼真がニヤッと見ていた。


その頃…奏は…。

「蒼真さんも蓮さんも居ねぇ!!」

2人の寮の部屋へ侵入し、叫び声をあげていた。



数日後、改めて神代家の大きさに驚く蓮。

どこに何があるか全く分からず、家の中で何度も迷子になり

朝の身支度をする天音や橘を目撃した。

そして、蒼真の愛犬シロが迎えにやってくるのを繰り返していた。

使用人の人たちはシロ様がついてるなら大丈夫ですね。と笑っている。

もう、帰りたい。と思いながらも静かなこの環境なら

蒼真も休めるだろうと諦めた。


「…寝てるだけも暇だな」

シロの頭を撫でながら蒼真が呟く。

今日は体調が良いらしい。


「ってか、なんでお前、そんなに疲れてんの?」

隣でげっそりしている蓮に蒼真が問いかける。

「…犬に人間の尊厳を奪われてる感じだからだ」

「シロに失礼だろ」


シロは蓮の元に行くと撫でてと目を輝かせる。

道案内は任せてね。とでも言ってるようだ。


「で、薬飲んだのかよ」

「飲んだよ」

そこで蒼真は蓮の顔を見た。

……赤い?


「なぁ、蓮…お前、熱ある?」

「…ねぇよ」

確かに体はだるい。

慣れない環境で疲れてるだけだろうと思っていた。

蒼真は何も言わずに部屋の電話から使用人へ内線を掛けた。

すぐに使用人がやってきて、蒼真に手渡されたのは体温計だ。


「ほれ」

蓮へ体温計を渡し、測れ。という蒼真。

渋々受け取り、蓮は熱を図る。

ーピピッ。

体温計に表示される体温39℃


「壊れてる」

蓮が備品管理が甘いな。と鼻で笑う。

「壊れてねぇよ。寝ろ」

蒼真は無理やり蓮を自分のベッドへと放り込むとまた内線を掛ける。


少しするとまた使用人がやってきた。

「ありがとー」と蒼真は受け取ると氷枕を蓮の頭にセットし

水と薬を差し出す。


「飲めよ」

「…お前…何者だ」

「執事の訓練生だ」

熱で蓮は思考回路がおかしくなったようだ。

普段では考えられないほど、テキパキしている蒼真に違和感を感じる。

成績は確かに蒼真はいいが…育ちの良さも関係してたのか…と蓮は静かに目を閉じた。




どれくらい眠ったのだろうか…。

窓から夕日が差し込んでいる。


天音と橘が部屋に来ていて、蒼真と話しているみたいだ…。


「熱、測れ」

蓮が起きた事に気がついた蒼真は体温計を投げつける。

「投げんな」

文句を言う蓮だが、素直に測る。


ーピピッ。

37.7℃の表示を見ると、蒼真は氷枕を交換してやる。


「なんか、食う?橘さんが色々買ってきてくれたけど」

「……食う」

ずっと寝ていて、何も食べていなかったのでお腹は空いている。


「マヨネーズはないぞ」

橘が笑っている。

蓮も、マヨネーズの気分では…いや、本当はマヨネーズ欲しかった。

そんな事を言うと更に笑われそうなので、言わないでおく。


「熱、下がって来たようですね」

天音が優しく微笑む。

「…すいません、ご心配おかけして」

「蓮が疲れてたの、俺も気が付かなくて悪かった」

橘が頭を蓮に向けて下げた。

「いや橘さん、違います。…あの…家が広すぎて迷うし、なんか置いてあるもの全部が高そうだし…そっちの気疲れです…」

普通の家庭で育った蓮には馴染みのないものばかり。

確かに気疲れするなという方が無理だったかもしれない。

「まぁ、経験になると思えばいいんじゃないかな。今後、執事任務に着く際に役立つよ。うちでは別に家の中の物が壊れても気にしなくていいさ。蒼真が子供の時にねぇ…数億円の絵画に落書きされたからねぇ…」

遠い目をする天音。

普段なら、数億円ってなんだ。と突っ込んでしまいそうな蓮だが、そろそろ神代家に慣れたようだ。

レベルが違い過ぎて、通常で考えてはいけないのだと理解した。


橘と天音が、早目に2人とも寝ろ〜と言い残し部屋から出ていく。


そういえば、蒼真は俺が寝ている間、ちゃんと大人しくしてたんだろうか…。

シロが床に座ったままの蒼真を心配そうに見つめている。

蒼真の顔を蓮は覗き込んだ。

顔が…真っ青だ。


「おい…」

「……ヤバい…吐きそう…」


それだけ言うと、室内のトイレへ駆け込む蒼真。

その行動だけで、蒼真が1日、自分の看病をしてくれて居たのだとわかった。


「…ぉえ…ちくしょう…何で…ッ」

蓮の看病と言っても、必要な物は内線で取り寄せて長い距離も歩いてない。

疲れるような事なんてしてないのに、襲ってくる頭痛、吐気、目眩。

いつまでだ…いつまで耐えたら、この地獄は終わるんだ…。


フラフラとトイレから出て、そのまま床に座り込むとシロがやってくる。

蓮は蒼真へ水を差し出し、蒼真のベッドへ引きずって行き、寝かせる。


「寝ろ」

ひと言だけ言うと、蓮は自分のベッドを整え横になった。


2人の間に会話はなく時間だけが

静かに部屋に流れていく。

シロが2人の間を行ったり来たり。

早く元気になって遊ぼうね。と伝えているようだった。







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