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ヒカリを結ぶ完結編ーすべての始まり、その先へー  作者: HANA


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完結編第27話 ぐちゃぐちゃ

「訓練禁止だ」


奏と誠が帰ってから、しばらくして橘教官がやってきた。

蓮から橘と誠が出た後で回転性の目眩、頭痛、嘔吐も繰り返した事を聞くと、橘教官は即答だった。


「遅れてきた時もな、医師の許可もあるから、俺も許可したが…お前、医師にも嘘ついてんのか?」

鬼のような形相で橘が横になっている蒼真を睨みつける。

「…ついてないよ。今日は久しぶりに動いたからだよ…」

だから、訓練させてくれ。と蒼真は頼み込む。

「許可出来ん。やらせた俺も悪かったかもしれないが…とにかく、薬が必要なくなるまで禁止だ」

「はぁ?!薬が必要なくなるって、いつだよ!!」

「知らん!!どれだけ喚こうが絶対にダメだ。頭の怪我を甘く見るな!!」

「……クソッ…..。ぁ、蓮…バケツくれ」


ここでまさかの蒼真、再嘔吐。

ほら見ろ。と橘はため息をつく。


「蓮、悪いけど蒼真の事、頼む…隠れて訓練しかねない…」

「分かってます」

「……っていうか、今のは頭に響く怒鳴り声のせいだろ…」

バケツから顔を上げ、蒼真が呟く。

「頭痛もそんなに酷いんなら、なおさらダメだ」


橘も蒼真の気持ちが分からない訳ではないが、医師の許可が降りても、この状態では無理だろうとの判断だった。

訓練中も頭を押さえて休んでいる姿は、目に入っていた。

自分で調整しているなら…と思っていたが、無理をさせて回復を遅らせてしまう訳にはいかない。


「それで、誠から話は聞いたか?」

「…あれ以上、腕が上がることはないと…」

「加えて、関節可動域も狭い事がわかった…。今後の任務参加、訓練も厳しいな…」

「は?厳しいってなんだよ?!」

思わず蒼真は飛び起き、橘に近づこうと歩くが…いつもの症状で身体がフラつく。

瞬時に橘は蒼真の体を転倒しないように支え、座らせる。

「まだ、本人とも話していない。お前達が気がついたからな、先に話しておいた」

「…あいつが積んで来たもんは…あいつは…」

「頼むよ…腕一本上がらねぇ位で、誠の価値を軽く扱わないでくれ」

蒼真が真剣な目で橘を見つめた。

蓮は何も言わないが、蒼真と同意という事だろう。

蓮も真剣に橘を見つめていた。


「軽く扱うつもりなんて、ねぇよ、大丈夫だ」

大丈夫は2人の肩に手を置き、今日はもう寝ろ。と告げた。


「蒼真、明日は講座も休んでいいぞ。1回体調戻してからこい」

「サボ……マジで休み?」

「お前、今サボりを正当化しようとしただろ」

休む事とサボる事を同義ととらえる蒼真を蓮が一喝する。


「蓮、蒼真がまともになるまで行動一緒で、お前も休め。講座を受けんでも、お前ら成績いいから問題ねぇだろ。必要時には呼ぶ。奏の訓練は俺が見るから安心しろ」

そう告げると橘は部屋を後にした。

蓮も一緒かよ…と嘆く蒼真。

蓮は蒼真を1人にすれば確実に休まない事は入院中に分かったので、仕方ないかと納得する事にした。



ー翌朝5時。

蓮は日課のランニングだけは欠かさない。

この時間に蒼真も起きる事はない。

昨日の夜中、蒼真はあまり寝れておらず、嘔吐もしていた。

日中の疲れも出たのか、横になっても世界が回ってる。と言い出す始末。

薬を飲ませ、ようやく落ち着いたのは深夜2時を過ぎていた。


「蓮さん、俺…橘教官の指導めっちゃ怖いんすけど…」

隣で走る奏が、この世の終わりの表情をしている。


「……橘教官の指導は、分かりやすいし理論もちゃんと組み込まれてる。俺のなんかより、理解しやすいぞ」

自分も橘教官に指導を受け、育てられた。

クセの矯正、フォームの直し、筋肉から関節の使い方まで教えてくれる。


「蒼真がヘロヘロなうちに、強くなるチャンスと思え」

「ヘロヘロって…ぇ、橘教官って怒鳴ります?」

「怒鳴るのは、やらかした時だけだ」


蒼真に勝てるチャンスだと告げると、奏は目を輝かせた。

橘教官の指導が本当に怖い訳ではなく、奏以外の3人が訓練不在だからだろう。


ランニングを終え、部屋へ戻る蓮。

蒼真はやはりまだ寝ていた。

講座を休め、蒼真を見ろ。との命令だが、寝ている時間はやる事がない。

冷蔵庫から水を取り出し、喉へ流し込むと蓮は呟いた。


「…うるせぇのが静かだと、つまんねぇな…」





朝の訓練場の凛とした雰囲気が好きだ。

日中は活気溢れる声に満ちているのに、朝だけは静寂が満たす空間。


訓練は精密検査の結果が出るまで禁止と橘教官に告げられた誠。

しかし、習慣で朝は目が覚め、足が訓練場に向かった。


左腕を上げてみる。

やはり、上がらない。

どれだけ力を入れても上がらず、可動域も小さい。

真横に腕が伸びない。


「……なんで…」


もう、任務を任される事は無いかもしれない。

そしたら、僕がここに居る意味はなんだろう?

蒼真さんが大変な時に…僕まで迷惑をかけてしまっている…。


「……どうしよ…」


まだ誰もいない訓練場に誠の小さな声が響いた。






「……ヤバい、橘教官の指導めっちゃキツい…食欲さえも奪う…」

昼食時、午前の訓練が余程キツかったのか、奏はゲッソリとしていた。

箸も進まないようだ。


「奏さんが静かだ…」

そんな奏に誠は苦笑い。


ー訓練が出来るだけ、いいじゃないか。


自分の本音は心の中にしまっておいた。

口に出してしまえば、奏にも迷惑が掛かる。

あの時、自分のせいで怪我をさせてしまった。と何度も謝ってきた奏。

その責任から、1週間の入院も付き添いをし、退院後も片手で大変だろうと色々と手伝ってくれた。

そんな奏に誠はこれ以上の罪悪感を与えたくなかった。


「僕、蒼真さんと蓮さんにご飯届けてくるね」

食べ終わった誠は奏に告げる。

「俺も行く!」

奏は急にご飯を食べ出したが

「午後も講座と訓練あるんだから、ゆっくり食べて休みなよ」

と誠は笑った。

2人の名前を聞いて、元気が出る奏は分かりやすい。

橘教官から、今日は蒼真さんの体調優先日だからと聞いていた誠は奏が突撃しては迷惑だろうと阻止に成功した。



誠は2人の食事トレーを受け取り、カートで運ぶ。

途中で走ってきた蓮と合流した。


「誠、ありがとう。戻っても大丈夫だぞ?」

「いえ……あの、お2人にお話があって…」

蓮は頷くとカートを押すのを変わる。

そのまま静かに部屋へと向かう2人。



「おーやっと昼飯だぁー」

部屋で休んでいた蒼真が昼食に目を輝かせている。

誠から見ても、いつもの元気さではないのがよく分かった。

食事に手をつけてはいるが、いつもの蒼真の勢いのある食べ方ではなかった。


こんな時に…と誠は思ったが、奏が居ないチャンスも中々無いため、重い口を開いた。


「…蒼真さん…僕、どうしたらいいのか分からなくて…答えが出ないんです…」

蒼真は箸を止め、誠へ視線を向ける。

蓮も箸を止めた。


「やっぱり、左腕が上がらなくて…訓練禁止も出て…僕がここにいる意味が分からなくて…」

誠の声が震えている。

「…迷惑…かけるだけなら、辞めようかなって…っ…でも、やっぱりここに居たくて…」

涙を流しながら、誠は話した。


誠の感情はぐちゃぐちゃだ。

進みたいのに、その道が見つからない。

蒼真達に何も決まって居ないのに話して、2人を困らせるだけなのに。

分かっていても、不安だけが溢れる。


蒼真は箸を置き、腕を組んで少し考え込み、蓮を見た。

蓮は一瞬だけ、蒼真も視線を合わせたが、すぐに目を逸らした。

今のお前の方が、誠の気持ちは分かってやれるだろ。とでも言うようだ。


「……迷惑とかお前が思ってる程、誰も感じてない。あのバカ奏がそうじゃん」


「辞めるのなんて簡単だ…でも、逃げるな。泣くほど悔しいから、俺達の所に来たんだろ?…今の状況で物事決めるな」


涙の止まらない誠の目を見つめながら、蒼真が話す。


「俺だってさ…お前らに心配かけたくなかったけど……身体がついて来ねぇ…自分の意思だけでどうにかなるもんじゃないって思い知ったよ…」

蒼真は少し、頭を押さえた。


「いつまで、頭痛が続くか…目眩も吐き気もいつまでか分かんねぇ…収まっても、突発的に症状が出る事だってありえるらしい。それが任務中に起こるかも知れない…正直、怖いよ」

蒼真は遠くを見つめていた。


「訓練禁止も痛いよ。守りたいもん、守れなくなる感じがする…弱くなるって。でも、無理したら将来にも関わるって思うと、いう事聞くしかねぇし。…俺もぐちゃぐちゃだ。だからさ、一緒に探そうぜ」


蒼真が誠へ微笑みかけた。

「ありがとう…ございます…」

誠は涙を拭って、蒼真としっかりと視線を合わせた。

俺なんていま、世界が常に回ってて、立てねぇ。立てるの羨ましいと蒼真が笑う。


「寝ろ」

「寝てください…」

「飯食う」


そんな寝ろ、食うのやり取りをしていた時だ。

ばぁぁぁん!!と扉が開く。


「蒼真さーん!!プリン持ってきました!!」

奏が満面の笑みで立っている。


「ノックしろ、帰れ」

蓮はプリンを受け取ると奏の頭へゲンコツを落とす。

「だって!蒼真さんに朝から会ってない!!」

「お前の騒音で今死んだ」


奏がベッドを見ると、確かに頭を押さえてうずくまっている蒼真の姿。

誠がオロオロとどうしていいか分からずにいる。


「……ぁ、プリン、食べる…」


目が据わっている蒼真がプリンだけはよこせと喋ると、3人が笑顔になった瞬間だった。






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