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ヒカリを結ぶ完結編ーすべての始まり、その先へー  作者: HANA


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完結編第26話 何も変わらない

「唐揚げ、やっぱり美味ァ」


食堂の数量限定ランチの唐揚げに感動する蒼真。

1ヶ月半程、待ち望んだ瞬間だった。


奪還任務からなんだかんだ1ヶ月近くの入院となり、

(脱走したり、やらかしたり、医師の言う事聞かずに長引いた笑)

その後も体調管理の面から、油物は控えろ。と蓮と橘教官に止められていた。

むしろ、その言いつけを破り、体調も崩していたが…。

ようやく念願の唐揚げを頬張り、蒼真はニコニコ笑顔だ。

未だ頭痛の残る蒼真を蓮はまた体調崩すなよ。と顔色のチェックは怠らない。


「午後の訓練は蒼真さん、別メニューなんすよね?組手出来ないの残念す…」

「俺はやってもいいんだけどなー」

蒼真はチラッと蓮を見る。

こちらを睨みつけている。

今日からようやく訓練も軽いものは許可が出た所だ。ここで言う事を聞かないと、また病院送りになりかねない。と蒼真もようやく学習した。


「……やらん…。誠もやっと固定外れたんだろ?」

「はい、僕も今日の午後から蒼真さんと同じメニューです」

骨折した誠もようやく固定が外れ、左腕が身軽になっていた。


「飯も美味いし、訓練出来るから、ようやくいつも通り、か…」

蒼真は食べ終わったトレーを持ち、立ち上がると橘教官に呼ばれてるから、先に行くと立ち去る。


「蒼真さん、元気そうで良かったっす。あの時は本当にビビりました…」

奏は救護車両でぐったりと吐き続ける蒼真の姿を思い出していた。

今は元通り歩けていて、安心する。


「…あいつをあんまり煽るな」

蓮が立ち上がりながら奏に言う。


「医者の話だと後遺症が残ってて、まだ激しい運動は出来ないらしいからな」

蓮はそう言いながら食堂を後にした。



午後、訓練場はいつもの様に活気が溢れている。

誠は久しぶりの訓練場の空気を大きく吸った。

やっと帰ってこれた…。


他の訓練生が組手を開始する中、誠は橘教官の組んだ肩に負担をかけないメニューをこなす。

訓練開始から10分程過ぎた頃、蒼真が訓練場へと姿を表し、橘教官と少し話をすると誠の元へとやって来た。


「悪い、遅くなった!」

「いえ、何かあったんですか?」

「あー…バツ当番の掃除してたわ」

蒼真は頭を掻きながら笑った。

それから、誠と共に組まれたメニューを、やべぇ、体力落ちた…と休み休みこなしている。


蒼真は壁にもたれ掛かり、こめかみを押さえた。

薬を飲んで和らいだが、動く事で頭痛が起きてしまう。

(参ったな…こりゃ…)

そんな事を考えながら誠のシャドー練習を眺めていた。


誠のシャドーフォームが、違う。


「蓮!」

蒼真はすぐに蓮を呼びつけた。


「どうした?」

汗を拭いながら、蓮が駆け寄ってきた。


「誠、左のガードが上がってない。おかしい」

蒼真にそう言われ、蓮も誠へ目を向ける。

蒼真の言うように、誠の左ガードが低い。


「おい、左腕真っ直ぐあげてみろ」

蓮は誠へ近づくと指示を出す。


「……はい」

誠はゆっくりと腕を上げるが…

肩の少し下でとまってしまう。

確認すると、蓮は即座に橘教官へ声を掛けにゆく。


「…誠、痛むのか?それで上がんないのか?」

立ち尽くし、震えている誠へ蒼真が声を掛けるが

誠は黙ったまま、首を横に振る。


蓮が橘教官を連れて戻ってきた。

「誠、とりあえず病院、今から行くぞ」

震えている誠の右肩に橘が手を置く。

「おーい、みんな!今日は訓練終了!各自、自習なり、寮に戻るなり好きにしろー!」

訓練生達に指示を出すと橘は誠を連れ車へと急いだ。


「…痛みはないみたいだ…」

蒼真が蓮へと話しかける。

「……後遺症か…。とりあえず、部屋に戻るか」

「ぇ、お前、自習すると思った」

「薬はちゃんとあの後、飲んだのか」

「…飲んだよ。動くとダメだ」

「戻るぞ」

半強制的に蓮は蒼真を部屋へと連れ戻そうとしている。

薬はちゃんと飲んだようだが…昼食後より顔色が悪いのが分かる。

「…へーい」

素直に蒼真が歩き出した瞬間だ。

蒼真の視界が回り出す。

立って居られない、同時に強烈な吐き気。

思わず、蒼真はその場にしゃがみ込んだ。


「蒼真…肩貸すか?」

「……いや、奏が見てる…歩く、大丈夫」

確かに遠くで奏がこちらを見ている。

誠の事も気になるだろう、加えて座り込む蒼真。

居てもたってもいられなくなったのか奏がこちらへ走ってきた。

「蒼真さん、大丈夫すか?」

「……靴紐、解けただけ」

蒼真は心配する奏に笑って見せ、立ち上がり歩き出す。


「……奏、さっきの復習しっかりしとけ。誠の事は俺らもまだ分かんないから、後で橘さんに聞こう」

蓮は組手の際に注意した奏の癖の改善を自習時間にしろ。と指示し、蒼真を追いかけた。


「……あきらかに蒼真さん、具合悪いじゃん…」

奏は2人の背中に向け、ぽつりと呟いた。

一緒に任務をこなしたのに…。

教えてもらえない孤独感を感じて、2人を追いかけたいとも思ったが、蓮の指示に従う事にした。

時間はある。

後で部屋に行けばいい。




病院へ向かう車の中の空気は重かった。

誠は橘に怒鳴られるのではないかと不安だ。


固定が外れて、動かしてもよい許可が出たときから、腕は上がらなかった。

痺れも残っている。

ちゃんと報告をすべきだったのだろう…。


「腕上がんないのはいつからだ」

「固定が外れてからです…」

「何で言わなかった」

「……すいません….あと、痺れる感覚も残ってます…」

「そうか…復帰初回で蒼真が気がついたから良かったがな、無理して訓練続けて、腕の感覚が完全に無くなっちまう可能性だってあるんだ。だから、次から何かあればちゃんと言え。遠慮なんてするな」

「……はい」


橘の表情は横顔しか伺えなかった。

だが、どうしても話せなかった。

遠慮してしまった理由。

気がついた蒼真の事だ。


あの時の救護車両での姿。

病院に行きたくない。と言い張っていた時に…誠の処置終わるまでは絶対にここにいる。と言ってくれたのだ。

遠慮した訳じゃなかった。

ただ、重症の蒼真にこれ以上の心配をかけたくなくて、平気を装った。

腕が上がらないと、言わなかった。

体力が落ちた。といいながらも、何度も頭を押さえていた…。

蒼真も後遺症に悩んで居るのが分かってしまった。

これ以上、蒼真に心配をかけたくなかったのに、痛むのか?とまた心配をかけてしまった自分が情けない。





—トントン。

静かなノックの音だ。

誰が来たのかと、蓮は立ち上がり扉を開けるとそこには、奏と誠が立っていた。

2人が一緒に来る時は、いつも奏が扉をノックもせずに開け、誠は慌てて遅れて走ってくるのに珍しい。


「誠、病院終わったのか」

「はい…状態の説明、お2人に…いえ、奏さんにも3人に聞いてもらいたくて」

「…分かった」

そこでやっと奏が口を開く。

「俺は蒼真さんに話があります」


2人とも真っ直ぐな視線を蓮へ向けた。

「…入れ」

蓮は静かに2人を部屋へ招き入れた。


奏と誠が部屋に入ると横になっている蒼真が、ベッド脇のテーブルに置きっぱなしになっていた白い紙袋に手を伸ばし、布団に隠し、起き上がる。


「んーー…誠、病院どうだった?」

今まで、寝てました。という無理矢理な伸びをして、蒼真は2人を出迎える。

なんで、この人はここまでするんだ…と奏が顔を歪めた。


「蒼真さん、今の袋、薬ですよね」

「いや、お菓子の…」

蒼真の言葉を遮り、奏が話す。

「もう、俺ら2人には嘘ついて元気なフリ辞めてください」

「…いや、なんのことだよ?退院して、元気だよ」

元通りだ、大丈夫だよ。と蒼真が笑う。

「蒼真さんが、元気だろうが弱ってようが、俺らには先輩なんですよ。無理して笑うの辞めてください」

奏は真っ直ぐに蒼真を見ている。

蒼真が少し目を逸らした。


「…僕も同じです」

誠も奏と同じく蒼真を見つめる。

蒼真は2人の視線に耐えかね、俯く。

手で顔を覆い、少し考えると口を開いた。


「……この先さ、どれくらいの期間、頭痛とか目眩、吐き気が続くかは分からないんだ…。脳に損傷は無いって事なんだけど…重度の脳震盪だったみたいでさ…夜も寝れない日とかあんだよ…」

そこまで話すと蒼真はやっと2人へと視線を向けた。

蓮は何も言わず静かに聞いている。


「2人が、元気のない俺でも先輩だって言ってくれて、安心した。ありがとうな」

蒼真は少し微笑むとゴミ箱を手にとり、おえーっと盛大に吐き出した。


「やっぱ、無理してるんじゃないすか!」

「もう、蒼真さん、横になってください!」

2人が慌てて介抱を行った。


そんな3人の様子を蓮も安心したように見ていた。

誠の肩の話が聞きたい。と2人の声掛けでは横にならない蒼真を見かねて、蓮が「寝ろ」と低い声を響かせると、ようやく横になる蒼真。


「ったく…それで、肩はどうだ?」

蓮が誠を見つめた。

誠が重い口を開く。

「…日常生活には支障ありません。…リハビリをしても、これ以上…左腕が上がるようになる事はないとの医師の見解でした…」

誠は俯き、握りしめる拳が震えている。


あれだけ努力を積み重ねてきた誠だ。

悔しいだろう。

腕が上がらない…それは咄嗟の動きが小さくなり、任務の際の危険も増す。

この先に関わる問題だ。


「で、どうする」

だが、ここで甘やかす蓮ではない。

慰める必要などない事も分かっている。


「…まだ、先の事は考えきれてません。…橘教官も他の教官達と協議するとの事でした」

「まぁ、何も変わらねぇよ」

布団の中から蒼真が呟く。


ただ、蒼真の一言が誠には救いだった。

お前達がその答えはもう俺にくれてるだろ。

だから、何も変わらないと…。





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